第60話 教会の戦い ハイド対コリン開戦③

 トポロジーの縮剣


 トポロジー……位置と場所。言葉と学問。 それらの意味を組み合わせた言葉。


 それは宇宙の形を計測するために生まれた概念。


 だから、その魔剣には――――

 

 刃を伸縮させるだけではなく、その形状を大きく変化させる。


 ゆえに――――


「解放せよ、トポロジーの縮剣」


 巨大化した魔剣。勝利を確信していたコリンは、いとも簡単に押しつぶされた。


「不死身殺しの基本です。不死身なら殺し切る……重さに押しつぶされれば死ぬ続けるしかありませんよね?」


 ハイドが示した不死身を倒す3つの方法。


 『永遠と殺し続ける方法』


 『どこかへ隔離して封印状態にする』


 『あるいは精神汚染系の攻撃により、体より心を破壊する』


 そのうち、『永遠と殺し続ける方法』と同時に『どこかへ隔離して封印状態にする』の2つを実行したのだ。



「けど……困りましたね。これで周囲の兵が救出に来ません……この程度では死なないという信頼が強いのですね」


 振り落とされ、地面に突き刺さった巨大な魔剣。


 それが、ガタガタ……と震える音が聞こえる。 魔剣の下からコリンが――――


 「死ぬところでした」


 這い出るコリン。


 不死鳥の回復能力。それは肉体を酷使でき、疲労した筋肉を大きく発達させていた。


 今の彼はの腕力は、細身の見た目と相反して――――


(オーク以上の膂力……いえ、オーガクラスにまで達していますね。加えて――――)


 コリンの肉体から水蒸気のような煙が立ち上り再生が始まっている。


 外部へ排出される体温。外気に触れ――――


「その姿、まるでゾンビですね」


「ふっ、聖職者がゾンビの存在を信じますか?」


「ん? あぁ、この地では死者が蘇るのは宗教的にタブーでしたね。私とは違いますが……」


「スックラの宗教。やはり野蛮ですね」


「挑発ですか? 宗教批判は危険ですよ」


「忠告恐れ入りますが……攻めてこないのですか? 話をしている間に回復しましたよ」


「――――」とハイド神父は無言だった。  頼りの魔剣はコリンの背後になる。  


 実を言えば、この展開はハイド神父にとっての計算外。


 本来は、すぐさまコリンを排除して、体力の回復に集中するつもりだった。


 意図的に意識レベルを低下させ、起きながらも睡眠状態で体力を回復させる。そいう技術を持っている。


 対して、コリンは無尽蔵の体力と腕力。 なにより回復能力……


 持久戦の泥試合。籠城戦を強いられているハイドにとっては回避したい状況。


(さて、どうしたものでしょうか? 魔剣の回収は不可能でしょうね。サブウェポンも用意はありますが……不死身殺しに挑むには、いささか準備不足。 この場を退け、教会の武器貯蔵庫で……)


「どうしました? 集中力が散漫ですよ!」


 コリンは剣を振るう。 優勢ゆえに勢いのある剣の舞い。


 避けるハイド……いや避けるだけではなかった。


 回避と同時に隠していた武器、ナイフでコリンの腕を斬りつけた。


 本来なら武器を手放す深傷。 無論、コリンは瞬時に――――


(? いや、回復が遅い? なぜだ)


 ハイドの疑問。 手にした武器は、ただのナイフに過ぎない。


 だが、コリンは傷口を庇うような仕草を見せている。そして、


「――――そのナイフはっ!」と明らかな動揺。  


「……そうですか。貴方は、このナイフで一度死んでますね」


「――――」


「貴方の不死身が因果律操作系ならば、既にこのナイフは貴方を殺した事実が刻み込まれている。逆説的に、このナイフでのみ貴方が死ぬ」


「――――そうですね。不死身を持ってようやく埋められていた力量差。そのアドバンテージがなくなるとなれば……」


 言葉とは裏腹に、コリンの瞳には爛々とした活力の炎が灯り、揺れている。


 それを見抜いたハイドは――――


「なるほど……まだ切り札があるということですね」


「えぇ、肯定します。では――――」


「行きます」とコリンは発声できなかった。


 その直前に女性の声が両者を止めた。


「待ってください! これはなんですか!」


 この声の主は依頼を終え、戻ってきたレナだった。


 そして、その背後にはグリアが付き添っている。


「――――レナさま」


「あれが? スックラの、亡国の姫君? ……猟犬部隊はなにを?」


 コリンのハイドから視線を外すと周囲を窺う。


 兵隊は警戒を強め――――いや、合図さえあれば捕らえに動く準備をすませている。


 しかし、命を発するブレイク男爵は「……」と厳しい顔で無言を貫く。


 その視線は愛娘であるグリアに向けるも、やがて――――


「捕らえろ。我が娘も拒めば――――生死も問わない」 

 

 その命を発した。


 

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