第44話 お待ちかね!絵にかいたような悪者の登場っす!


私は固まったまま、目の前に立っているおじさんたちをボーっと眺めていた。しばらく見ていると真ん中にたっている偉いおじさんの胸辺りに、王族の紋章がついているのがわかった。


誰か分からないけど、すごく偉い人なのは確かだ。


私がぶつかったのは甲冑みたいなものをつけた騎士さんだったけど、その人だって偉い人のおつきの人なんだからすごい人に違いない。



それに気づいた私は急いで立ち上がって、例の作法のポーズをとった。



「申し訳、ございませんでした。」



心の中にいる大人の私が、思わずとても丁寧な言葉を話した。私が謝ってもそのおじさん軍団の皆さんは一言も言葉を発しなくて、これはやばいことをしたかもしれないとやっと自覚をし始めた。



「王子、この娘…。」



するとゴツゴツ甲冑じじいが、私を指さして言った。



え、王子って…。

あの、王子?!?プリンス?!?

リアリー?!??!?



私の中にいる私が焦りまくっていたけど、緊張のせいかそのまま姿勢を崩せなかった。



「お前。」



すると王子と呼ばれたおじさんが、私の目の前まで近づいてきた。そしておもむろに私の顎をもって、顔をあげさせた。



「お前が、サンチェス家の令嬢か。」



王子と呼ばれるにはそこそこの年をしたおじさんが、私をにらみつけていった。多分年で言ったら前世の私と同じくらいなんだろう。


なのにこんな扱いをされていることを不服には思ったものの、私は今は6歳で身分もそこそこだ。



心の中でしっかりとその事実を飲み込みながら、私はもう一度丁寧に作法の姿勢をとって、「はい。サンチェス家長女 アリア・サンチェスでございます」とあいさつをした。



「なるほどな。」



こんな態度だけど、あの王様の息子さんだからきっといい人なんだろう。

「色々ありがとう」とか「はじめまして」とか、そういう挨拶をしてくれるのかな。


私はどこかそんな期待を込めて、頭を下げ続けていた。すると王子は「フッ」と一度鼻で笑って、また一歩私の方に近づいた。



「…っ!」


その次の瞬間、頬に強い衝撃が走った。

何があったか訳が分からないまま私はふかふかの芝生に倒れこんでいて、頬が焼けそうなくらい熱くて痛かった。



―――なにがあった、今。



状況が読み込めないまま、私は頬をおさえて上をみた。

すると王子は冷たい顔をして私の方にまた近づいてきて、今度は髪の毛をつかんだ。



「…い、いた…っ。」

「この小汚い娘を父様は城に入らせたということか。」



冷たい目のまま、王子は私に顔を近づけていった。痛さと恐怖で私が涙目になっているにもかかわらず、王子は髪の毛をつかんだ手を離さなかった。



「その上誰の許可を取って、この敷地を走り回ってるんだ?」



そう言って王子は、髪の毛を振りまわして私を地面へとたたきつけた。痛くてみじめで、殴り返してやろうかとおもった。



「大変申し訳ございませんっ!」



その時、メイサが私と王子の間に割って入った。メイサは必死で頭を下げてくれていて、でもその体は震えていた。



「お前は…。」

「ここで家庭教師をさせていただいております。メイサ・グロリアと申します。わたくしの不注意のせいです。どうか罰はわたくしに…。」

「お前みたいなイヘンミに罪がかぶれるのか。」



王子は漫画でみたことのあるテンプレートみたいなクソ台詞を吐いて、今度はメイサの肩を押した。


ああ、みなさん。ここまでこの世界でいい人ばかりに出会ってきた私でしたが、ついに、絵にかいたような悪人に出会ってしまいました…。



少し調子に乗りすぎた。ここで死刑になったとしても、おかしくないのかもしれない。



次何をされるのか恐怖はしていたけど、大好きなメイサをこれ以上危険にさらすわけにはいかない。私はなんとか痛みをおさえて立ち上がって、王子に土下座でも何でもしようと思った。



そもそも、この世界で土下座は通用するんでしょうか。



「やめろっ!!」


するとその時、今まで後ろで震えていたアルが、今度はメイサと私の前に立ちはだかった。そしてアルは戦闘態勢を取ったあと、ゴツゴツ甲冑おじさんめがけて突進していった。



「アル…っ!!」



でも11歳がゴツゴツじじいにかなうわけなくて、アルはあっという間に飛ばされてしまった。



「やめて…!アル…っ!」


アルは身分が私たちからしたら高いとはいえ、この人たちは王族だし、それに11歳の彼が大人にかなうわけない。私は必死でアルの腕をつかんだけど、振り払われてしまった。



「うるせぇ!守るんだ!」



アルは何度倒されても、ゴツゴツおじさんに向かっていった。でも何度立ち向かってもアルは泥だらけになるだけで、ついにはおじさんに片手で持ち上げられてしまった。



「カルカロフ家の教育も、行き届いていないみたいだな。」



王子は片手で持ち上げられたアルの顎を持って、そう言った。それは私が一番恐れていた事態だった。


お世話になってもなりきれないカルカロフ家のみんなに、迷惑をかけてしまう。これではカルカロフ家がここから追い出されても仕方ない。



「王子様…っ!」



私はこの世で通用するかわからない土下座を、王子の前でした。謝ってなんとかなる問題じゃないのかもしれないけど、このままカルカロフ家に危害を加えさせるなんてあってはならない。


前世では土下座なんてする機会はなかったのに、私はお手本みたいなキレイな姿勢で、土下座をしてみせた。



「申し訳ございませんでした…!全てわたくしの責任です。ごめんなさい、なんでもします、だから…っ。」

「お前みたいな子どもに、何が出来るっていうんだ。」



王子は背筋の凍るような声を、私にあびせた。

その通り、子供の私には何もできない。このままこの人が好き勝手するのを眺めているしかないのか…。


何か策はないかと必死で練っていると、王子の足元が目に入ってきた。もう一度蹴られることを、私はそこで覚悟した。さっき叩かれた頬はまだジンジンと痛んでいて、口の中からは血の味がした。



もしかして私の2回目の人生、6年で終わるの…?



死すら覚悟して、私はゆっくりと目をつぶった。

たった6年だったけど、今回の人生も、悪くなかった。


っていうかこんなかわいそうな終わりなのに、天使は今回迎えに来てくれなかったな。



死の間際にあのうさん臭い天使のことを思い出していると、その時私の耳には、遠くから歩いてくる大勢の足音が、聞こえ始めた。

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