【勇者Side】ガランザ砂漠

 フェレール王国の王城にて休息を取った俺たちは国王から告げられた、ピラミッドのあるガランザ砂漠を目指して南へと歩を進めていた。道中、俺の後方に居るロズが生き生きとした様子で語る。


「ガランザか……10年ぶりだな。ここから南に進むと一つ村があってな?そこで水とかの物資を買い込もう。その村を最後に砂漠の国、レンデュールまでは町も村もないからな」

「やけに詳しいな。一人旅をしていた時に来ていたのか?」


 彼女にそう訪ねると、予想外の答えが帰ってきた。


「言ってなかったっけか。レンデュールはオレの産まれたトコでな、勇んで旅立ったら水が無くなって死にそうになったから覚えてただけだ」

「ロズさん、生まれ故郷のお話してくださいよ」

「おういいぞ、まずどれくらいの大きさかというとだな―――」


 彼女の話を要約するとこうだ。まず、大きさはフェレール王国等がある人間界の約1/4を占めてはいるがその9割が砂漠地帯の為、住居に適している場所はそう多くない。その中でもレンデュールはガランザ砂漠の中心にあるオアシスのそばにある国だそうだ。そして、今回の目的地、ピラミッドはレンデュールから更に南にあるのだという。


「レンデュールからも見えるほどデケェんだけどよ、ガキの頃から行ってみようとしたこたぁねぇな。生活の役に立つ物は何も無さそうだしよ」

「それでも金銀財宝ならあるのでは?」


 エルトの問いかけは一蹴される。


「別に生活に困ってたワケじゃなかったからその考えは無かったな。それに、そうやって息巻いて出ていった奴が戻った事は一度もねぇ。気候か、ピラミッド周辺の魔物に殺されたかのどっちかだろうけどよ」


 それっきり、俺たち4人の間に言葉は無かった。


 それからしばらくして、青々と広がっていた草原が途切れ始め、所々にゴツゴツとした岩が散見されるようになった頃、ロズの言っていた村が見えてきた。規模は小さく、区切りとして立てられた木製の柵の外周をぐるりと回っても10分も掛からないほどの狭い村だった。村には3、4軒の木造の家が立っている。そこからから察するに、住人は両手で数えられる位だろう。周りには岩が点在し、畑を構えるにも環境は悪い。なのに、どうしてここに暮らしているのだろうかという素朴な疑問が湧くが、その答えはすぐ分かる事になる。


「水一杯……3000ゼルゥ!?桁一つ多くないですかこれ!?それでも相場の30倍ですよ!?」


 エルトが珍しく、すっとんきょうな声をあげたのでその方向に目を向けると、商人らしき中年と口論になっていた。彼は大粒のルビーがあしらわれた金の首飾りを下げていた。それはこの村の規模とは似つかわしくなく、方法で稼いでいないことが見てとれた。ここら辺一帯は川もなく、村に井戸がないことから掘っても水は出ないのだろう。


 憤慨するエルトは、間に入るアリシアの制止を意に介さず商人へと食って掛かる。


「王都ではよくて20ゼルですよ!?ぼったくりにもほどがありますよ!!」

「そりゃあフェレールさんのとこは緑豊かですからねぇ。それにたいしてこっちは見渡す限り岩と砂。その日飲む水にありつけるかもわからないときたもんだ。それを踏まえると3000でも安いと思わないかい?お嬢ちゃんには難しすぎたかな?」


 せせら笑う商人とみるみるうちに顔を紅潮させるエルト。彼女はそのまま爆発するかと思いきや、踵を返して俺の元へと帰ってきた。入れ違いに俺の隣にいたロズが商人へと詰め寄った。


「なぁアンタ、どこ出身だ?」


 顔一つ分の距離で、ロズに睨まれた中年の商人はその白い顔をひきつらせる。


「わたし?わたしはレンデュール出身でですね……砂漠とは切っても切れない縁が……」

「ホラ吹いてるんじゃねぇよ」


 彼女はそう言うと彼に詰め寄る。そのせいで二人の顔はすでに拳一個分ほどの距離しか無くなっていた。


「こんな日焼けもろくすっぽしてねぇような肌で砂漠の民を名乗るな!どこからどう見てもてめぇは王都からでばって来たモンだろうが!そんな奴が値段を決める筋合いなぞねぇんだよ!」


 矢継ぎ早に繰り出される剣幕に商人の顔は白を通り越し、青くなっていた。気圧されて反論も出ないらしい。そんな彼を見て、ロズは先程の口調とは一転して落ち着き払った様子で言い放つ。


「水一杯300ゼル。レンデュールではこの値段だ。それなら買ってやる」

「ま、まいどあり……」

「ああ、それと日除け用の外套も。もちろんしてくれるよな?」

「え、ええ……」


 結局、彼が提示した水一杯の半分以下の値段で全員分の水と装備を揃えることができた。砂色の外套を羽織り、フードを目深に被ったロズが先導し、村を後にする。背中に感じる目線を無視しながら、遠目に見える岩と砂だらけの砂漠を目指して歩きだした。

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