第19話 4歳のフリするのも、大変なんすよ


それからパパは、しばらく家に帰ってこなかった。

メイサやママの話を盗み聞きするところでは、パパはあれからイーサンおじさんにその話をしにいって、おじさんもノリノリだったっぽい。でかしたぞ、イーサン。



そしてその足で隣町を回って拠点を作ってきたはいいものの、やっぱり人員不足があだとなっているようで、パパは確保に走り回っているようだ。



やっぱそこか~。


最初から問題点だとは思っていたけど、実際周辺の街にも人材は不足しているのか。

だとしたら街で見たあの人たちに働いてもらうってのが一番だけど、そこに取り掛かるにはいささか時期尚早な気がする…。




そう簡単にはいかないよね~。



まだ私が菜月だったころには、よくネット通販を利用していた。注文した荷物が次の日に手元に届くなんて結構当たり前の話だったけど、たくさんの人の苦労の上に、あのシステムは成り立っていたんだなと、私は心底その人たちに感謝した。



「ただいま~!」

「パッパァ!」



人材確保するにはどうしたらいいか必死に考えながら今日の朝ご飯を食べていると、玄関の方から久しぶりに聞くパパの声が聞こえてきた。勢いよく椅子を降りて玄関の方へ向かうと、玄関には少し疲れた顔をしたパパとイーサンおじさんの姿が見えた。



「パパァ。おかえり~っ!」

「リア、ごめんな。あまり帰ってこれなくて。これ。」



パパは本当に申し訳ない顔をして、ワッフルせんべいを手渡してくれた。まるで飲んで帰って帰りにお土産を買って帰る、サラリーマンみたいだなと思った。



「おじさん、ごきげんよう。」




私はこないだメイサに教えてもらったこの世界流の挨拶を、イーサンおじさんに試してみた。するとおじさんは「リアちゃん、こんにちは」と言って、照れた顔で笑ってくれた。



「イーサンさん、お久しぶりです。」

「久しぶりだね、アシュリー。」



そこでようやく、ママがキッチンからやってきた。ママもパパが帰ってきてくれたおかげか少し柔らかい表情をしていて、ラブラブかよと思った。



「ただいま、アシュリー。すまないが、ちょっと部屋で仕事してるから。」

「ごめんね、少し借ります。」

「ええ、お構いなく。メイサ。お茶をお持ちして。」

「かしこまりました。」



集中して仕事をするべく、イーサンおじさんとパパはここに来たらしい。今の状況を知るためには、こんな絶好のチャンスを逃すわけにはいかない。私はメイサがお茶を届けるのにまぎれて、パパの部屋に潜入することにした。



「失礼します。」



ノックをして、メイサがお茶を運ぶためにドアを開けた。私はそのドアの隙間から誰にも気が付かれないように、部屋に入ろうと素早く動いた。



「リーーーーア!」


その時、後ろから誰かに服を引っ張られた。そこには当然ママが立っていて、鬼のような表情をしていた。



「パパの邪魔しちゃダメって、いつも言ってるでしょ!」

「だってぇえ!」



私は泣きべそをかきながら、それに抵抗してみせた。それでもママは服を離してくれなくて、「ダメ!」と怒った。



「今日はイーサンさんも来てらっしゃるんだから!」

「いやだぁ、パパと一緒がいいのぉ!いやぁあああ。」



正直こんな風にして泣くのは、恥ずかしさしかない。

私の精神年齢は何と言おうと33歳で、33歳が大声で泣きながら嫌だと言っている姿を想像したら、地獄でしかない。


でも私は4歳の仕事に徹するしかない。

一旦本物の自分の感情に蓋をして泣きわめいていると、パパがドアの方に向かってきてくれた。



「アシュリー、いいよ。俺が悪いんだ。」

「でも…。」

「リア、おいで。いい子に出来るもんね。」

「うん!リア、静かにしてる!」



ママはイーサンさんにも「すみません」と謝って、私には「静かにしてなさいよ」と怒った。私は心の中で「面倒かけてごめんね」とママに謝って、私の定位置ともいえるパパの膝にドカンと座った。


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