第48話 海水浴日和
「いい日和ですねえ」
誠は空を見上げた。どこまでも空は澄み切っている。
「日ごろの行いがいい証拠だろ?」
「お前が言える台詞ではないな」
かなめの満足げな言葉を聞きながら誠が振り向くと、緑の髪から海水を滴らせて立っているカウラがいた。
「お疲れ様です、カウラさん」
沖に浮かぶブイを眺めてもう一度カウラを見上げる。息を切らすわけでもなくカウラは平然と誠を見つめている。
「ああ、どいつも日ごろの鍛錬が甘いというところか」
そう言うと再び沖を振り返る。潮は引き潮。海水浴客の向こうに点々と人間の頭が浮かんでいる。その見覚えのある顔は整備班や警備部の面々のものだった。
「凄いですね、カウラさん」
正直な気持ちを誠は口にした。
「ただあいつ等がたるんでいるだけだ。それじゃあちょっとアメリア達を手伝ってくる」
そう言うとカウラはそのままパラソルを出て行く。
「嘘付け!どうせつまみ食いにでも行くんだろ?」
かなめは口元をゆがめてカウラを追い出すように叫んだ。
「かなめさんは……」
『泳げるんですか?』と誠は言いかけてやめた。
かなめは子供の頃の祖父を狙った爆弾テロで、脊髄と脳以外はほとんどが有機機械や有機デバイスで出来たサイボーグである。当然のことながら水に浮かぶはずも無い。
「なんだ?アタシは荷物を見てるから泳いできたらどうだ」
海を眺めながらかなめは寝そべったままだった。誠はなんとなくその場を離れることが出来なくて、かなめの隣に座った。
「せっかく来たんだ。それにカウラの奴の提案だろ?アタシのことは気にするなよ」
その言葉に誠はかなめの方を見つめた。満足げに海を眺めているかなめがそこにいる。
「なんか変なこと言ってるか?」
すこし頬を赤らめながらかなめはサングラスをかけ直す。誠はそのまま視線をかなめが見つめている海に移した。島田達はビーチボールでバレーボールの真似事をしている。シャムと小夏は浮き輪につかまって波の間をさまよっている。
ようやく菰田が砂浜にたどり着いた。精も根も尽き果てたと言うように波打ち際に倒れこむ。そしてそれに続いた連中も浜辺にたどり着くと同時に倒れこんでいた。
「平和だねえ」
かなめはそう言うとタバコを取り出した。
「ちょっとそれは……」
周りの目を気にする誠だが、かなめにそんなことが通じるわけも無い。
「ちゃんと携帯灰皿持ってるよ、叔父貴じゃあるまいし投げ捨てたりしねえ」
そう言ってタバコを吸い始めるかなめ。空をカモメが舞っていた。
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