第92話 天然ハニートラップ

「そう言えば……神前」


 かなめは照れから覚めて真顔で誠をにらみつけた。


「帰りはどうすんだ?ここに泊まるか?」


「え?」


 ここで誠ははたと気づいた。このマンションにはおそらくかなめ以外の住人はいない。二人きりである。


 できれば話したいことはたくさんあった。誠はかなめについてもっと多くのことが知りたかった。


 そして理解しあえればきっと……と考えるほど誠は純朴な青年だった。


「ああ、そうか……アタシ等が茜に送られるのは隊の全員が知ってるわけだな。それで、オメエがこの部屋に下手に長居したら……」


 かなめのその言葉で、誠の意識は夢の世界から現実世界に引き戻された。


 『特殊な部隊』の『特殊な連中』がどういう反応をするかは想像するに難くない。


 まずアメリアがあること無いことネットにあげて誹謗中傷を始めるだろう。カウラは明らかに冷たい視線を浴びせつつ、嫌味を次々と連発するだろう。


 そして最悪なのが寮長の島田である。


 彼は自分の『純愛主義』を勝手に人に押し付ける癖があった。すでに何人かの隊員がそのことで隊長の嵯峨に転属届を出して隊を逃げ出したという噂は誠も聞いていた。


 誠はド下手なパイロットとして東和宇宙軍に入隊したので他に行き場などない。


 つまり、一気にニートへと転落することを意味している。


「そうですね……タクシー呼びます」


「そうか、じゃあその前にビールを飲むか?」


 かなめのよくわからない気遣いで缶ビールを受取りながら誠は自分がかなり特殊な環境にいることを改めて理解することになった。

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