第92話 コリン戦決着。 続けざまの戦い

 (動き……明らかに違う)


 コリンは動揺を隠せずにいた。


 トール・ソリットの戦闘術――――大振りな剣に超火力の魔法。


 見た目ではそうだ。 しかし、相手の動きを予測して、繊細な戦術。


 ゴリ押しなファイトスタイルに見えて、戦略&戦術を重視している。


(しかし、今のトール・ソリットの動きは違う。 明らかに変化している!)


 復讐鬼トールは接近する。 剣の構え――――冒険者剣術とは違う。


 『我流 邪龍の舞い』


 力任せの一撃。 加えて――――乱打の剣撃。


 剣の基本がない。 ただ剣を鈍器のように使っている。


(それでいて速く、力強い! 防御したら負ける――――いや、俺とて常識に囚われているのか!)


 コリンも前に――――


(――――いや! 待てよ。 狂気はどうした? これは一体、いつから俺は正気を取り戻している?)


コリンは一瞬の動揺。 その隙にトールは剣撃を叩き込んできる。


 ――――ミシッ――――


 体から軋む音。 


 異音が全身から聞こえてくる……骨から異常を知らせてくるだ。


「ぐっ……効かない」


 コリンは不死鳥の力を発動させ回復する。だが、その時間をトールは許さない。


「その速度……速い。――――いや、速くなっているだと!」


 トールの体も復讐鬼の精神に引っ張られて身体能力が向上している。


「――――近づかせない! 『水球アクアボール』」


「フンっ! 切り裂け『風の聖剣エックスカリバー』!」


空中に浮遊したコリンの魔弾。 それは一瞬でトールの魔刃が切り裂いて破壊していく。


「この魔法『風の聖剣』はトールなんかよりも先に俺が使っていたものなんだぜ?。俺の方が奴より、強く速い」


「お前――――トール・ソリットっ!」


「いいや、俺は復讐鬼トール。同じ存在でありながら別人なんだぜ? 特技の1つは――――『狂気操作』だ」


 魔法破壊による精神動揺。それは肉体にも反映されて膠着が起きる。


 コリンの動きは止まった。 その頭部を片手で復讐鬼が掴む。


「よこせよ? お前の狂気を……俺は狂えば狂うほど強くなる」


「この――――化け物め! 『天使降臨』」


 復讐鬼の体。 刃物で刺すような痛みが走り抜けた。


 それも、何本も、何本もの刃で体を串刺しにされたような痛みだ。


「質量のある光だと!? ……ついでも切れ味と殺傷能力もかよ!」


復讐鬼は自身の肉体を確認する。 肉どころか皮膚も斬れていない。


しかし、体を貫かれた痛みが幻覚の部類ではなく、物理的ダメージ。


そして、目前には神秘が開始さていた。


コリンの体が光に包まれる。 その光の膜……奥に2人分の影が浮かび上がり―――――


「だが――――待っていた。そのタイミングを! 『火矢ファイアアロー』」

      

 放たれたのはトール・ソリットの極大魔法。


 魔法と同時にトールは剣を振るう。


 『ソリット流剣術 獄炎龍の舞い』


 切り札をきったコリン。 しかし、その思惑は失敗とも言えた。


 先ほどまで強引かつ豪快と言えたトールの戦術が別人のように変化した。


 今のトールが使用するのは精密な戦術。 魔法攻撃でこちらの動きをコントロールしてからの剣撃。


「ッ――――本当に、2人。 1つの体に2人の精神が存在している?」


「そう言ったつもりだ。……もっとも、俺じゃなくて復讐鬼が言った言葉だが」


「くっ! 天使よ、接近戦で! 不死鳥も――――」


「お前の敗因は単純シンプルだ。借り物の力に戦術を依存させ過ぎている」


「なにを――――」とコリンは最後まで言い切れない。


 接近戦を望んだコリンに対して、トールも前に出て打撃を繰り出したのだ。


「鍛えられた技術は、即座に戦術、戦略を組み立て、反射的に技を使用できる。 しかし、お前の天使や不死鳥は、戦いの最中に戦略と戦術を考え続けなければ戦えない」


 コリンは防御。トールの手数の多さに反撃の目がない。


 馬鹿な……攻撃の手数ならば、自身の肉体に加え、『天使』と『不死鳥』を動かせるコリンが勝るはずではないのか!


 そこで彼は理解する。


「つまり、俺には練度が足りない……と言う事か」


「当り前だろ。戦いの最中に新しく覚えた技を、イチイチ使おうなんて考えながらたたかっていたら、そりゃ大きな隙だろ?」


「――――ッ! な、なるほど。それじゃこの戦いは俺の負けか」


唐突なコリンの敗北宣言。とても素直に受け入れる事は出来ず、


「――――」とトールは怪訝な表情に変わった。


 これまで見せて来た執着とも言えたトールへの態度。


 いかに『天使』の影響で心が浄化された所で、魂にこびり付いたそれはコリンを死まで戦い狂わせるには十分な動機。


 そのはず……少なからずトールは、そう印象付けていた。


(俺の見込みが外れた? ――――いや、まだ何かある!)


 気配。 誰か見ている。


 しかし、それが分かっても、どこから攻撃を狙っているのか、測定はできない。


「なぁ、トール。俺はここで負けるかも――――いや、負けだろう。しかし――――俺の『天使』と『不死鳥』は返還させてもらうぞ!」


 コリンの背後から天使と不死鳥が消滅して、コリン本人も意識を失い倒れた。


「わかりました。必ず元の持ち主に返しますよ」


 新たなる人物の声。 それはトールの足元から――――


「この戦い、私が受け継ぎます……この聖・オークが」


 地面から生えたオークの巨大な手。人間とは比べる事すら馬鹿らしくなる握力と膂力はトールの動き封じるには十分だった。 


「地下……気配を消して、ここまで掘り進んできたというのか!?」


 そんなトールの驚愕も一瞬だけだ。


 地面が割れる。そのまま地下に広がる空間に引き込まれていった。  

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