夜汽車

汽車


小さな茶色いカバン一つ、腕の中に納まるサイズ


それだけが僕のすべてなのだと悟った。


白地に蒲公英の刺繍の施されたハンカチだけは、どうしても捨てることが出来なかった。


君がくれた唯一つの物だったから。


夜汽車に乗るのは初めてだった。


多くの人が乗っているはずなのに、ここでは僕一人だけが漂っているように感じる。


寂しいのか、それとも柵(しがらみ)から解放されて嬉しいのかわからない。


ただ夜汽車と共に、夜の道を黙々と走り続ける。


時折強いライトの光が、目に当たって瞳を瞬く。


気だるげな僕の体に残されたのは、君の思い出だけ


夏の名残がまだ胸の内に残っている


ああ、消えないで

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