まるで物語に出てくる騎士様みたい!(白目)
「しかし、あれだけ大声で喚きながらしっかりついてきているのだから、まことに驚嘆すべき運動能力ではあるな。」
「同感であります。ここに至るまで息継ぎすらしないとは……一体どのような改造をレッカどのは受けられたのでありましょうか……」
「いや、改造……ううむ……」
「つーか走りづらいんだよこのハカマ!!!! あ、今ビリっつった!!! 股のあたりビリっつったよ今!!!!」
「まったく、小生の一張羅に何をするか。」
「あとで小官が縫い合わせておくであります!」
「おん? てめー裁縫できんの?」
「
「興味深いな。君の力も早く見てみたいものだ。」
「えへへ、ご期待に沿えるようがんばるでありますっ!」
みたいなことを言い合いながら、一行はオブスキュア王国第二都市、オンディーナへと向かうのであった。
●
幽骨製の蒼き大剣が優美な孤を描き、オークのずんぐりとした足首を斬り裂いた。
腱が断ち切られ、悪鬼は地響きとともに仰向けに倒れる。
唸るような声を上げながら身を起こそうとするオークに、二人の騎士が風のように駆け寄り、同時に剣を振り下ろした。淡い蒼光を宿した幽骨の切っ先が、手首の腱を一瞬で切断する。
対オーク戦術の基本だ。雄大な上半身を持つこの種族は、必然的に体の重心が上に寄っている。背後に回り込みざまに足首の腱を切断すれば、転倒させるのは容易い。あとは素早く両手を使用不能にする。エルフ族の数倍の体重を持ち、強靭な生命力が備わっているオークを殺すのはひと手間だ。それよりも戦闘能力だけ奪って、本格的に命を絶つのは戦いの後にすべきだった。
この戦術を駆使するために、オブスキュア貴族は常に三人一組で敵と相対する。
「きりがないな……」
エルフの騎士が、憔悴した顔をしかめる。着装している魔導甲冑も、輝きがやや鈍い。
人族やオークが用いる鉄製の鎧とは異なり、非常に軽量かつ堅牢だ。動きを全く阻害しない。しかし消耗は隠しきれなかった。両手足を使用不能にしたところで、オークの抵抗の意志が消えることはあり得ない。地面を這いずりながら噛みつきにかかってくるのを注意しながら戦い続けるのは心身ともに消耗が激しい。オブスキュア騎士剣術の深奥に開眼すれば、一人で正面から瞬時にオークの首を刎ね飛ばす絶招を会得できるものの、その域に至った者を彼は一人しか知らない。
「なんだ、もう息切れか? ラナンキュラス家の威光が泣くぞ、軟弱な」
「この状況で弱音の一つも漏らさんのはおかしいだろう。あれが〈聖樹の大門〉に陣取っている限り、希望などないのだぞ」
もう一人の騎士を睨み返す。
第二都市オンディーナは、中央に〈聖樹の大門〉を擁し、その周囲に平民たちの住処が自生している。しかし、巨大な虫のような姿をした正体不明の魔獣が突如として空より飛来。〈聖樹の大門〉の樹幹に取りつき、精霊力に干渉する何らかの妨害波のようなものを放射しはじめた。
これによって、オンディーナと直接繋がる〈聖樹の門〉が連鎖的に機能を停止し、他の都市との連絡が途絶。補給も援軍もないまま、半月もオークたちと戦い続けていた。
千人余りの平民たちは、全員樹上庭園に避難させていたが、オークの軍勢は次々と大樹の幹に生成された螺旋階段に殺到し続けている。都市の全周囲をオークの軍勢が包囲している以上、狩りも採集もできまい。そして、今まで必要が全くなかったがためにあまり食料を備蓄する文化がないエルフたちの篭城は、持ってあと三日といったところであろう。
昨晩、上から平民たちの代表がやってきて、自分たちも戦いたいと言ってきたが、丁重に断った。
確かに平民たちは普段から森の禽獣相手に狩りをして日々の糧を得ている。その弓術は素晴らしいものだ。だが、そもそもオークに対して弓はほとんど有効打にならない。なめした革のように硬い表皮にほぼ弾かれてしまうし、仮に刺さったとしても分厚く緊密に締まった筋肉を貫いて重要器官まで到達できる可能性など絶無だ。倒せないどころか足止めにすらならないのである。
それよりなにより。
「希望? そんなものは不要だ。我らオブスキュア貴族は、平民を守るために生き、戦い、死ぬ。勝ち目があるだのないだの、どうでもよいことよ」
貴族としての誇りが、平民を矢面に立たせることを許さない。
「それは、そうだが……」
騎士は眉をしかめて押し黙った。納得している風ではないが、反論が特に思いつかないようだった。
「卿ら、新手だぞ。益体もない雑談は後にいたせ」
「ふん、飽きもせずにご苦労なことだ」
希望などない。恐らくオブスキュアは滅ぶだろう。オークたちは破壊と殺戮のみを喜びとする。どのような対話も不可能だ。王国民は残らず虐殺され、解体され、その屍は雑に焼かれて骨ごと貪り食われてしまうことだろう。別段、そのような末路に怯えるような軟弱者などオブスキュア貴族にはいないが、平民たちまでその憂き目に遭わせてしまうのは無念かつ屈辱だった。
何日か前に、第三王女殿下がシュネービッチェン卿を伴にしてやってきた。はたして今どこでどうしているのやら。
異界の英雄を呼び出す――などと言っていたが、さすがに絵空事が過ぎるというものだ。
だが、我らを勇気づけるために、必死で拙い嘘を語ってくれた、その心がうれしかった。
――気にかけていただいたのだ。もうひと踏ん張りするかね。
見ると、濁った咆哮を上げながら、オークが群れを成して突進してきていた。螺旋階段はすでにオークどもの屍が土嚢のように積み上がり、耐えがたい血臭を撒き散らしている。
三人のエルフ騎士は、それぞれの得物を構え、迫りくる破滅を待ち受けた。
ある者は鋭く敵を睨み、またある者は不敵な笑みを口の端に乗せながら。
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