第107話~エルフの訓練~

 エルフの訓練の見学をしに飛んできた俺たちだったが、その訓練は既に始まっているらしい。大地さん達も一足早く訓練の様子を見学していた。



『遅いぞヘレス、一体何してたんだよ』


『うるさいわね! アムラスには関係ないわ!』


『な、なんだと!?』



 俺たちのせいで遅れてきたヘレスをアムラス……俺が倒した青年エルフが責め立てるが、ヘレスは強気に反論する。



「すみません、俺たちのせいなんでヘレスを責めないでください」


『人族の……ちっ、お前かよ……。はいはい了解了解』



 アムラスは俺を見るとバツの悪そうな顔をして、投げやりにそう返した。



『ちょっとアムラス、謝ったソラにその態度は失礼でしょ!?』


『はぁっ!? お前一体どうしたんだ!? あんだけ人族はゴミ、クズ、ブサイク、低身長、自然大事にしない、胸に駄肉付きまくり、って散々罵ってきたじゃん!?』


『そそ、そこまで言ってないわよっ!』


『言ったよ!』


『言ってないわよっ!』



 アムラスはヘレスの態度に裏切られたぁ! みたいな表情を浮かべてそう言う。へぇ、ヘレスそんなこと言ってたんだ。あと胸に駄肉付きまくりは笑っちゃダメだよな? ……プークスクス!



「あの、訓練は……」


『はっ! ……や、やるよ! 早くしようぜヘレス』


『分かってるわよ! コトカ、ソラ、見ておいてね』



 アムラスとヘレスはそう言って訓練に参加し出した。



「あ……ごめん、通訳忘れてた」



 俺は慌てて2人に謝る。1人ならともかく、会話を通訳するのは難しかった。と言うか内容を覚えて理解するだけで精一杯だ。早く慣れたい……。



「いや……なんとなく、だけど……言ってること、理解できた」



 氷花さんがそうフォローしてくる。まぁ確かに俺に対して当たり強いアムラスに、責められてムキになって言い返してるヘレスは見てるだけで会話の内容が大体想像つきそうだ。


 俺は会話を打ち切り、最上のおっさん達と合流してエルフ達の訓練を見学する。



 エルフ達の訓練は至って簡単な物だ。矢を的に当てる訓練なんだが、1人のエルフが的を狙う。そこを2人のエルフが妨害をする。それらを突破して的に当てることができたら終わりだ。


 スタート位置は離れており、まずはお互いを索敵することから始まる。的を狙う方のエルフは的に大体100メートル以内に入らないと矢を放ってはいけないらしい。


 そんな単純なルールの訓練だが、思ったよりもすごかった。大樹を巧みに使い妨害側を混乱させたり、妨害側が狙う側を射らせないよう、一瞬の隙も与えず妨害したりする。


 地形把握の能力や瞬間的な状況判断能力、一瞬の気の緩みも許さないピリついた雰囲気に、矢の命中精度正確さなどなど、鍛えられる箇所が満載だ。



「すごいな……」


「語彙力ねぇな、篠崎てめぇ」


「最上のおっさんはどう感じました」


「やべぇな」


「あんた言える立場か!?」



 全く……だが、そんな言葉しか出てこないほど俺たちは圧倒されていた。良い物を見た時はペラペラと感想が上がってくるが、素晴らしい物を見た時は時が止まったように感じる。


 ……この訓練もまるで劇場のクライマックスを見て息を呑むような、そんな高揚感を抱くほどだ。


 他にも、一体何百メートル離れているんだ? と思いたくなるほどの長距離から矢が放たれ的に当てたりする訓練もあった。スナイパーの弓版だな。


 だが、そんな訓練も30分もすれば見飽きてしまう。ヘレス達には悪いけどね。やはり実践が一番だろう。友達が攻略するゲームを見るよりも、自分でプレイする方が良いのと同じだ。


 しかしそれができない以上、今の俺は昨日夜寝る前に考えていた一つの重要な問題に気付いてしまった。


 それは、無事にここから地球に帰った時に、翔馬達がどんな反応をするのかについてだ。今から帰った後の想定とは余裕だなって感想はやめてくれ……。


 ともかく思い出してほしい。翔馬に面倒を見させたエフィーは俺の危険を感じたり、一緒にこっちに来てしまった。向こうじゃ特急迷宮もそうだが大慌てだろう。


 だがこっちでは、エフィーはいない者としてカウントされてる。もしいつも通りの人間の格好でいれば、間違えて入ってきてしまった……と、他の探索者たちにも説明できるだろう。


 だが、最初にエフィーは精霊の姿をして現れてしまった。こうなってしまっては隠すしかない。精霊だとバラすのは一番ダメだ。


 しかし1ヶ月をここで過ごして普通に帰った場合、エフィーについて翔馬が尋ねるだろう。そこで翔馬だけを誤魔化すならともかく、大地さん達にも話を振られれば終わりだ。


 そんな少女は見ていない、と証言された時、俺はどうなるのだろうか? 他の探索者達からも不思議な目で見られることは確かだ。


 これをどう解決するかは決めかねている。と言うか思いつかない。だから俺は先延ばしにしていたんだが……うん、誤魔化す。これが一番良い。


 俺の事はおかしい、怪しい、なんて思われるのは良いが、その危険がエフィーに及ぶのは論外だ。全て俺の所でき止める。これが一番マシな案だろう。



「お? 篠崎、なんかあの化けもーー、爺さんのエルフが来たぞ」


「え?」



 そんな事を考えている最中、話しかけてきた最上のおっさんの言葉に俺は驚く。見ると、サリオンさんがこちらに向かってきていたのだ。


 やばい、集中してないのバレてたかな? あと最上のおっさん、サリオンさんのこと化け物呼ばわりしようとしたよな?



『さてソラよ、訓練を見ているだけと言うのは退屈じゃろう? ここいらで一つ、試合をせんか?』



 サリオンさんにそんな提案をされた。……やっぱ集中してなかったのバレてたか。

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