第28話~初芝さんって意外と鋭い?~
「藤森っ……さん、久しぶりですね」
僕は怒りで思わず突っかかりそうになる体を理性で抑え、何事もなかったかのように平静を保ちながら挨拶をする。
「久しぶり、篠崎さん。ちょっと声が震えているようだけどどうしたんだい?」
ちっ! 自分では最大限上手くやったつもりだったが、藤森にはお見通しかよ……。
「いえ、特に何も。藤森、さんもD級迷宮の攻略に?」
「無論だとも。私としては、むしろ君の方にその質問を投げ掛けたい気分さ」
「あはは、僕自身も何が何だか……」
「へぇ、つまり知らないと……。君、組合に喧嘩でも売ったのかい? それなら納得なんだけどね」
「まさかぁ」
「……では、失礼するよ。私はC級、忙しいのでね」
藤森はそう言ってどこか別の場所に行ってしまった。
「篠崎君、さっきの人は知り合いかい?」
「はい、元パーティメンバーでリーダーをしていた藤森、さんです」
「でもでも、すこ〜し険悪じゃありませんでした〜?」
初芝さんのくせに鋭い!?
「そうですか? ……松原さんって言う人が亡くなって、なんだかんだでそのままだったんですよ。だからですかね?」
「なるほど、それは……気まずいだろうね」
僕が原因としてありそうな出来事をあやふやに話すと、北垣さんはそれ以上踏み込んでこなかった。さすがは大人だ。
「で、でも篠崎さん。これは私の勝手な意見だから聞かなくても良いんですけどね、あの人とは距離おいたほうが良いと思うんですっ。別に明らかに悪いって思えるんじゃないんですけど……」
それに対して、初芝さんは藤森の性格の本質を正しく見れていたのだろう。僕にそんな助言をしてくる。
彼女自身もあまり自信がないのだろう。僕の知り合いを貶すことになるからか、少し消極的な主張だった。
「あはは、ありがとうございます初芝さん。でもすみません、そのお願いは聞けないです。……ちょっと、色々あるんで」
「あ、いえいえっ。私こそ篠崎さんの知り合いをあんな風に言ってしまってすみせまんでしたっ!」
僕がいずれ藤森に復讐するつもりでそう言った言葉。それを聞き、初芝さんが慌てて頭を下げる。的確に的を射た言葉だったが、行為自体は失礼だと感じたせいだろう。
「あはは……聞こえなければ大丈夫ですよ」
本当なら全力で肯定したい所だが、不自然に映るのでやめておいた。
「さぁ、全員が揃ったようですので自己紹介から。本日リーダーを務める、C級魔法系探索者の藤森と言います。よろしくお願いしますね」
藤森の挨拶に、集まった他の探索者がパチパチと軽い拍手で返す。
それにしてもまじかよ、藤森がリーダー? そう考えていると、奴は僕の方をチラリと見た。
そう思った次の瞬間には目は逸らされていたが、僕は見逃さなかった。口元がニヤリと笑っていたことを。僕を囮に使った時と同じ顔をしていたことを……。
「篠崎さん、大丈夫ですか?」
「え? だ、大丈夫ですけど……どうかしました?」
「いえ、その……顔が強張っていたので」
……初芝さんって天然でアホっぽいのに、本当に人を見ているな。前怪我をした時もそうだし、ギャップていうのか、本当ドキッとさせられるよ。
でも、僕と藤森との確執を話すわけにはいかない。心苦しいけど、騙させてもらうよ。
「なんと言ってもD級迷宮ですからね。あの言葉を聞くと本当緊張もしますよ」
「そう、なんですか……? 分かりました、でも無理はいけませんよ? ちゃ〜んと自分の実力をしっかりと見つめ、弁えた行動をしてくださいね? 間違ってもこの前みたいなことはやめてくださいよ? 怪我を治す私たちの気持ちも考えて欲しいんですから……」
ぐぅ! そんなに心配されるとめっちゃ心痛む! ……でも、でも……!
「はい、できる限り努力します」
初芝さんには悪いけど、僕はそう嘘をついた。……ごめんね、初芝さん。
「篠崎君、そろそろ行くそうだ」
その時、ちょうど僕たち2人を呼びに来た北垣さんを含めた合計3人で共に、僕たちはゲートに足を踏み入れた。
ここから先、藤森の妨害があるかも知れない。今の僕では勝てない。だから何もしないでやり過ごす。
……でも、向こうからは殺意を乗せた一撃が飛んでくるかも知れない。逆に言えば分かりやすい。……気が抜けないな……。
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