IN☆NOW
憤然と起き上がり、殿下の首根っこをつまみ上げながら憤然とこちらに向かってくる烈火。そして何故か目をキラキラさせてテンション上がってる様子のシャーリィ。本当に何故だ。
その様を見て、総十郎は懐から札を取り出した。
「その、樹精鹿、であるか? 繋いでいる場所に案内してくれたまえリーネどの。」
「あ、は、はいっ!」
「なんか俺だけ扱い雑じゃね!? 敬われてなくね!?」
「己の言動を思い返して胸に手を当てゝ考えて見よ。まあ、そんなことはともかく、ほれ。」
総十郎どのの掌に、いつの間にか折りたたまれた衣類が出現していた。
リーネとフィンはそろって目を丸くする。得物を出したときもそうだったが、いったいこの御仁はいかなる力を秘めているのだろうか。リーネの知る魔法体系では考えられない現象である。
「無から有を……
フィンが呆然とつぶやくが、意味はよくわからなかった。
「貴様は良い加減服を着よ。ご婦人の前で無礼である。」
「ああ? ……おう」
というわけで黒神烈火はまっとうな服を(ようやく)手に入れた。
「うぉーい、ちょっと待てこれどことどこを結ぶんだこれ」
「やれ/\……手のかかる奴め。」
総十郎が着付けを手伝い、完成したフル装備烈火。
サイズが微妙に合ってないせいか、ややビチビチしていたが、ともかくこれでようやくリーネは落ち着いて烈火の姿を見ることができた。
――ううむ、精悍だな。
思わず唸る。まともな格好をしてさえいれば、実に頼りがいのありそうな丈夫である。さすがは英雄どのと言ったところか。武人の鑑として上座に飾っておきたいくらいかっこいい。
「うむ、馬子にも衣裳。縦襟シャツに
「いやあの俺そういうんじゃ……まぁいいか!! この超天才に着られて服も泣いて喜んでるだろうよ!!!!」
「洗って返せよ。」
「こまけえ野郎だな畜生!!!!」
そこで烈火は袷の襟から手を伸ばして顎を掴み、こちらに流し目をした。
「おやおやおや? 俺サマのハイパーイケメンぶりに見惚れて『素敵! 僧帽筋モミモミさせて!』とか思ってそうなメスの匂いがしますぞ?」
「そんな特殊な嗜好はもってないっ!」
「つまり陰嚢のほうがいいのか」
ハルバードの石突が烈火の股間を打ち抜いた。
「レッカどのの発言、どういう意味なのでありますか?」
「フィンくんは知らなくて良いのだよ。」
「そうですっ! ずっとそのままのフィンどのでいていただきたいっ!」
「???」
「ってええええええええなテメェ!!!! その過剰な反応を見るに陰嚢が何なのかは知ってやがるなこの耳年増がッ!!!!」
ハルバードの石突が烈火の股間を打ち抜いた。
のたうちまわりながら悶絶する烈火を置いて、一行は樹精鹿のところへ向かうのであった。
●
フィン・インペトゥスは、眼を真ん丸く見開いた。
細い樹木が成長し、絡み合い、鹿の形に編みあがったような姿の生物が、一行の前で佇んでいた。
密な組織を形成する蔓の狭間から、ぼんやりとした蒼く淡い光が染み出している。
シャーリィ殿下の瞳に宿るものと、まったく同じ光だ。
鼻先に停まった蝶を、穏やかな知性を感じさせる眼で見つめていた。
その頭頂部より、翠色の透き通った角が枝分かれしながら長く伸びている。
森の中を満ちる光の粒子が、その角に吸い込まれ、また吐き出されてゆく。
あれが、この生物にとっての呼吸であり、食事であるようだった。
「クレイス、ラズリ。待たせたな」
リーネが声をかけると、二頭はふい、とこちらを向いた。蝶が飛び去ってゆく。
だく足で近づいてきた二頭の頭を、女騎士は顔の両側に迎え入れ、抱き寄せた。
「心配ない。オークどもに襲われはしたが、いろいろあって切り抜けた」
目を細めて頬を寄せてくる二頭を、優しく撫でてやるリーネ。
「ほら、殿下がきちんと異界の英雄どのを召喚してくださったぞ。しかも三人もだ」
こちらを示すと、二頭は落ち着いた足取りで近づいてきた。
「お、おっきいであります」
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