第29話 着せるの速すぎ事件
私は美味しく
「そんなに喜んでくれるなら昨日も連れてくればよかった。」
上機嫌でしばらく歩いていると、エバンさんがニコニコして言った。私はそこでやっと少し恥ずかしくなって、あまり顔に出ないようにしないとなと思った。
「リオレッドでも食べられたらいいのに。」
本当はどうにかして輸入できないかって考えて考えないこともなかった。でもこの世界にはリーファーコンテナなんて存在してないし、そもそもそれ以前にまだ普通のコンテナですら出来ていない。
いつか、出来たらいいけどなあ~…。
そもそも作り方を教えてもらえないだろうか。
でもテムライムにだって最近できたお店なのに、そう簡単に教えてもらえないよな…。
「大丈夫だよ。」
またごちゃごちゃと考え始めていると、エバンさんが不意に言った。驚いてエバンさんの方を見上げると、彼はとても優しい目をして私を見ていた。
「明日もくればいい。何回だって、ここにくればいいんだから。」
確かにその通りだ。何回だって、来ればいい。
国が違うんだからそれって簡単なことじゃないって難しいことを考えがちな私は思ってしまうけど、エバンさんは当たり前のことを簡単に言ってみせた。
それはすごく簡単で、単純な事。
そんなことは分かっているはずなのに、数十年生きてしまった代償で、どうしても私は物事を難しく考えてしまう。
「そう、ですね。」
そんな私の考えを一刀両断するような彼のセリフが、なんだかじわっと暖かく心に響いた。
「次はどこいこっか。」
「え、えっと。」
「あ、そうだ。ドレスでも見に行ってみる?人気のお店があるんだ。」
エバンさんは相変わらずニコニコしながら言ってくれた。私は暖かい心のまま「はい!」と元気に返事をして、彼のたくましい背中を暖かい気持ちのまま追いかけた。
「ここだよ。」
それからしばらくすると、外から見ただけでどう見ても女の子のドレス屋さんってのが分かるお店に到着した。それなのにエバンさんはすごく慣れたようすで、その店のドアを開けた。
「キャロルさん。こんにちは。」
「あら、エバン坊ちゃま!お久しぶりですね!」
そしてこれまたお店の人が、慣れた様子でエバンさんに話しかけた。敷居も高そうだし店内はピンクや黄色で華やかにまとめられたどう見ても女の子の空間なのにと、違和感を覚えている自分がいた。
――――他の子と、来たのかな…。
え、待って待って。
もしかしてこれって、嫉妬?うそでしょ?
みっともない!
ってかエバンさんなんてこんなイケメンなんだから他の女の子連れてきたっておかしくないじゃん!何うぬぼてんの?!
調子に乗って…
「初めまして。」
「あ、えっと…。初めまして。リオレッド王国から参りました。アリア・サンチェスと申します。」
最近心の声が増えてきたする。
気をつけないとこうやって話しかけられたときいつもびっくりしてしまうなと、結局また心の中であれこれ考えてしまった。
すると女性は「キャロラインです」と自己紹介をした後、いくつかドレスを持ってきてくれた。
「お噂には聞いておりましたが、ほんっっとに美しいわ…っ!どれでも似合いそうだから着せたくなっちゃう。」
「うわぁ、可愛い!」
ドレスはドレスでも、デザインとか形がリオレッドとは少し違った。リオレッドのドレスのデザインにももちろん満足しているんだけど、やっぱり新しいものを見ると心が躍る。
「着てみますか?」
「はいっ!」
「それならこのイエローのものと…。こっちも似合いそうね。あとは…」
「キャロルさん、ほどほどにね。リアは仕事をしに来たんだ。」
エバンさんがけん制してくれるまで、キャロルさんは次々とドレスを手に持ってきた。でも私もどれも可愛くて選べなくて、しばらく2人でキャッキャと話しながら結局3着のドレスを着てみることになった。
「では、失礼しますね。」
「はい。」
あっちの世界では楽な格好をすることが多かったけど、こっちでは毎日一人では着られない服を身につけていなくてはならない。最初は苦しくてきつくてやってられないと思ったけど、それにももう慣れてしまった。
「最初はピンクのものから行きましょうか。」
「はい、お願いします。」
キャロルさんは当然だけど、私よりもっとなれた様子でドレスを着させてくれた。そして私がごちゃごちゃと物事を考える暇もないうちに「出来ました」と言って、鏡越しにニコッと笑った。
「え、はや…。」
いくらなんでも、早すぎるだろ。後ろのリボンちゃんと締めてくれてんの?はだけてこない?大丈夫?
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