第107話 本戦 4か国スックラ領争奪戦

 そして時は流れた。


 スックラ領旧スクッラ城内にて――――


 「いつ以来であろうか……再び我ら4人が同じ場所に集結できるとはな」


 その男は一際大きかった。 


 「相変わらず、強健そうで」と言うのはルキウス王だった。


  ルキウス王も平均的な男性よりも背が高いのだが、そのルキウス王が見上げるほど、


 男は頭1つ分……いや、それ以上に大きい。


 男の名はブロック・マクマ・マディソン。


 大国マディソンの国王。


 マクマには2つの功績がある。


 『勇者』の選抜。そして『魔王』の討伐。


 人類の救済者として『勇者』と並ぶ英雄として後世に名が残る――――紛れもなく英雄王である。


「クスッ……貴方は強者に擦り寄っていくのがうまいわねルキウス王?」


 妖艶と言える声。 もちろん女性の声だった。


「フレヤー女王……やれやれ、不思議と貴方に言われると腹も立たぬ。相変わらず、お美しいかぎりで、いかがでしょうか? 俺……いや私が直々にお茶を用意いたしましょう」


「――――くだらぬ」とマクマが呟いた。


「……これは聞き間違いでしょうか? 今なんと?」


「くだらぬと言った」


 両者は睨み合う。先ほどまで、どこか下手に出ていたルキウス王も引かない。


 それが引いてはならぬ物だと主張するように――――


「古今東西、王が数奇を流行らせようとするのは褒美のため……奪略する土地が枯渇。その代用として、美術品を宝具として天井知らずの価値とする。それは即ち――――」


「駄目だと? 王が略奪を認めぬ世界を目指す事を!」


「ふっ、それは軟弱な思想。戦いによる国家統一こそ、王なる者の本懐だ」


「貴方は――――いや、お前は、魔王と同じ事を――――」


 思わず、掴み寄ろうとするルキウス王。しかし制止の声が背後から、


「ルキウス王、それ以上はお止めください」


「――――『勇者ブレイブ』 クロスか!」


 ルキウス王の言う通り、背後に立つ者は――――


 勇者 クロス  


 黒髪黒眼の男。 簡素な黒い衣服に深紅のマント。


 装備と言える物は腰に帯びた剣だけだ。


「魔王討伐後には、マクマの護衛を務めている。それで良いのか? お前ほどの男が!?」


「……ルキウス王、本当にそれ以上は」


「――――っわかっている。お前も剣を納めろ」


「――――」と無言でクロスは剣を腰に戻した。


 だが、危なげな空気を収まらない。だが、そんな時に4人目の、最後の王が口を開く。


「ほっほっ、剣呑、剣呑……若くて良いのう。しかし、怪我は良くないぞ」


「……はい、コウ国王」とマクマですら頭を下げた。


 シユウ国の支配者 コウ


 白い絹の服。手には杖。 高齢の王。老王でありながら、その野心は留まる事はない。


 広大な領土と長い歴史。 国力ではマクマ王のマディソンよりも劣るとは言え、影響力はマクマ以上である。


 何より、先の大戦では直接、兵を送らず後方支援に徹したため、他国へ恩を売る形でありながら、自国の兵力維持に成功している。


 単純な軍事力だけなら4か国で1番になるだろう。


「まさか、このまま老王に仕切らせるつもりじゃあるまい。マクマ、本題に入ろうではないか」


「はい、若輩者でありながら仕切らせていただこう」


マクマは一歩前に踏み出し、各王たちの前に立った。


「この地、スックラの所有権。事前に決まられた10年が経過した……魔王による混乱も、もはや過去の事だ。ならば、もう一度――――スラック所有権を決め直そう」


「ほっほっほ……そのために各国が代表者を決め、最後まで勝ち残った者……いや、国が総取りというわけじゃろ?」


 マクマの宣言に口を挟んだコウ王。 本来なら無礼と言われる行為だが、誰も指摘する者はいない。 しかし――――


「その件だが、ブラテンが王……ルキウスより提案がある!」


「むっ」とマクマとコウは眉を顰める。 フレイヤ―女王だけ、愉快そうに微笑む。


「なんだ? ルキウス王? 所詮はブラテンなる小国の王が口を挟むどころか、この場にいる事すら相応しくないと思え」


 マクマの言葉に対してルキウス王は、こう続ける。


「その通りだ。だからこその提案だ。 我が国ブラテンは、この戦いから身を引かせていただく」


「何っ?」とマクマ。


「なんじゃ?」とコウ王。


「……あらあら」とフレヤー女王。


 三人がそれぞれ驚きを見せる。


 完全な予想外。それぞれが国々の内情を調べている。


 口にしないが、ブラテンではどれほど苛烈な予選が行われたのか……無論、皆が知っている。


 誰も口にしないが、全員が


(なぜ、ブラテンは棄権をする……そんな理由はないはず……)


 そんな疑問を吹き飛ばすようにルキウス王は堂々と宣言する。


「加えて、我が国ブラテンは、スックラ領を本来の持ち主に返却する事を進言させていただく」


「本来の……持ち主?」と反復したのは誰だろうか?


 外交では百戦錬磨の王たちですら困惑を隠せない。


 だから……


「だから、この場においでいただいた! レナ・デ・スックラ!」


 扉が開く。 白いドレスに身を包んだ少女。彼女の正体は―――― 


 亡国の王女 レナ・デ・スックラ  

 

 ルキウス王の言う通り、スックラ王室の生き残り――――正統なるスックラの後継者であった。 



 

 

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