第36話~VS藤森~
なんてこともあったな。あの時から、藤森は僕を斬り捨てる算段を付けてたってわけだ。……やらなきゃやられる!
「では……死んでください!」
藤森が言葉を言い終わると同時に、僕は全力で地面を蹴り前進する。その速さに驚いた藤森は、一瞬だけ硬直して初動の対応が遅れる。
「っ! 《
でも、C級探索者なだけある。すぐに《火弾》の魔法を放ってくる。僕は横に避けて、再び藤森へと近づく。
D級未満の実力しかない僕には、藤森が一番油断しているこのタイミングしかない。だから強くなった僕なら避けれる程度の《火弾》を放ってきた。今ならF級探索者に避けられたと言う動揺も誘えるだろう。
それに迷宮は迷宮主を倒したら終わりじゃない。帰りにも倒しきれていないモンスターもいるかもしれないのだ。藤森はそのためにできる限り魔力を抑えているのだろう。
殺し合いにおいてそんな心境は、この短い時間でしか保たないだろう。藤森もこの攻防に間が空き考える時間を持たせる場合、不自然に強くなった僕でも確実に殺せる威力の魔法を放ってくるはずだ。
だからそうされる前に。……この一瞬に、全てを賭ける!
「くっ! いつの間にこんなに腕を上げていたんです!?」
藤森が後ろにジリジリと下がりながら《火弾》を放ってくる。だが、僕はそれ以上の速度で藤森へと近づいていく。
「ふざけるなぁ! 当たってくださいっ! 当たれ当たれっ!」
避ける、受ける、弾く。藤森の放ってくる《火弾》をそうしながら僕は逃げる藤森を追いかける。
彼の動揺がいかにも伝わってくる。威力は多少高くなったが、狙いの精度はどんどん低くなっていく。いけるっ!
「あぁぁぁっ!?!? 《
遂に焦りまくった藤森が自分自身が被弾することも恐れずに《炎波》を使った。いや、そんなことを考える余裕もないだろう。狙いは下、僕の足元あたり。機動力を奪いに来たようだ。
「はあぁぁぁぁぁっ!」
僕は《炎波》を上に向かって飛ぶことで回避する。そしてずっと握っていた短剣を大きく振り下ろそうとする。
「え、《炎波》ぁぁ!」
藤森が死の恐怖から逃れるためにとっさに動いた右腕。そこから放たれる《炎波》。上空に僕の投げ場所はなかった。
被弾することは確定だった。僕はそれを理解した途端、攻撃に専念することに心を一つにした。《炎波》で視界が遮られる。
僕は《炎波》の熱と痛みに耐え、短剣を振り下ろした。何かを……いや、肉を骨ごと斬る感触が、手のひらから伝わる。
そして多少のダメージを負い、着地に失敗して地面を転がるように倒れ込む。すぐに顔を上げると、そこには片腕を失った藤森が膝をついていた。
……殺せなかった。でも、手傷は負わせられた。なら今がチャンスだ。僕は《炎波》を食らった部分が刺すような、ヒリヒリするような痛みを堪えて立ち上がる。
「い、いたぃなぁぁぁっ!!! いてぇよぉぉぉ!」
藤森は腕を斬られた痛みで苦痛の表情を浮かべていた。でもさぁ藤森、エフィーと出会うまでの、あの瞬間までの僕の方がもっと痛かったんだ。
「はっ……はっ……篠崎、テメェぶっ殺してやる!」
藤森が顔から色々な汁をダラダラと流しながらも、怒りの形相を浮かべて僕を睨みつける。
「……死ぬのは藤森、あんただ」
短剣の剣先を藤森に向けて、そう宣言する。そのまま大きく振りかぶって最後の一撃を決めようとした時だ。
「藤森さんから離れろぉ!」
「篠崎君! 避けたまえっ!」
「えっ!?」
北垣さんの叫び声に思わず振り返ると、C級タンク系探索者の人がこちらに向かって自身の武器、長剣を投擲してきていたのだ。
北垣さんは回復系の人を背後に守るようにして立っており、今はもう1人のD級パワー系探索者の人に足止めをされていた。
だめだ、防御も回避も間に合わない……死ぬ? そんなことも考えていた。このままでは僕に向けて放たれてくる刃を、僕は防ぐことが間に合わない。
長剣は僕の目の前寸前まで迫っていた。次の瞬間、長剣が肉に突き刺さる音と共にドサリと倒れる音がする。
そして地面に広がる血の海を僕は視界に捉える。
「……初芝、さん?」
それと同時に僕の代わりに前に立ち、長剣をお腹に刺して倒れる初芝さんの姿もまた、視界に捉えた。
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