第90話~A級迷宮、新たなる出会いの予感~

 僕は父親が運営する諸星組合の初の迷宮攻略、その旅立ちを空の居候のエフィーちゃんと共に見ていた。


 大地さん、空や初芝さんなどに手を振り、大地さんを先頭としてゲートの向こうへとどんどん消えていく探索者さんたち。そして最後に空がゲートに足を踏み入れた瞬間、エフィーちゃんが動いた。



「主人!」


「エフィーちゃん、危ないよ!?」



 そう叫びながらエフィーちゃんが飛び出していく。理由は不明だ。僕は訳がわからないながらも、僕はそれを止めようと遅れて追いかける。


 だが、それはできなかった。空がゲートの向こうに消えたのを見た瞬間、ゲートが変な音を発し始めたんだ。それに気を取られていると、いつの間にかエフィーちゃんは姿を消していた。


 多分、空を追いかけて異世界へと通じるゲートを通って向こう側へ、迷宮へと足を踏み入れたんだと直感した。



「な、何が起こっているんだ……?」



 諸星成彦社長……僕のお父さんが、黄緑色から黒紫色へと変化するゲートを見つめてそんなことを呟いた。



「ば、馬鹿な! ゲートの魔力が暴走している!?」



 次にゲートの等級を測る魔道具を持っていた人、測定者がそう叫び出した。



「まさか、特級迷宮!? 等級は……C級上位? いや、B級……B級上位…………え、A級……!?」



 測定者がそこに示された等級を見て愕然と腰を抜かす。A級迷宮……その適性等級はS級探索者1名、A級探索者4名以上が基本とされている。


 S級探索者がいない場合もあるのでA級探索者10名や、B級探索者を基本的な上限である10名を超えて送り込むことも可能だ。


 10名と言った迷宮攻略をする際の基本的な数字など、国にとって危険性の高い高等級の迷宮には意味などなさない。



「A級だと!? 探索者組合近畿支部とS級探索者綾辻烈火さんに電話しろ! すぐにだ、急げ!」



 測定者の言葉を小耳に挟み、父さんが周りの人間に慌てて指示を出す。すぐに父さんの秘書が父さんのスマホを使ってそれぞれに電話をかけ始める。



「特級迷宮……くっ、なんて事だ……!」



 ゲートを睨みつけて歯を食いしばり、悔しそうな顔を見せる父さんの姿に、僕も体が強ばり腕や肩に変な力が入る。



「……空、初芝さん、大地さん……それに他の探索者さんのみなさんも……全員、無事でいてくださいね……?」



 一般人である僕には、ただただ祈ることしかできなかった。



***



 俺が実家、そして蒼龍組合がある名古屋まで直通の新幹線に乗ろうとしていると、いきなり電話が鳴り出す。


「もしも〜し?」



 名前を見ると諸星社長だった。なんだなんだ〜?



『もしもし、私は諸星社長の秘書をしている者です。S級探索者、綾辻烈火さんでございますか?』


「いいえ。俺はS級シスコン、綾辻氷花の兄貴でございま〜す!」


『綾辻烈火さん、非常事態です。綾辻氷花さん……妹さんたちが潜ったゲートの魔力の質が突如変化して、特級迷宮へと変化しました』


「すぐ向かう!」



 俺は全速力で1時間ほど前までいた場所へと戻り出した。



***



 近畿支部支部長の私だが、現在は京都に来ていた。新しく設立された諸星組合についてが主な理由だ。今は京都支部の一室を借りて、仕事に打ち込んでいた。


 その時、ポケットに入れていたスマホが着信音を鳴らす。名前を見ると、この前に番号を登録したばかりの諸星成彦社長だった。


「諸星社長ですか? 今日は大事な初の迷宮攻略ですよね? 電話だなんて、一体どうしたんですか?」


『私は諸星社長の秘書をしている者です』



 秘書だと? 諸星社長ではなく……? いやそれよりも……。



「どうかしたんですか?」


『今回私たちの組合が潜ったゲートですが、特級迷宮だと判明しました』


「……なんですって!? 動ける高等級探索者へ要請したのちに、すぐに向かいます!」



 私は座っていた椅子を後ろに倒すほどの勢いで立ち上がると、7人しかいない地方支部長として権限を使い始めた。


 近くにある中小組合のB級以上の探索者、三大大型組合の一つ、蒼龍組合にも直通メールを送る。幸いにしてS級探索者の1人、綾辻烈火さんが近くにいるようなので多少の不安は和らぎましたが……。



「綾辻氷花さん、初芝琴香さん……篠崎さん、死なないように死ぬ気で頑張ってくださいね。……大地も、気を付けろよ?」



 私は小さく呟き、特級迷宮が現れたゲートの元へと急いで向かった。



***



 あたしは濃い深緑色の葉を生やし、大地に地深くまで張り巡らされた根を飛び越え、急いで里にいる族長の元まで馳せ参じようとしていた。


 着くと早々に、あたしたちが暮らす森の大樹の幹をくり抜き作られた家の一つである、族長の家の玄関扉を叩く。



『族長!』



 返事を待たずにあたしは扉を開ける。無論、心の中では最低限の礼儀はある。だが今は緊急事態だし、なにより族長と呼んではいるが、あたしの父上なのだから良いだろう。



『そんなに慌ててどうしたんだ、ヘレス?』



 族長である父上があたしの名前を呼び、不思議そうな顔を浮かべて尋ねてくる。



『近くで魔力の異変を感じたの! 多分、繋がったんだわ!』


『なんだと? ……ヘレス、すぐに支度をせよ。儂は戦士長サリオンの元に行ってこよう』



 族長はあたしの言いたいことをすぐに理解して、バサリとマントを翻して立ち上がり、あたしたちの中で一番強い戦士長サリオンの元へと行ってしまった。


 一方、あたしはすぐに弓と筒に入った矢を準備しはじめる。もしもの時に必要な傷薬も忘れない。左腕には戦士の1人であることを証明する緑色の布を巻き付け、首には首飾りをかける。


 少し時間が経ち、族長と戦士長サリオンが子供老人などの非戦闘員に事情を説明し終わるのを待った。そして、発見者である私と戦士長サリオン、他3名の計5名が魔力の異変が発生した場所へと向かうことが決定した。



『……行ってくるね、母上。……ララノアも』



 あたしは首飾りをギュッと握りしめそう呟きながら、里を出発した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



これで2章完結です!

10日から3章開始です!次章は皆さんの投票結果で決まった方向へと進んでいきます!楽しみに待っていてください!

ただこれ、現代ファンタジーになるのか?と書いていて考えてしまいますが……。


最後に……ここまで読んでの応援コメントや星、レビューなどが貰えると嬉しいです!

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