第110話~VSサリオンさん《前編》~

『ソラ、分かっていると思うけど気をつけて。戦士長はここにいるエルフ族の中で一番強いわ』


「うん、だろうね……でも、勝ってくるつもりだよ」


『へぇ、言うじゃないの。まっ、精々頑張りなさい』



 ヘレスからそんな忠告を受ける俺だったが、そう返すとヘレスはクスッと笑いながら手をひらひらさせて応援してくれた。



『さて、では始めよう。先手はそちらに譲ろうぞ』


「ーーだってさ」


「ん……なら、……《氷剣》。からの……《氷弾》……!」



 氷花さんにサリオンさんの言葉を伝えると、すぐに氷の剣を手元に生成する。それを手に取り、次に普段よりも多い時間を掛けて氷の弾を創り出す。


 敵が待ってくれない実戦では使えないだろう作戦だ。だが、今は先手を譲られた模擬戦だ。故に、氷花さんは自分のできる限りの《氷弾》を生成する。


 その数は有に50を超え……70……80……おぉ、100個を超えた事は確かだった。



「いけ……!」



 氷花さんが声に力を込めて言うと同時に、100を超える氷の球がサリオンさんに向けて一斉に放たれる。



『ふ〜む……ほっ!』



 様々な角度から飛んでくる氷の弾を余裕そうな笑みで眺めていたサリオンさんが、その全てを避け、時には拳で破壊する。



『ふむ、これだけかの? だとしたら拍子抜けじゃが……?』



 嘲笑うように軽口を叩くサリオンさん。



「あの程度、当然、想定済みなの……!」



 氷花さんは言葉は通じないはずだが、何を言われたかをある程度理解したんだろう。そう言いながら氷の剣を構えて走り出す。



「やぁっ!」


『ふっ!』



 氷花さんの扱う氷の剣を、サリオンさんは己の拳で迎え撃つ。お互いが凄まじい速度で撃ち合う中でも、サリオンさんの拳から血が流れることはなかった。


 氷の剣で放った氷花さんの3連撃をサリオンさんは軽くいなすと、その攻撃の勢いを逆に利用してカウンターを放つ。



「させるかっ!」



 サリオンさんの放つカウンターに対し、俺が全力で短剣を振り当てる。ガギィンッと、とても拳がぶつかったとは思えない音がなり、サリオンさんの腕が上に上がる。



「《氷結光》……!」



 俺とのぶつかり合いで軽くったサリオンさんの足に向けて、氷花さんの《氷結光》が放たれる。最良の判断だ。ともかく機動力を奪わないといけないからな。



『ぬっ? ……はっ!』


「くっ、速いっ……《氷塊》!」



 サリオンさんの足が凍りつき、動きを止めることには成功する。だが、サリオンさんは凍った足に力を加えて氷を砕き、即座に元通りにする。


 氷花さんもその速さに驚きつつ、トドメ用に考えておいた《氷塊》を放つ。俺たちはその場から離れ、サリオンさんに当たる事を祈った。


 だが、サリオンさんの取った行動は予想外だった。攻撃が当たるか避けられるの2択かと思いきや、《氷塊》すらも拳で砕いて見せたのだ。



『さて、次はどんなーー……がっ……?』



 幾つもの欠片となってキラキラと砕かれた氷塊の中から、一筋の光が空から放たれる。それは油断したサリオンさんの背中に一撃を加え、僅かによろめかせた。


 サリオンさんに当たった一撃。それは氷花さんが一番最初に生成し、予め残しておいた《氷弾》だった。ともかく、一撃を加えると言う条件はこれでクリア。俺たちの勝ちだった。



『はは、ワシの負けじゃな……』



 サリオンさんが嬉しそうに笑いながらそう宣言する。


 はぁ……本当に勝ててよかった。マジで《氷塊》を砕かれたのは衝撃だったわ。あれ、本当は避けたところを俺たちで追い討ちしてから決める予定だったんだよね……。


 それにしても、こんなにあっさり勝てたのは模擬戦だったからだろう。実戦ではできない氷花さんの最初の魔法構築で、全ては決まっていた。


 サリオンさんは俺たちに怪我をさせないように全てにおいて、最初に出会った時よりも力をセーブしていたし、何よりもずっと俺を警戒していた。


 エフィーの契約者だから……ってのが大きな理由だろう。お陰で最後に《氷塊》を砕いた影から放たれる《氷弾》に気づかず、見事に食らったんだから。


 あれ? よくよく考えれば、俺ほとんど働いてなくない? 氷花さんの《氷弾》で先制攻撃をして、氷花さんが氷の剣で攻撃を仕掛けて、俺がカウンターを防いで、氷花さんが《氷結光》で動きを止めて、氷花さんの《氷塊》でトドメを刺そうとして、氷花さんの《氷弾》が一撃を与えた。


 …………うん、細かいことは気にすんな! 別に俺、何もしてないわけじゃ無いしな!



『そんな……!』


『サリオンさんが……負けた?』



 遅れてエルフ達から悲鳴のような声が漏れ始める。



『全く……戦士長相手に有言実行するとか……本当に、さいっこうよ……ソラ!』



 後ろからはヘレスが悔しそうに、だが喜びを噛み締める表情で笑いかけてきた。



『ふむ……すまんソラよ、もうひと勝負してくれんか? 次は本気を出す故に……』


『……あたしからもお願い。その勝負受けてやってくれない? 一応、戦士長としての責任があるから……お願いっ!』



 ヘレスが両手を合わせ頭を下げてそう言ってくる。確かにメンツってのもあるだろう。それに俺自身はまだ戦い足りないし……。



「空。別に、私は構わない……よ? むしろ……リベンジ、したいから……!」



 氷花さんが軽く小首を傾げてそう言ってくる。模擬戦として勝ったからだろうか、先程までの張り詰めた緊張感は感じられない。


 だが、闘争心は一戦目よりも溢れているように見える。とにかく、本人がやる気なら構わない。



「分かりました。もう一度やりましょう。今度はお互い全力で……!」



 俺はそう伝えた。

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