第125話~見た目と年齢が合ってない~

 話し合いの次の日の訓練も終わり、皆が各々の時間を過ごす中、俺はちょっと部屋を借りてある事をしていた。



「ふんふふ〜ん」



 鼻歌を歌いながら自分の短剣を研いでいた。この短剣は師匠が俺に贈ってくれたとてつもなく強い武器だ。と言ってもあくまで自分の魔力を一切使わない中での話だが。


 魔導具……魔力を通したりすれば切れ味や鋭さ、重さに丈夫さなどを強化できる、挙げ句の果てには振れば魔法が放てるなんてチート武器には流石に敵わない。


 もっと俺の等級が高ければ良かったんだけどな……。武器に回す魔力も俺には無い。ぁ、いや今はあるじゃん!


 でもこの武器より良い奴なんてめっちゃ良い値段がするから、節約したい俺には要らないな。


 ……でも、貰ってからずっと使ってたから相当ガタが来てると思うけど、壊れない限りはずっと使うつもりだぜ! まぁ次に買い換える時は力も上がったし魔道具でも買おうかな?


 だってお金一杯あるし。そうしたらもっと強い迷宮に潜って、もっと一杯稼いで……水葉を治すために必要な素材の、もう一つの方をお金で買うってのもありかも!


 まっ、この短剣が壊れるまでにもう一個の方の素材を変えるのが理想だけど! いや、もちろん刃こぼれすらせずに壊れないのが本当の理想だよ?


 おっと集中集中! 後はスーッと研ぐためのナイフの刃を滑らせ、ササッと特性の油を塗ってやれば完成だ!



「ふっふっふ、いつも通り完璧……とはいかないが上々の仕上がりだな。でも師匠はもっと上手かったんだよな……はぁ……」


『ねぇ』


「うわぁぁぁぁっっっ!?!?!?」


『ひやぁぁっ!?』



 独り言を呟いていると急に後ろから声をかけられてつい大声をあげてしまった。かけてきた方も驚いていたのが可笑しく感じる。



「ってヘレスかよ。急に話しかけないでくれよ、びっくりしただろ?」


『そ、それはこっちのセリフよ!』


「それで、何か用?」


『別に? 途中からずっと見てて──』


「ちょっと待ってそれって俺の鼻歌も独り言も全部聞いてたって事だよね? 恥ずかしいんだけど……」



 ヘレスの怒りもすぐに消え、途中から聞いていたと言質を得る。……あれも全部聞かれてたって事? うわぁぁぁぁぁ恥ずかしい死にたくなるぅぅぅぅ!!!



『あら? 別に良いじゃないの? 強いし戦士長たちに混じって大人っぽいと思ってたけど、見た目通りで実は結構子供っぽい所もあるって発見しちゃったわ!』


「う、うるせぇ……」



 ヘレスが口元をにやけさせながらグイッと体を近づけ、そのしてやったり! と言いたげな表情を存分に見せつけてくる。あ、髪が当たってる。柔らかくてこしょばい……。ってそうじゃねぇ!



「待て! 今、見た目通りって言わなかったか?」


『言ったわよ? ソラって大人ぶってるけど、顔も子供っぽいしまだ15歳ぐらいでしょ?』


「19歳だけど?」


『え? ……嘘でしょ? な、なるほど、童顔だったわけね、騙されたわ』



 ヘレスが緊張に包まれ、頬に垂れた汗を拭く仕草をしながらそう言う。……いや違うよ!? ……え、俺って童顔じゃないよな? 違うよなっ!? 



『……じゃ、じゃあコトカは? 精霊だけど人間的には13歳ぐらいよね? ね?』



 今度こそはどうよ! と言いたげな、しかし次も間違っていたらどうしよう? そう思っていると丸分かりの表情で尋ねてくる。……フッ、さぁヘレスの心を折りに行くぜ!



「確か21歳って──」


『嘘でしょぉぉぉっ!? ソラより年上なの? そうなのっ?』


「じゃあ逆に聞くけどヘレスは何歳なの?」



 嘘だと言ってよぉぉ〜〜! と泣きついてくるヘレスの頭を押し返しながら問いかける。



『ふふっ、私は61歳よ!』


「え……?」



 颯爽と立ち上がり、薄い胸に手を当てて誇らしげに申したヘレス。だがあえて言おう! 全くもって見えね〜!!!



「ちょっと〜、今失礼なこと考えたでしょ!?』



 そんなヘレスの言葉は無視する。見た目的には20歳ぐらいだし、何よりも精神年齢が低すぎる!? ……あ、いや待て、エルフの平均寿命聞いてないな。



「ねぇヘレス、エルフの平均寿命っていくつ?」


『そうねぇ……大体300歳ぐらいかしら? サリオンさんは風の精霊ソロンディア様のお陰で倍ぐらいに伸びたって言ってたけど……』



 へぇ、と言う事は人間を100年として換算すると……同い年あたりだな。



『あ、言っておくけど、ララノアはまだ15歳になってないわよ?』



 ふむふむ、人間換算で……5歳程度か。ほぼ見た目通りだな!



『そうよ! 聞きたい事があったの!』


「……あぁ、話しかけた理由ってそれ? 良いよ、なんでも聞いてくれ」


『あなたの欲しいものって何かしら?』



 欲しいもの……? いきなりどうしたんだ? 特に無いが……ここでなんでも良いとか適当な返答をすればヘレスが怒ることは目に見えている。そして俺は見えている地雷を踏み抜くほど馬鹿な男じゃ無い! 



「ララノアちゃ──」


『は? 今ララノアって言ったわよね? うちの妹がほしいって事? そう言うのはララノアを救ってからにしてくれる? 分かった? OK?』



 まだ最後まで言い終わらないうちにヘレスに胸ぐらを掴まれ、顔を超至近距離まで近づかせられる。怖いよヘレスっ!? て言うかそれじゃあ、救ってからならOKって言い方に聞こえるよ!?



「ち、違うよ。ララノアちゃんのこと、怒らせちゃったから仲直りしたいなって。だからララノアちゃんの好きな物とか、そう言うのを知りたいんだ。つまりはララノアちゃんの情報って事なんだけど……」


『まずは身辺調査って訳ね? そして好感度を稼ぐには姉であるあたしから、と……』


「なんか俺が狙ってる前提で話を進めてない!? 本当に違うからねっ?」



 結局ヘレスを説得するのに結構な時間が掛かった。ようやく話に入れそうだ。

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