第42話 さらばブライアン!

【マリリンの突然の告白から二日後】


 あの日以来、俺とマリリンの関係は元に戻った。

 むしろ、より自然になったといっていい。


 最初は互いに意識してしまって、どこかぎこちない会話が続いていたのだが、みんなで村を散策したり、足りない物を購入しに行ったりすることで、二人の固さも次第に自然になっていった。


 そして現在、鬼族の国に向かうため、それぞれが必要な物を馬車の中に積み込んでいるところだった。


「シン、準備できたわよ。後は、オグラさんのところに行けば、馬車を動かしてくれる馬族の人が待っているはずよ。」


「ん、疲れた。猫ちゃんと馬車で寝る……。」


 朝が弱いヒヨリンは眠気眼を擦りながら準備をしていた。

 そして、遂に二度寝タイムに入るようだ。

 白いモフモフを抱きかかえて……。


「もう勝手にしろニャ!」


 ところでマリリンが言うオグラさんとは、以前シンがブライアンに無理矢理連れられて行った虫専門のペットショップの店主のことである。


 商店街で馬車を運搬してくれる人を探していたところ、偶然オグラさんがペットショップと兼業で馬車による運搬の仕事も営んでいる事を知り、昨日話をつけに行ったのだ。

 すると、快く引き受けてくれた。


「んじゃブライアン、オグラさんの店までよろしく!」


「お? オグラんとこいくのか? わかったぜバーロー。」


 ブライアンはよくわかっていないようだが、そこでお別れだ。

 ブライアンは馬化すると、みんなを乗せた馬車を引いてオグラの店に向かった。


 こいつとも、そこでお別れか……。

 短い間だったけどやっぱ少し寂しいな……。


 このメンバーの中では、アズを抜かせば一番一緒にいた時間が長いブライアン。

 気持ち悪い見た目と頭の悪さから、当初は色々と思うところもあったが、今ではブライアンのあほさ加減が俺にとって心地よい距離感に感じていたのだ。


 そんな事を考えていると、あっという間にお別れの場所にたどり着いた。


「相棒! 着いたぜバーロー。お? なんかオグラの野郎がたってやがるぜバーロー。」


 ブライアンとオグラはあまり仲がよくない。


 目的の場所に到着した俺は、馬車から降りて、店の前に立っているキャップ帽を被ったオグラさんに挨拶をした。


「おはようございます! 今日はよろしくお願いします。」


「はい、こちらこそよろしくお願いします。皆様、お揃いですね?」


「はい、全員揃ってます。荷物が少し多いですが大丈夫ですか?」


 俺達はブライアンを基準にして荷物を積んでいたため、一般的な馬族の力がわからなかった。

 するとオグラさんはブライアンをちらっと見ると、この馬車を運んできたのがブライアンだと察する。


「はい、この3倍くらいなら余裕ですよ。そこの変なアゴには無理でしょうが……。」


 オグラさんはブライアンを挑発した。


「お? やんのかバーロー? 今日こそ俺っちのカブっちがボコボコにしてやんぜ?」


 カブっち?


 そういうと、どっから出したのか、ブライアンは1匹のカブトムシを取り出した。


「ふ、今日も泣いて帰りたいっていうのか。いいだろう! その勝負受けて立つ!!」


 オグラさんは、オオクワガタを取り出した。

 流石にこれには俺も黙っていない。


「ちょ……ふざけんな! 昆虫大戦争は他の日にやってくれ! 今日は大事な旅立ちの日だろ!!」


 これから旅立つというのに、ふざけた催しを披露しようとした二人にキレる。

 すると我に返ったオグラさんはすぐさま謝罪した。


「すいません! つい熱くなってしまいました。では、さっそく向かいましょう。」


「お? 逃げんのか? じゃあ俺っちの勝ちだなバーロー!」


 ブライアンは子供みたいな挑発をする。

 まぁ一応14歳……。


「ブライアン! いい加減にしてくれ! あんまふざけてるとこのまま何も言わずに旅立つからな。」


 俺の本気の声に流石にブライアンも謝る。


「お? すまねぇ相棒。つい調子に乗っちまったぜバーロー。」


「別れの時くらいちゃんとさせてくれよ。じゃあな! ブライアン、無事帰ってきたらまた会おう! お前の事……嫌いじゃなかったぜ!!」


 俺はそう叫ぶと馬車に飛び乗り、扉を閉めた。

 別れに時間はかけたくない、寂しくなるから……。

 そんな思いからブライアンとの別れは非常に呆気ないものであった。


 馬車の外からブライアンの声が聞こえる。


「あばよ! 相棒! それじゃあ行くぜ!」

「あぁ! ブライアン! 絶対また会おうな!!」


 俺は窓の外を見ない。

 悲しくなりそうだったから。

 既に俺の目には自然と涙が溜まっていた。

 こんな情けない姿は見せたくはない。


 そして馬車は走り始める。


 あばよ……ブライアン。

 お前の面は一生忘れないぜ……。


 ブライアンとの感動の別れを済ませた俺達であったが、ふと異変に気付いた。

 馬車のスピードが思ったよりも早い。

 この速さだと予定よりも早く着いてしまいそうだ。


 この速さは……そう、慣れ親しんだブライアンと同じ速さである。

 もしかしたらオグラさんはブライアンと張り合って無理しているのかもしれない。


 そう思うと、俺は御者(馬)に向かって声をかけた。


「あの~、オグラさん? 大丈夫ですかこんなスピードだして? 自分のペースでいいですよ。そんなに急いでいませんから。」


 すると、思いもよらない声が返ってくる。


「お? 俺っちにはこれが普通だぜ? 相棒」


「!? ブライアン!?」


 俺が馬車の扉を開けて、前方で馬車を引っ張る馬をみると、慣れ親しんだ気持ち悪い人面馬ことブライアンがそこにいた。


「おう、相棒。元気だったか?」


 もう意味がわからない……。


「おま……なんで……?」


 俺は言葉を失った。


「ブライアン……話聞いてたか? つか、さっきの感動の別れはなんだったんだよ……。」


「相棒……俺っちはな……。」


「なんだよ、言い訳なんか聞きたくないぞ?」


「俺っちはな……暇なんだ。相棒が行くならどこにでもついていくぜバーロー。」


「アホか! 大体これから行くところ分かってるのか? お前の大嫌いな鬼族のいる町だぞ? わかってるのかよ!!」


 俺が声を荒げているのは、ブライアンを心配していたからだった。

 ブライアンは普段は全く怒らないお人よしだが、鬼族に対してだけは違う。


 周りが鬼族だらけであれば、ブライアンも自分を抑えることができないと思った。

 だからこそのお別れである。


「おう、心配すんな。なんかあったら相棒がなんとかしてくれんだろバーロー」


 ブライアンはなぜか全く心配なんかないといった風に俺を告げる。


 こいつ……。

 もしかして全部わかってて……。

 

 と思うが、実際にはブライアンは何もわかっていなかった。

 ただなんとなくいつものように、馬車を引っ張っていっただけだった。


 もちろん、鬼族の町に行くことだけはわかっていた。

 が…そ…こについては


 「相棒がなんとかしてくれるだろ」


という事で自己完結しているのだった。


「他力本願かよ! ったく……当分お前のあほ面見なくてすむから、清々していたのによ」


「おうよ! 任せたぜ相棒!!」


 呆れるように俺は言うが……その顔は笑顔であり嬉しそうだった。

 そう、本当に嬉しかったのだ。

 ブライアンに頼られている自分が嬉しかったのと、またこの面白い奴と一緒に旅ができる嬉しさ。


 恥ずかしくて口には出さないが、その感情は顔に出ており、隠しきれていない。

 そんな俺を見ていた、マリリンとヒヨリンも俺の嬉しそうな顔を見て微笑んでいる。


 なんだかんだ二人も、ブライアンがまた一緒に来てくれるのを頼もしく思っていた。

 そして本当は嬉しいくせに憎まれ口を叩いている俺を見て、心が温まるのを感じていたのだった。


 こうして、俺達はブライアンと別れることなく、鬼族の町に向かうのだった……。




「おい! 待ってくれ! 俺は? 俺はどうすんだよぉぉ!!」


 というキャップ帽を被ったオグラキャップさんの悲痛な叫びを村に残して……。


【第一部 完】

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パーフェクト・アナザーワールド〜俺はバスケットボールでこの異世界を制する〜 キミチカ @okujapan

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