第96話 引っ越しそば
「なんでオメエがいるんだよ。カウラ」
かなめは喫煙所のソファーに身を任せる。そして一言そう吐き捨てるように言うとタバコに火を点す。そのまま大きく息を飲み込み、天井に向けて煙を吐いた。
「私がいるとまずいことでもあるのか?」
そんなかなめの態度に苛立ちながらカウラがかなめの前に立った。
「ああ、目障りだね」
そう言いながらまたタバコを口にくわえる。明らかに不機嫌になるカウラに誠はおどおどしながらどうすれば間を取り持てるか考えていた。
「あの、良いですか?」
にらみ合う二人に声をかけたのは少年兵アン・ナン・パク曹長だった。
「何だよ。タバコを止めろとか言うのは止めとけよ」
「違います。嵯峨隊長にこれをもってくるように言われたので」
そう言ってアンがスーパーのレジ袋を差し出した。とりあえず誠がそれを受け取って中身を見る。
手打ちそばが入っていた。
「本部で嵯峨隊長にこれをみんなで食えって渡されたんだが。そのまま帰っちゃって……あの人は一体、何しに本部まで来てるんですか?」
アンがカウラの方に目をやる。
「昨日言ってた引越しそばだな。誠、パーラを呼んでくれないか」
カウラの言葉に誠はそのままアメリアの部屋の前に向かった。島田をはじめ、手伝っていた面々はダンボールから漫画を取り出して読んでいた。
「パーラさんいますか?」
「何?」
部屋の中からパーラが顔を出す。当然、彼女の手にも少女マンガが握られていた。
「なんか隊長がそば打ったってことで、アン君が来てるんですけど」
パーラは呆れたようにすぐに大きなため息をつく。
「隊長はこういうことだけはきっちりしてるからね。アメリア!後は自分でやってよ」
そう言うと漫画をダンボールに戻してパーラは立ち上がった。
「サラ、それに西君。ちょっとそば茹でるの手伝ってよ」
パーラの言葉に漫画を読みふけっていたサラ達は重い腰を上げた。パーラは一路、食堂へと向かった。
「アン君。こっちよ」
喫煙所前で突っ立っていたアンに声をかけると、パーラはそのまま食堂へ向かった。
「そばか、いいねえ」
タバコを吸い終えたかなめがいる。
「手伝うことも有るかも知れないな」
そう言うとカウラは食堂へ向かう。
「何言ってんだか。どうせ邪魔にされるのが落ちだぜ」
かなめはあざ笑うようにそう言うとそのまま自分の部屋へと帰っていった。誠は取り残されるのも嫌なので、そのまま厨房に入った。
「パーラさん。こっちの大鍋の方が良いんじゃないですか?」
奥の戸棚を漁っている西の高い音程の叫び声が響く。
「しかし良い所じゃないですか。本部から近いしこうして食事まで出る……建物はぼろいですけどね」
周りを見回すアンにカウラがきつい視線を送ってくるのを感じて、誠はそのまま厨房に入った。
「誠君。竹のざるってある?」
「無いですね。それに海苔の買い置きって味付けしか無いですよ」
誠は食器棚を漁っているパーラに答えた。
「わさびはあるわ。それにミョウガも昨日とって来たのがあるわよ」
「グリファン少尉。あんまりそばの薬味にはミョウガを使わないと思うんですけど。ネギがあるからそれだけで十分ですよ!」
「だから冗談よ!」
西に突っ込まれて、サラは微妙な表情をしながら冷蔵庫から冷えた水を取り出した。
「まだ早いわよ。じゃあ金ざるで代用するから。あと神前君は手伝うつもりが無かったら外で待っててくれない?」
パーラは慣れた調子で大なべに火をつけた。邪魔になるのもなんだと思い直して誠は食堂に戻った。
「はいはい!邪魔ですよ!」
今度はサラがそばを手に食堂に腰かけようとしていた誠を追い立てる。
「追い出されたのか?」
何度も食堂の中を振り返りつつ誠が渋々廊下に出た。廊下と階段の間の喫煙所でタバコを吸うわけでもなアンが笑っていた。
「とりあえずお水を」
食堂からお盆を持って出てきたサラからアンは冷えた水を受け取った。
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