第144話~JDのベッドってこれもう犯罪だろ~

 カップ麺を食べ終わると、一香さんがお風呂に行ってしまった。なんだろう、何も起こらないのにこの緊張感は……。



「はぁ~、さっぱりした~!」


「ちょ、服着てくださいよ!」



 と思ったら一香さんがバスタオル1枚で上がってきた。同じことをしようと考えていた僕が言える権利はあまりないが、その格好でうろつかれるのはマジで勘弁してくれ!



「さて、悪いが明日は用事がある。暇だろうから、私の持ってる漫画でも読んだり、タブレットでゲームでもしててくれ。テレビは見ないでくれると助かる」



 ちゃんと服を着て髪を乾かした一香さんがそう言ってきた。用事……探索者としての仕事かなにかだろう。服は買ってきてくれますよねっ?



「安心しろ。ちゃんとお前に似合う服を買ってきてやる!」


「メンズ用ですからね?」


「わ、分かってる……よ?」



 この反応。女性物も買ってこようとしていたに違いない! 第1、僕が女性ものを着た所で似合うはずなどないのだ。だって僕は男なんだから、もっとビシッと格好いい服を着たい!



「あ、ベッドは一緒で良いよな?」


「ダメです」


「ケチだな空」


「意味わかんないですよっ!? てか倫理的に考えてアウトです。バレたら一香さんが未成年と寝たってネットに書かれますよ?」


「はは、それぐらいで落ちる名声なんてないぜ」


「普通にあります! だから僕はこっちのソファーで十分です。かけ布1枚だけ下さい」


「じゃあこうしよう! お前がベッドだ! 決定な!」



 激しい交渉の末、僕は見事にベッドの座を勝ち取ることに成功した。……ん?



「待ってください。さすがに居候の身でそれはあんまりです。ベッドは一香さんが使ってください」


「グダグダうるせぇ、ガキが疲れてんだから大人しく寝とけ!」



 こうして、僕は無理やりベッドで寝ることになった。まぁ、普通に考えれば僕に気を使ってくれたのだろう。


 少しでも良い環境にしようと、わざと横暴な振る舞いで僕を寝具で寝させようとしてくれたのは嬉しい。でも……。



「変に興奮して寝れん」



 だって普段から女子大生が使ってたベッドだぞ。すっげーいい匂いがする。まぁ、少し前に消臭スプレーをぶっかけていた一香さんを思い出すのがちょっと惜しい点だが。


 なんて事を考えていると、いつの間にか僕はぐっすり眠ってしまったようだ。多分、疲れていたのだろう。



***



「うぅ……なんか、重たい?」



 目が覚めると、体に大きな何かが乗っているような気がした。手でどかそうとするが、むにゅっと柔らかい弾力の物質なのに結構重量があって無理だと悟る。



「なんなん……だぁぁあぁっ!?!?」



 うっすらと目を開けて見ると、俺の上に一香さんが毛布越しに乗っかっているのを理解する。動揺して大声が出てしまったのが原因だろう。モソモソと動き出し、開いた目が合う。



「あ? あぁ、おはようだな空」



 寝ぼけながらも挨拶をしてくる一香さん。着ていた薄い生地のシャツからは胸の谷間が見える。



「あ、挨拶とか良いから早くどいてください!」



 僕は誤魔化すように大声で叫んだ。



「すまんすまん、朝ごはんはシリアルで良いか?」



 その後、何事も無かったかのように朝ごはんを勧めてくる一香さんにモヤモヤとした気持ちを覚えつつも、僕は早く忘れようと勢いよくシリアルを口の中に掻き込む。



「空、もうちょっと上品に食べないと女の子っぽくないぞ?」


「まず僕は男です! あと上品とか一香さんに言われたくもないです!」


「なんだと!? 私ほど世の理想の女性を体現してる人はいないぞ?」


「世の女性全員に謝れ!」



 そんな会話をしつつも、一香さんは笑いながら今日の仕事の準備をして出て行ってしまう。……シンと静まり返った空間が、何だか悲しく思えた。


 思えば、最初からあんなに距離が近かったのも全ては僕の心を明るくさせようとか、そんな意図があったんだろう。いつの間にか親密になっていって、口調も少しだけ緩くもなっていたし。



「はは、でもこのラインナップは想定内というか想定外というか……」



 昨日一香さんが言っていた本を確認したんだが、少女漫画は一切無く、熱血スポコン漫画が多数置かれていた。一香さん的にはイメージ通りだが、女性としてはイメージと違いすぎる。



「ふぅ、これとこれとこれは面白いな。後で続きも読むう」



 僕はそこからいくつかのシリーズの1巻を取り、気になった奴をメモしていく。内容は野球漫画にサッカー漫画、テニス漫画に色々だ。


 あとは『なのじゃ!』が口癖ののじゃロリが主人公の漫画もあった。ブックカバーまでしてあったので、一香さんにとって大切な作品なのかな?


 ちなみに昼ご飯は冷凍食品とかレトルトしか無かったので、それを温めて食べた。うん、このままじゃ健康衛生上も良くないから、ちゃんとご飯を作れるようにならないとな! 水葉もお手伝いとか良くしてたし、僕も頑張ろう!



「ん~、タブレットでも触るか」



 ひとまず数時間か経過した所で、僕は漫画を切り上げてタブレットの方に移る。そう言えば今回の迷宮崩壊についての情報を知らないな。少しだけ調べてみるか……。



「なっ!」



 すると、そこには死者数100人を超え、死傷者数はその10倍ほどいるとの情報を最初に目にする。ちなみに父さんと母さんなど死者の遺体はきちんと冷凍保存されているとの事だ。魔法系すげぇ!


 少し落ち着いたら、お葬式は無理でも火葬だけはしたい。お墓とか……お金がかかると思うけど、それは一香さんに出してもらえるかな? もちろん、後で返すツケにしてもらうけど。


 いや、死亡保険金とかあるかもだからそれを使うのが良いかも。法律とかお金関係はよく分からんけど一香さんがどうにかしてくれたのだろうか?


 だが、声が漏れるほど驚いたニュースはそれじゃない。なるほど、テレビを付けないでって、こういう意味かよ! 僕は急いでテレビを付ける。



「確かに、謝罪会見なんて、見られたくないわな」



 そこには黒い服を着た一香さんの姿があった。

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