第111話~VSサリオンさん《中編》~

 再模擬戦が決まり、俺たちは元の位置に戻る。ヘレスも後ろに下がり、サリオンさんも改めて構える。ちなみにルールはほとんど変わらない。俺たちの先手が無くなっただけだ……。



『では……ほっ!』


「っ!?」

 


 ブワッと空気が裂かれる音が聞こえたかと思うと同時にサリオンさんが目の前に現れた。そして腰を低く添えた状態から掌底が放たれる。


 だが、サリオンさんも本気と言いつつも俺が目で追えるレベルの動きに抑えてくれている。最初に出会った時のじゃ勝負にならないからかな?


 俺はとっさに短剣で掌底を突き返す。まるで刃物がぶつかり合うかのように火花が散る。遅れて氷花さんの氷の剣も加わり、最初の一撃を防ぐことに成功した。


 そしてお互いが距離を取る。……あの動き、多分俺の全力よりも速い。だが烈火さんとの模擬戦で受けた、最後の寸止めの一撃よりはちょ〜〜〜っとだけ遅かった。……多分、A級上位ぐらいかな?



『これを受け止めた時点で、ワシ以外のエルフ達じゃ太刀打ちできないことは周りにも伝わったじゃろうな。さて、では次行くぞ?』



 サリオンさんがそう言う。なるほど、最初の模擬戦をあくまでまぐれと捉えるエルフ達の目を覚ますために、今程度の攻撃だったのか。


 全く、本当に都合よく利用されてるな。まぁ俺たちは精霊様でも無いし、異界の侵略者の人族だからな。……でも、あんまり舐められるのも嫌だ。



「……空。私たちの力、見せつけよう」


「うん……」



 氷花さんがキッとサリオンさんを睨みつけてそう言ってくる。彼女自身も一度サリオンさんに負けている以上、さっきの攻防で手を抜いていることは明らかだっただろう。


 氷花さんはそれに対して僅かながらも苛立ちを覚えているようだった。俺もそれには同意だったので、肯定の返事をする。


 そして同じタイミングで前へと飛び出す。今度はこっちから仕掛ける番だ!



「《氷縛》……!」


『むっ? ぬんっ!』



 走りながら氷花さんが拘束系の魔法を放つ。サリオンさんはそれを破壊しようとするが、拳を当てた瞬間に氷の蔓が伸びてサリオンさんを捕まえる。


 だが一瞬サリオンさんの思考を止めただけに留まり、すぐに腕を広げて難なく抜けられてしまう。



「やぁっ!」


「はっ!」



 氷花さんの動きに俺が合わせる形で攻撃を仕掛ける。今までの氷花さんの動きを見て分かったことだが、おそらく師匠の教えは同じようで少し違う。


 等級の差、男女の差などなど、はっきりとした理由は分からないが癖があるのだ。と言っても氷花さんが次にどう動くのかある程度の予想はつくのでやりやすい。


 これがもし逆なら、今の俺が本気を出して攻撃すれば、速度が合わずに氷花さんとの連携が取れず崩れることになるだろう。



『見事な連携! じゃが、決めさせてもらおうぞ!』


「っ! やばーー」


「させません!」



 サリオンさんがそう言った直後、氷花さんの放った横振りの一閃を拳ではたき落とす。氷花さんは足を前に出して前のめりに倒れそうになるのを防ごうとした。


 俺はとっさにカバーに入り、サリオンさんの追撃を短剣で受け止めた……はずだった。確実に拳は俺の短剣にぶつかった。だが、俺の後ろの氷花さんは綿のように軽く吹き飛んだ。


 ……何が起こった? 俺はサリオンさんの拳を短剣で受け止めた。氷花さんの隙を埋めようとしての行動だ。


 だが、その時にブワッと音が鳴り風が走った。俺を通り過ぎた風は後ろにいたはずの氷花さんを吹き飛ばした。氷花さんは木にぶつかり、意識を失う。慌てて琴香さんが駆け寄る姿が映った。



『まず、1人目』



 サリオンさんがそう呟く。



「……貫通攻撃?」



 俺はそう呟く。だがあれは貫通というよりも、将棋の桂馬のような、俺という障害物を避けて後ろにいる氷花さんを狙った一撃だった。



「サリオンさん、もしかして風の魔法を使えたんですか?」


『ふむ、すぐにその判断に至るとは驚きじゃ。てっきり混乱させるだけじゃと思ったが』



 否定しない。ということは合っているのか。思えば最初の時もそうだった。あの時も、まるで風のように速く動いていたな。サリオンさんは地球風に言うならば、S級風属性魔法(物理)系探索者みたいな感じか?



『じゃが、おしいのう。風の魔法であることは認めようぞ。しかしそれは、ワシの力では無い』


「……まさか!」


『そう……ワシも、精霊と契約しておるのじゃ』



 ……マジかよ。通りでエルフ達の中でも圧倒的に強いはずだ。



『さて、ワシの切り札も明かしたことじゃし、そっちの手札も見せてはくれんかの?』



 サリオンさんが鋭い眼差しでお願いしてくる。あぁ、なるほど。サリオンさんの狙いは最初から俺の隠していた新しい力のことだったのか。


 気づいていたことは本当にさすがとしか言いようが無いな。だから最初の模擬戦の時も俺を警戒し、氷花さんを先に落とした。



「……はぁ……分かりました。見せますよ……【縮地】!」



 俺は特級迷宮に潜る前に契約上書きをしたことで手に入れた、新しい力を使った。



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 (特に書くほどの理由では無いので)理由は無いですが、今日は2話更新します。

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