第163話~日常の変化、世間の不変~

 あの後、私はお兄ちゃんと両親に今までの出来事を説明した。それを聞いた両親は学校に相談し、私は2日ほど学校を休んだ。


 その間に森田さん側の両親と私の両親と話し合いをし、森田さんが転校することでこの話は解決したと、この時の私はそう思っていた……。



「ねぇ、綾辻さんのお兄さんって、あの綾辻烈火さんだったんでしょ!?」



 1番最初に声をかけてきたのは友達だと思っていた人の1人。それを皮切りに、性別や仲の良さなどお構い無しに私の方に寄ってくる。



「ねぇ、綾辻烈火さんの好きな食べ物って何?」


「綾辻さんのお兄さんってどれぐらい強いんだ?」


「やっぱコンクリの地面も粉砕でしょ!」


「ねぇ、今度家に遊びに行って良い?」



 クラスの人達が無邪気に、好き放題に喋りまくる。あぁ……ここにいる誰も、興味があるのはお兄ちゃんであって、私はどうでも良いんだと、そう思った。


 それから少しの間は学校に行けていたが、どんどん激しくなる人からの好奇の視線……酷い時には帰り道に知らない人からスマホを向けられたこともある。そんなストレスが積み重なって、私は引きこもりになった。


 暗い部屋で布団にくるまり、スマホでネットに上げられた私の事を検索する。するとお兄ちゃんに比べると微々たるものだがヒットした。


 それを見ていると純粋に、私の事を当然のように容姿端麗、成績優秀と知りもしないのに褒め称え、将来を期待されている1文などが見つかる。


 こんな風に思われているのも、お兄ちゃんの妹だから……。あんな人につきまとわれたのも、知らない人から写真を撮られたのも全部、全部全部お兄ちゃんの妹だから……!



「氷花、ご飯できたってよ。……氷花、寝てるのか?」


「うるさい! 後で食べる!」



 その時、私は呼び出しに来たお兄ちゃんに暴言を吐いてしまった。やってしまった……そんな気持ちが直ぐに沸き上がり、謝ろうと立ち上がった所で別の思いが沸きあがる。


 今、すっごく胸がスカッとした、と……。私は溜まったストレスをお兄ちゃんにぶつけることで発散出来たんだ。


 そうだよ……どれもこれも全部お兄ちゃんが元凶じゃん! 私は少しぐらいお兄ちゃんに当たっても……いや、兄貴に当たってもダメじゃないよね?


 心の弱い私はより弱い方に……楽な方に逃げる選択をしてしまった。それからは少しでも何かあると兄貴に当たる生活になっていった。


 そうしないと、なぜ自分が引きこもっているかという事実を受け止めきれなかったから……。誰かに八つ当たりしなきゃ、私は生きていけなかったから……。心の中じゃ、この解決方法では誰も幸せにならないと知りながらも……。


 兄貴と呼び始めた時のお兄ちゃんは傑作だったなぁ。まるで不良でも見るような目だったもん。いつもは「はい」としか言わないのに、両肩を掴んで問い詰めてくるほど。


 でもその手を払ってからの兄貴はおかしくなったと思う。アホなことや変な言葉を投げかけたり、私が絶妙にイラッとするような言動を繰り返し始めたのだ。


 後から気づいたのだが、兄貴はそうすることで少しでも私とコミュニケーションを取ろうとしていたようだ。


 コミュニケーションと言っても叩いたり殴ったり罵倒したりするだけだったのだが、兄貴にはそれでも嬉しかったらしい……正直、気持ち悪い。


 でも、こうしちゃいけないと1度は私も決起したものだ。でも何故か別の学校に転校しても、すぐに私が兄貴の妹という噂が流れ始める始末。


 結果、私は諦めてオンライン授業に専念した。それだけでなく、家庭内勉強もたくさん頑張った。頭の良い学校なら、兄貴の妹という色眼鏡で見られずに済むと考えたからだ。


 そして偏差値は60ほどまで上昇。間違ってもヤンキーや小学生のような人がいない高校へと進むことに成功する。



「ねぇ、剣道部入らない?」


「え……?」



 私を剣道部へと引き込んだのは、とある先輩からの勧誘がきっかけ。引きこもりになってから素振りをサボりがちになった私だったけど、部活に入れば自分を変えられると、そう思った……。


 でも、運命の神様ってすっごく残酷だと思う。1年生で初めた時に、大会で1回戦突破。相手は中学校からやっていた人で、周りの人たちも褒めてくれた。


 それからは道場にも通い、2年生のインターハイを前日に控えた頃、私は発現した……発現してしまったのだ。


 部活の公式大会規定では発現者は出場できない。非発現者との身体能力が違いすぎることが原因だ。謝って怪我を負わせてしまったりなども想像にかたくない。


 生きがいのような物を失った私は再び引きこもるようになった。引きこもるのか癖になってしまったのかもしれない。


 そのまま2年が過ぎて探索者登録した際に、私は小さなネットニュースに取り上げられた。


 記事には『S級探索者 綾辻烈火の妹、A級探索者となる』という見出しが書かれていた。あぁ、やっぱり私は綾辻烈火の妹としか見られないんだと、再認識させられる。


 最初は兄貴を守れるように木刀を握った私は当然、兄が少しして作った蒼龍組合に入るつもりでいた。


 しかし兄貴と比べられたり、マスターの妹だからと色眼鏡で見られることを嫌い、ちょうど諸星組合がメンバーを募集していることに目をつけて応募。見事に当選することになった。


 そこで、私の運命が変わる出来事と出会う……。



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 3章はヒロインズの過去編(空の過去編から反省して出来るだけ短縮して書いてます)とエルフの里での出来事を書く予定です。

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