第64話 大聖堂の戦い 聖・ヨハネ2世対聖・オーク

 中央都市に聳え立つ建物。  


 大聖堂。


 この地、ブラテンの国教である教団の本拠地。


「ようこそ、おいでになりました」


 老人が1人。入り口で客人を待つ。


 その人物は教皇。 教団において精神的指導者――――教団の最高権力者と言ってもいい。


 そんな、偉い偉い教皇に対して、客人は――――


「うむ、良きに計らえ」


 それだけ言うと、歩みを止める事なく、ずかずかと大聖堂の入り口へ。


 その人物は、当然ながらブラテンの王。 ルキウスだ。

 

 教皇は顔を上げると、ルキウス王に対して嫌な顔をした。 


(ここは大聖堂。文字通りの聖地、聖域…… 教団は、国からの関与は受けない。それが長い間、暗黙の了解ではなかったのか!?)


「むっ、どうした教皇? 何か嫌な事でもあったか?」


「!?」


 振り向かず、一瞥もせずに教皇の顔を言い当てルキウス王。


 教皇は、焦りを隠せず――――


「いえ、なんでもございません」と返すだけしかできなかった。


 それを満足そうに、最初の言葉――――


「うむ、良きに計らえ」と繰り返した。


 今度こそ、教皇は感情を気づかれないように歯ぎしりをした。


 ルキウス王は暗黙の了解を無視したのだ。


 それまでの前例を無視して、歴史上、初めて大聖堂を内部を闊歩する王となった。


 しかし、その姿に一切の負い目はない。 それどころか、当然、当たり前のように歩いて行く。


 その目的は――――


「どうやら、少々待たせたかな?」とまるで主催のように大聖堂の最深部にある扉を開いた。


 そこには2人が待っていた。


 正確には2人の聖者――――聖・ヨハネ2世と聖・オークだった。


 聖・ヨハネ2世は350才を超える年齢の若々しい女性だった。


 聖・オークは……オークだった。


「うむ、早速であるが――――貴様は窮地にある! 国家の危機、国教である貴様らの宗教商売にも大打撃を受けるぞ。それが嫌なら、俺に手を貸すがいいぞ」


 あらゆる物事を棚上げにした物言い、流石に2人の聖者は顔を見合わせた。


 それから、先人であるヨハネ2世が、


「……なるほど、我らは構いませんが、熱心な信徒が困るのは見逃せません。具体的には、どのようなお手伝いをご所望でしょうか?」


「まずは貴様ら2人は戦い、それを俺に見せろ。これは、ブラテン代表者を決定する国内予選となるぞ」


 どうやら、詳しく説明をするつもりはないルキウス王。


 完全に自己完結をしている。 2人の聖者も諦めたかのように詳しい説明を求めない。


「戦えと言われましても」とヨハネ2世は苦笑する。


「私は、いつでもオークくんを殺す気構えでいるのですよ」


 瞬間、凍り付くような殺気が周囲に広がる。


 それを受け流すように、微動だにしない聖・オーク。


「……私たちは同門同士、死闘は禁じられています」


「ふふっふ……果たして、これは私闘に入るのかな? 国の窮地は信徒たちの窮地。神も喜びになられますよ」


「――――教皇さまを含めて、我々3人は教団内で同じ力を有します。 私たちの戦いは教団の分裂を意味します」


「いいではありませんか? 分裂? このままでは国教としての教団はなくなるのですよ?」


 ヨハネ2世は、ゆっくりと歩き出し間合いを詰める。


 その速度に対して、聖・オークは立ち上がると同じ速度で下がる。


「う~ん、これでは間合いは縮みませんね」と笑顔のヨハネ2世。


 対してオークは無言、無表情。


 ヨハネは懐からナイフを取り出す。 聖者が手にした武器、それはすでに聖剣と同等の効果を有す。


「それ」と気の抜けた声と同時に投擲。 しかし、それが聖・オークに届く事はなかった。


 空中で失速、聖剣と化したはずのナイフは、金属音を鳴らして地面に転がった。


「ほう……これが聖人同士の戦い。まるでわからん! おい教皇、こっちに来て解説せよ!」


 突然、呼ばれた教皇。 彼は避難も兼ねて離れた場所で戦いを見守ろうとしてた。


 そのため「~~~~ッ!」と何か言いたげな言葉を噛み潰して、


「わかりました。わかりましたよ! 御解説させて進ぜましょう!」


 ヤケクソと言わんばかりに、ドカドカと音を立ててルキウス王の横に立ち、不敬ながら座り込み胡坐をかいた。


 ルキウス王は、それを咎めない。 それどころか、


「ほう、覚悟を決めたな。 衰えても組織の長であるな」と絶賛していた。


「絶賛ついでに聞こうではないか。それであれはなんだ?」


 ルキウス王が指さしたのはヨハネ2世は投げ、地面に転がったナイフ。


 そのはずだったが、変化が起きている。 教皇は目を見開き――――


「あれは、ナイフから植物が生えてきている。聖・オークさまの力!」  

  

 次の瞬間、そのナイフから大量の植物の根が…… 大聖堂の部屋がジャングルへ変わった。

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