4章

第191話~悩みの種~

 おひさしぶりです、更新再開します。


 忘れている方に軽く説明すると、エルフ達の森がドラゴンに焼かれ、サリオンを身代わりに敗走した所です。



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 サリオンさんとの別れで流れた涙を袖で拭く。あの人は最後の最後まで師匠だった。いや、戦士長としても最高の人だろう。


 自らの命を賭して、自分以外のエルフ達全員を生き延びらせたのだ。俺が満身創痍でゲート前に現れた際の、エルフ達の顔はとてもじゃないが見ていられなかった。


 でも、見なくても分かる。おそらく全員泣いていた。すすり泣く声が、サリオンさんの戦闘音に混じって聞こえていたから。


 さぁ、帰ろう。日本に戻ることが、サリオンさんへの1番の恩返しなんだから。


 一番最初にゲートを潜ったのは琴香さんだ。順番などは普通の人やエルフ達にとって特に関係ない。だが、俺にだけはある。


 理由はエフィーだ。彼女は翔馬の静止を聞かずにゲートを潜った。心配しているだろう。他の探索者達に聞かれでもしたら終わる。


 だから琴香さんが始めに潜って翔馬を見つけ、俺がエフィーを押し付ける。エルフ達がいる事は他の人達へは良い撹乱になるだろう。そのまま有耶無耶に終わらせてしまうのが1番良い。


 翔馬がその場にいる全員にエフィーについて話しあり、その事を蒸し返されれば、それでも全部終わり……エフィーという存在の違和感がバレるかどうかについては、完全な賭け。


 昨日までその事について、すごく頭をひねった。けど確実に安全な策は思いつかなかった。……頼む、成功してくれ!



***



 ゲートを潜ると同時にエフィーが幼女サイズに肥大化する。琴香さんが翔馬を一瞬で見つけだし、俺は駆け寄ってくる翔馬にエフィーを押し付けた。



「え、あ、ちょっ!」


「悪い、話は後で聞くから。それと穂乃果のこと、忘れててごめん」


「ぁ……」



 あまりの速さと雑さに翔馬が取り乱しているが、今はその方が良い。俺は端的に約束を取り付け、思い出したことを伝えた。


 その一言に、翔馬の目が開かれる。なにか声をあげようとしたようだが、それは言葉にならない。ただ、翔馬の潤んだ瞳だけは目の端に捉えていた。



「は……?」



 ゲート前にいた関係者達から呆けたような声が漏れる。それもそうだ、特級迷宮から奇跡的に帰ってきた探索者達への歓声は静まり、その後ろにいるエルフ達に視線が注がれる。



「《岩壁ロックウォール》」



 大地さんは故郷を追われ、サリオンさんの死で憔悴した様子のエルフ達を嬉々として見つめる人達の視線を遮るように、岩の壁を作り上げた。


 エルフ達の傍には琴香さんが向かう。言葉が通じる人が近くにいるってすごく安心できるんだと、最上のおっさんに力説されたからな。



 ただし岩の壁をものともせず、真っ先に飛び出した人物が2人だけいる。まぁ、普通に知り合いで尚且つ近づく理由も理解出来たから見逃した。



「氷花ぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」


「…………ふん」



 烈火さんが氷花さんに駆け寄り飛び込むように抱きついた。氷花さんは思わず拳を握ったが、ギリギリの所で思い留まり顔を背けるだけに終わる。



「大地っ!」



 探索者組合の大本さんは顔なじみであり、マスターでもある大地さんの方へと向かっていた。エルフ達に一瞬視線を向けるが、敵意などはなさそうだった。



「彼らは……何故エルフ達がこちら側にいるんだ? いや、まずは無事を喜ぶべきか」


「それよりも、ここに居る者達への口止めと情報規制の方を頼む」


「当然だ。後でじっくり話を聞かせてもらうからな」



 大本さんは大地さんの元から去っていった。ちょっとした話をするつもりだったが、まぁ後でも良いか。



『ソラ、ここが人族の世界なのか? ゴホッゴホッ』


「あぁ。空気が悪くてごめんな」


『いや、そんな事は……あるな。でも文句は言わないよ』



 アムラスが咳をしながら、不安そうに尋ねてくる。エルフの里……と言うか異世界に比べて空気が悪いのは慣れてもらうしかないな。時間が経てば、山奥で暮らしたり異世界に戻れる方法もあるかもしれないけど。



「空、諸星社長が来てるぞ」



 最上のおっさんが耳打ちしてくれた。見ると壁の脇から入り込んだ諸星社長が大地さんの元へと向かう。



「栄咲君。事情を、説明してくれるね?」


「もちろんです諸星社長。とりあえず彼らは敵ではありません。もちろんモンスターでも」


「あぁ。今は大本君が情報規制のために働いてくれている。私の方でも集まってくれた探索者の方に解散の指示を出しておこう。ただし、後で裏切らないでくれよ?」



 大地さんが無言で頷く。諸星社長の最後の言葉はエルフ達が人間を襲うような真似をさせないでくれって意味と、解散させた私に非が及ばないようにしてくれ、そんな二重の意味があった。



「さて、篠崎さん。この後に事情聴取があるから先に聞いておくよ。北垣さんはどうしたんだい?」


「死にました」


「なっ、なにを──」


「死にました。そうしておいて下さい」



 諸星社長との会話を終えた大地さんからの追求に、俺は『死にました』一点張りで言い返す。その答えにはさすがに納得してくれないのか反論しようとするが、それすらも黙らした。



「俺が殺したわけじゃありませんよ。ただ、あの人は敵だっただけです」


「敵? ……そうか、分かった」


「いえ」



 そんな感じで会話を終える。よし、上手く大地さんに伝えられたようだ。大地さんは恐らく、北垣さんが敵でドラゴンを呼び出した張本人、もしくは関係者と誤解してくれているだろう。


 いや、詳細は本人にしか分からない。だが俺にその原因が追求される心配は無さそうだ。


 後どんな伝わり方をするのかは謎だが、ひとまず俺の身柄が捉えられることは避けられた。あっても個別の事情聴取ぐらいだろう。


 その前に、S級探索者であることを大本さんに言えば後ろ盾ぐらいにはなってくれるはず。くそ、考えることが多すぎて頭がパンクしそうだ。


 水葉の顔も久しく見てないし……。会いに行きたいけど、そんな時間も余裕も今はない。とりあえずこのゴタゴタを終わらせてから、ちゃんと時間を取ってからだな。


 それから大本さんと諸星社長、その2人の働きのお陰で数十分もすれば、その場にはほとんど何も残らなかった。


 その間、俺と琴香さんを中心にエルフ達に心配しなくても良いことを伝えに回る。


 この1ヶ月間、俺たちはエルフ達に助けられた。今度は俺たちが……そんな思いから、柏崎さんらも含めた全員が行動を開始する。最上のおっさんの子供人気やべぇなおい。



「なんで、こんなのが、人気?」


「こんなの呼びはやめろおい!」


「あはは、僕は最上さんが子供に好かれるの分かるなぁ」


「……おっさん、だから?」


「俺はまだ27歳だ! おっさんはやめろ!」


「……おっさん」


「このクソガキ10代が、舐めてると怒るぞっ!」


「最上さん、拳下ろして。ほら、子供達見てるよっ?」


「ちくしょぉぉぉっ!」



 氷花さんの若干不満そうな態度に最上のおっさんが声を荒らげると、牧野さんが間に入って緩衝材になる。そんな3人だが、不思議と険悪な雰囲気はなく楽しげに笑っていた。



 ……すごく、羨ましく感じる。……そうか。俺は多分、翔馬と穂乃果、琴香さんと北垣さんの2人と似たような関係を築いてきたんだ。でも、それはもう無い。クソ……なんか、すっげぇ悔しい。



「空!」



 そんな事を考えていると、翔馬とついでのエフィーが近づいてきた。まだエルフ達が日本に慣れてないからここにいて落ち着かせようと思ってたから、翔馬の方から来てくれたのは助かった。



「あのさ、さっきの言葉って……ぼ、僕の聞き間違いじゃないよな?」


「当たり前だろ。俺が忘れてた間もずっと覚えててくれて、ありがとな翔馬。今度……一緒に墓参り、連れて行ってくれ」


「うん……うん!」



 周りの人間が何事かとざわめくほどに翔馬は涙を流していた。人目もはばからずに泣くほど、俺は翔馬を長い間、苦しませていたんだ……。


 それからしばらくして探索者組合……と言うか大本さん直々での事情聴取が始まろうとしていた。さぁ、最初の勝負はここからだ。



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 とりあえず5日間毎日更新します。100万pv突破も初の★4桁の瞬間も更新で報告、お祝いできなかった哀れな私を誰か慰めてください。

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