第79話 魔剣持ちのシルグ顕現

 年老いた冒険者が酒を飲み、若者に絡んでいる。


 見た目の歳は60ほどだろうか? そう見える。


 しかし、実年齢は倍の120歳を越えている事は、ここら辺の冒険者たちは知っている。


 霊薬など宝具を手に入れたのか?


 それとも、祖先にエルフの血が混じっていて先祖返りでも起こしているのだろうか?


 しかし、それは些細な問題である。


 100歳を越える冒険者を続けているのは、他に仕事に就けぬ怠惰な男か。


 あるいは長きに冒険者を続けても苦にならぬ才ある男か。


 その老人は若い冒険者にこう言う。


「いいか? 若い奴らは、身の丈にあわぬ装備をすぐ欲しがる。そのなかでも魔剣なんぞに憧れて……」


「知ってるかい?」と老人は酒を一気に飲み下した。


「魔剣を手に入れた者は、全員が全員、非業の死を遂げておるんじゃぞ!」


 脅かすようにように言う老人の言葉、それを聞いた若者は――――


「そんな事は知ってるよ」と笑い飛ばした。そして、こう続ける。


「魔剣を手にしたら非業の死? そんなの当たり前だろ?」 


 まさか笑わせれと思ってみなかった老人はポカンした表情。 それが若者の笑いを加速させる。


「爺さん、それじゃ戦場で魔剣を持った冒険者がいたらどうする? 司令官は何とか倒そう魔剣持ちを優先して殺そうとしてくるだろ?」


「む……う~ん」と唸る老人を置き去りにして若者は、


「爺さん、魔剣持ちがいたら噂になる。みんな、ソイツに挑もうとするんじゃなかい?」


「……」


「爺さん、魔剣持ちってのは強いんだぜ? だったら、より困難なダンジョンに、より困難な魔物討伐に挑むに決まってるだろ?」


「……」


「だから、爺さん。魔剣持ちは非業の死を遂げるんじゃねぇんだ。強いから、人よりも困難に挑む……より純度の高い冒険者になるから――――非業って言われるような状態じゃねぇと死なないんだよ!」


 そう言うと若者は立ち上がり、「面白え話をありがとうな」と賃金を置いて振り返った。


 その背中には、立派な長剣が備わっていた。


「あ、あんた……まさか?」


「おうよ、魔剣持ちのシルグは俺の事よ!」


 魔剣持ちのシルグは、その言葉の通り怒涛の活躍を見せた。


 数々の戦場に現れては、武勲を立った。 シルグを討とうと多くの軍師たちが知恵を絞りだした珠玉の策を真っ向から打ち破っていった。


 いまだ最深部は未踏と言われるダンジョンがあると聞けば、何年もかけて攻略をした。


 最強の魔物が現れたと聞けば、率先して挑み――――不眠不休の戦いを何日も続けて、ついに打ち取ったという。


 そして、やはり――――非業の死を遂げる。


 初めて来た町の初めて入った店。 そこで食べた食事に店員が毒をもり――――


 殺害した店員の動機は、自分も魔剣を手に入れれば英雄に成れると信じたからだそうだ。


 魔剣を手にした店員は、歓喜のままにダンジョンに挑み――――その日の内に死んだ。


 それ以降、魔剣の行方は不明となった。


 ・・・

 

 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


(走馬灯のように記憶が蘇る……なるほど、俺が生きていた最後もそうだったな)


 骨将軍は、かつて魔剣持ちのシルグと名乗っていた時代の記憶を思い出してた。


 目前で放たれているトールの技は――――


 『ソリット流剣術 破龍の舞い』


 武器破壊を目的とした剛の剣技。 その技は、まるで剣撃の津波。 


 全方向から豪の技が怒涛の勢いで迫り、相手の剣や防具を破壊尽くしていくのだ。


 骨将軍は、抵抗するように、自身に打ち込まれていく攻撃を受け、弾き、防御を重ねる。 


 しかし――――感じる。そう感じるのだ。


 手にしている魔剣『腐食の魔剣』が受けるたびに刃が削られる。


 それと同じく、自身の中にある魂も削られていく感覚。


 骨将軍 魔剣持ちシルグは崩れ行く魔剣と自身の体を見ながら――――


(禍々しくも美しかったお前が…… 俺のせいで腐なんて不名誉な属性で呼ばれるは……そんな物語の最後に俺は耐えれない。だから――――)


「――――ッ!? 」とトールは技を止め、背後に下がった。


 それと同時にトールの剣が折れた。 ――――いや、それは折り込み済み。


 腐属性の魔剣を破壊するために、猛攻を打ち込んだのだ。 確かに、それは予測済みだったのだが……


 トールの誤算は、骨将軍の魔剣を叩き折る直前に、自分を背後に引かせる何か異変が――――


 骨将軍の体に異変が起きた。

 

「この圧力……何が?」と動揺するトール。 その直前には――――


「へっ! やっぱりだ」と男の声がする。


「あのインチキ爺さん。何が魔剣使いは非業の死と遂げるだ。そんなの嘘ぱちだったぜ」


 カラカラと男は笑った。


 あの日、あの時、いつかの酒場で老人の言葉を笑い飛ばした時と同じ、豪快な――――英雄の笑い声だった。


「今まで戦ってきた相手よりも強い男が立っている。そんな奴と全盛期の体で戦う最後……それ以上の幸せがあるか?」


 それは、歴代冒険者最強の1人とも数えられる男。


 魔剣持ちのシルグ――――ここの顕現したのであった。


 

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