第220話~EX級の力~
ボゴォッ! 輝久さんの拳が迷宮主の顔にモロに入る。掴んでいた迷宮主の腕を話した途端に輝久さんが【縮地】を使用したと勘違いするほどの速度だった。
傑さんも芽衣さんも動きを止める。輝久さんの邪魔になると判断したからだ。烈火さんと琴香さんは元から動けていなかったけど。
輝久さんと迷宮主が激しく殴り合う。そのほとんどは空振りだったが、時々頬を掠めて血が飛び散ったりした。
迷宮主が大振りの殴打を繰り出そうとした所を輝久さんは腰を落として避けると同時に蹴りを放つ。
「ふんっ!」
素早く跳躍して再び間合いを詰めた輝久さんが掌底を放つ。迷宮主の腹に強く打ちつけて鈍い音が聞こえた。
うん、強い。流石は元EX級第2席だ。しかもこれは素手での戦闘。腰に下がった武器を見る。思い出して欲しいが、輝久さんの武器は剣だ。
決して芽衣さんのように
キシャャャァァァッッッ!!!
それを何とか耐えきった迷宮主が今度は反撃を開始する。最初にノーモーションから蹴りを放ち、きちんと受け止めた輝久さんの腕を足場にして無理やり距離を取った。
と思いきや再び接近していく。一直線に飛んでくる獲物など簡単に叩き潰せる的だ。タイミングを合わせてカウンターを叩き込もうした輝久さんだったが、それは決まることなくモロに攻撃を受けることとなる。
「ぐっ!」
迷宮主が翅を利用して推進力を調節し、急停止してタイミングをズラしたのだ。それだけじゃない。進む方向を微調整しどうやってもちゃんとダメージが通らないようにしていた。あの一瞬でそこまで動けるのかよ……。
「いや、させないよ」
迷宮主が俺達の方に飛んで来ようとする。輝久さんはその足を掴んで俺たちの元に行かせない。そのまま掴んで地面に叩きつけようとした。
「なっ!?」
だが、迷宮主は自ら自分の脚を斬り落とした。S級迷宮の迷宮主だ。虫とかなら再生するのも当然のように思える。だが人型になっていた事でその感覚も緩んでいたのだろうか? 輝久さんにしては珍しい失敗だ。
烈火さんが魔法を発動させようとするがタイミング的に間に合わない。圧倒的に速度が遅すぎる。芽衣さんと傑さんが前に出た。
「うぉぉ! ぬぅ!?」
2人とも輝久さんが駆けつけるまでの時間稼ぎが目的だろう。大盾を前に構えてそのまま突進する。それに対し迷宮主は突撃してくる大盾の上部を掴むと傑さんを颯爽と交わした。
「はぁ!」
その後ろに隠れていた芽衣さんが
芽衣さんが使っていた篭手はA級の中でも最上級の迷宮主から採れた素材を使った武器のはずだ。なのに僅かにヒビが入って欠けていた。
そこまで威力のある攻撃を輝久さんは生身で受けていたのか。やはり万能系と呼ばれるに相応しい能力だろう。
迷宮主は次に俺……ではなく、その後ろにいる烈火さんと琴香さんを狙うつもりのようだ。天敵となる火力の元と生命線を絶とうとしてくる辺り、知能も非常に高いな。
「【縮地】っ!」
でもさせない。俺は牙狼月剣を構え、無駄なく最速の突きを打ち込む。迷宮主は手刀で迎え撃ち、僅かに拮抗する。だが、あえなく俺の方が押し負けた。
「烈火さん!」
「《
烈火さんの魔法がついに放たれる。俺の牙狼月剣を跳ね除けた腕を伸ばして受け止めた。
魔法はいとも簡単に無効化される。そしてついに迷宮主が琴香さん達の元へと舞い降りる。
「っ!?」
確実に息の根を止めようと細い腕が凄まじい速度で琴香さんの首へと伸びる。そして……魔道具の効果が発動した。魔法障壁が発生し、ほんの一瞬だけ迷宮主の攻撃が阻まれる。
「【縮地】! 【剛力】!」
その一瞬さえあれば俺は追いつける。幼虫だった時の迷宮主を斬り裂いた一撃だ。成虫になりたての迷宮主の腕にも、深く大きな斬り傷を付けた。
「よし、じゃあちょっとだけ本気出す」
不意に輝久さんのそんな声が聞こえた。チャキンッ、と音が聞こえると共に、俺が斬り落とすに至らなかった迷宮主の腕が爆ぜる。
「さぁ、第2ラウンドだ」
輝久さんがついに腰に下げていた剣を構えてそう呟く。迷宮主はちぎれ飛ぶを通り越して消滅してしまった己の右腕を睨みつけていたが、一瞬の間に再生させた。
「やっと輝久さんが本気を出してくれましたね」
「いや~、本当に死ぬかと思ったよ」
「悪趣味だわ~」
再び輝久さんと迷宮主の一騎打ちが始まる予感がしたかと思うと、烈火さんと傑さんに芽衣さんが何事も無かったかのように会話を始めた。
「え? どういう事ですか?」
「輝久さんはS級全員に1度あの迷宮主と直接戦わせるためにわざとこちらに向かわせたんだよ」
「はい!?」
「1番最初に戦って実力を確かめて、大丈夫って判定を下したんだ」
「空君は落ち着いて~、輝久さんが迷宮主を倒すところを見てれば良いわ」
「は、はい」
色々と聞きたいことはあるが、そう言われて俺と琴香さんは輝久さんの戦いを観戦する。衝撃で他のモンスターが現れるかと思ったけど、ハズクに聞いてみたがむしろ離れていってるらしい。
「いや、すごい」
思わず声を漏らした。だって輝久さんが剣を振るう度に強風が吹き荒れてるんだぜ? いや、もう衝撃波だよこれは。
迷宮主が
逆にこっちの攻撃が当たれば真っ二つに……ではなく途切れた方が爆散している。なんだそれは? 斬るという行為を超越したなにかだ。
「はは、だから逃がさないって」
己の圧倒的な不利を理解した迷宮主がなんとか離れようとするが、輝久さんはそれを許さない。酷ぇ、虐殺じゃないのかこれ? もうさっきまでの雰囲気が台無し。ギャグだよギャグ。
あれだけ俺たちを恐怖させた迷宮主の姿はどこにも無かった。輝久さんが本気を出せば最初から全ては終わっていたのだ。俺は今から起こる光景で全てを理解する。
「決めるぞ」
そう告げた輝久さんが連撃を叩き込む。一瞬のうちに四撃が迷宮主に放たれ、迷宮主の四肢が弾け飛ぶ。そして頭と胴体だけになった迷宮主を上空に蹴り飛ばした。
キシャァァァァッ!?!?!? と鳴き声が耳に届いた。虫にも痛覚があったのだろうか? それとも死の恐怖でも感じたのだろうか?
輝久さんが剣を平正眼の構えを取ったかと思いきや、そのまま剣身を自らの背後にまで持っていく。右足を下げた。穏やかで暖かい光のオーラが発生する。
「……【
ゆっくりと輝久さんが光を纏った剣を振り抜く。いや、めちゃくちゃ速かったはずだ。瞬きの間だったはずだ。でも、俺には走馬灯のように時間がゆっくりと流れているように見えた。
輝久さんが剣を振り抜くと光の筋が見えて、斬撃のように飛んで行った。レーザーの方が表現的には合ってるかもしれない。
迷宮主が久しぶりに糸を吐いて防御の膜を作る。成虫になっても出せるんだなおい。なんてツッコミをしているうちに迷宮主の防御はいとも簡単に破られた。
光の斬撃が迷宮主の身体を徐々に、塵も残さず消滅させる。薄暗い雲が割れ、陽の光が差し込んだ。照らしていたのはたった今、S級迷宮の迷宮主を殺した1人の探索者だ。
こうして日本に3年ぶりに出現したS級迷宮は、実質1人の探索者によって攻略されることとなった。
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S級迷宮の恐ろしさと日本最強の力のどっちを見せるか悩んだ結果、こうなった。
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