第169話~休む暇もなく~

 その後、病院に連れ込まれた私と彼、それに少女はその場にいた回復系探索者の元へと預けれた。その時の会話で、私はようやく気づく。


 彼を助け、私たちをここまで連れてきてくれたのがS級探索者、江部一香さんであることを……。そのまま唖然としていると。



「あぁもう! とりあえずこの子を医療班に回さないと! 君も関係者? とにかくついて来て!」



 回復系探索者の人が、またどこかへと行ってしまった江部一香さんの行動に頭を抱えたくなる衝動に襲われそうな声を出したかと思うと、次の瞬間には即座に切り替えて、彼を担いで病院の中へと入っていく。私も少女を抱き抱えてついて行く。



「早速やるよ、《回復》!」



 回復系探索者の人がレジャーシートに敷かれた彼の怪我の部分に魔法を掛けていく。……ぁ、これって、私がさっき使ってた……じゃあ私も、回復系発現者になったってこと?


 そう考えながら治療を見ていると、徐々に脇腹の傷も治っていき、彼の呼吸も正常へと元通りになる。他にも全身を痛めていると判断した探索者の人は最後に《回復》を彼の全身に掛けて、また別の怪我人? の元へと行ってしまった。



「はふぅ……」



 人が入り切らず、床に寝かせられた彼の傍で座る私はため息を吐く。彼が大切にしていた少女の方も《回復》が掛けられ、今は眠っているだけと言われたので一安心だ。



「私、あなたに命、助けられちゃいましたね。一緒に居てくれて、モンスターからは助けてくれて……私だけじゃ、絶対に死んでました」



 眠る彼の表情を眺め、何も出来なかった不甲斐ない自分を思い出して落ち込み、私はポツポツと語り出した。



「なのに、私は何か助けをするどころか、逆に足を引っ張ってばかりで……情けないです。……今度あなたが困った時には、私が助けますね。それこそ、命を賭けてでも、です。だから……ちゃんと起きて、名前を教えてくれると嬉しいです」



 自然と口から出た言葉、それに緩んだ頬。あぁ……私は彼に憧れているんだ。大切な人だけじゃなく、見ず知らずの人も命を賭けて守ろうとしたその姿に。


 私を襲おうとしたおじさんと同性なのに、彼は全く真逆のような行動を取った。だから余計にそう感じるのだろう。


 さすがに恋では無い。だって彼は私を虐めたり、暴行をしようとした人と同じ性別。彼がそうならない保証はない。


 しかも出会ってから半日も経ってない。一目惚れ? そんなもの、容姿だけ見て惚れたと自白しているようなものでは無いか?


 私は絶対に有り得ない。人を見る目がない私は、できる限り時間を掛けてその人の本質を見なければいけない。だから……この人なら絶対に信頼出来ると思っているこの気持ちは、間違いに決まっている……。


 いえ、決して絶対にずっとこの人が信用出来ないと言う訳では無いが、出会ってすぐ信用出来るというのも無理な話であって……あれ、さっきから私は何故、誰に説明して……?


 ……自分の気持ちに言い訳をしている? いえ、そんなはず有り得ません。それなら私は彼に好意を持っていることになって…………もうっ、頭の中がグチャグチャです! この話はもうおしまいっ!



「君、君!」


「うひゃいっ!?」


「うひゃい? ……えと、なんかごめん」



 変なことを考える時に急に声を掛けられ、変な声が出てしまう。恨めしげな目で声の持ち主の方へ振り返ると、少年を治してくれた回復系探索者の男性だった。


 男性は私が低等級の回復系発現者だと聞き、力を貸してほしいと言ってくる。おそらくS級探索者江部一香さんから聞いたのだろう。


 ただ寝ているだけの彼を助けることが出来ないのは歯痒いけど、居ても力になれることも無い。なら、少しでもここで恩を売れば、報奨金とかも出てお母さんの手助けになるかも……。



「やります」


「ありがとう! お礼とかは後日になっちゃうけどごめんねっ」


「いえ……」



 探索者さんの後ろについて行き、私は病院の中を駆ける。軽症の方は消毒や薬などを使って自力で治してもらい、私たちは重症患者の元へと向かうそうだ。



「うっ……酷い」



 そこに並べられていたのはまともに動けない怪我を負った人達だった。医者や看護師が駆け巡り、統率の取れた動きで迅速に働いているのが分かる。


 血や消毒の匂いが充満しており、再び吐き気が戻ってきたが我慢した。私1人がその光景に圧倒されていると、探索者さんが手招きをしてくる。


 その男性の患者さんは足が折れているのか添え木のような棒が付けられ、手のひらがグチャグチャに潰れていた。「痛い……痛い……」と呟くばかり。むしろ気絶でもしていた方がマシと思えるほどの痛々しさだ。



「君は足の治療を頼む。綺麗に折れてるだけだから数分もすれば治るはずさ」


「は、はい……! 《回復》」



 そう言われて足に手を向ける。すると薄緑色の光が現れ、ポカポカと暖かい感覚が男性の足へと向かっていった。



「ふっ……ぐっ」


「はぁ、はぁ……」



 徐々に足の腫れが引いていくが、男性は痛みを我慢するような声を上げる。私自身もなんだか力が抜けていくような感覚に襲われて息が荒くなった。


 ……私がまだ、慣れてないから痛いのかな? このだるさもそうなのかも。そう言えば探索者さんは……?



「《再生》……《回復》」



 探索者さんは男性の手のひらが潰れた部分に《回復》などの魔法を掛けるだけではなく、少し離れた人達にも手をかざして傷を治していた。


 息を切らすどころか、疲れた様子すら見せない。やっぱり等級が高い人は凄いんだ。……私は探索者さんの働きを見て、そう感じた。



「すみません、多分治せました」


「……うん、ちゃんと治ってる。本当に助かったよ……」


「いえ……」



 私の治した箇所をチラッと確認した探索者さんが笑顔で私のことを褒めてくれる。でも、ただお金が貰えるかもと考えていた自分に罪悪感が沸いてあまりキレの良い返事は出来なかった。


 しかし骨折を治した男性や、探索者さんが治した人達にもお礼を告げられて満更でもない気持ちには慣れた。その後、何人もの人を治した私は椅子に座っていると、探索者さんが隣に座った。



「……ごめんね。あんな光景、子供にはキツイだろうに……」



 男性が近くに来たので内心ビクビクしていると、探索者さんはオレンジジュースを手渡して謝ってくる。絶対に私、中学二年生ぐらいに思われてるな……。



「いえ、ここに来るまでに慣れてしまったので」


「なんとも反応しずらい答え……今日はありがとう、助かったよ。さぁ、君はもう休んで。残りは僕がやっておくから」



探索者さんにそう促され、私は少し離れていた彼の元へと向かった。すると向かいから歩いてくる人影を発見する。



「……琴香? 琴香なの?」



 その人影はお母さんだった。



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作者「3章はカクコンの読者選考中に終わらせます!!!」

指「いやお前、受験もあるしまだ書き終わってる訳でもないし無ry」

作者「お・わ・ら・せ・ま・す!!!」






 初めてのカクヨムコンテスト! せめて読者選考は抜けたいので、まだ★を入れてない人はできれば入れてくれると作者が喜びます!!!


 宣言通り3章を完結させたら入れてやる、レビュー書いてやるよってパターンもありですね。そうだ、もし読者選考を突破できたら……うん、SSでも投稿しようと思います。


 内容は……そうですね、1章で書かれなかった琴香さんとエフィーのお風呂シーンを書こうかと。勝ったな、ガハハ!


 どうか、よろしくお願いします!!!

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