第21話 豪華すぎる部屋
「甲武の四大公って凄いんですね」
正直これほど立派なホテルは誠には縁がなかった。誠はしょせんは普通の都立の高校教師の息子である、それほど贅沢が出来る身分でない事は身にしみてわかっている。
「何でも一泊でお前さんの月給くらい取られるらしいぞ、普通に来たら」
島田がニヤつきながら誠を眺める。
「でしょうねえ」
エレベータが到着し誠と島田はそのまま乗り込んだ。
「晩飯も期待しとけよ、去年も凄かったからな」
「創作料理系のフレンチだけど、まあ凄いのが並ぶんだなこれが」
島田の言葉に誠は正直呆然としていた。食事の話を聞くと誠は自分の胃のあたりにてをやった。体調はいつの間にかかなり回復している。自分でも現金なものだと感心していると三階のフロアー、エレベータの扉が開いた。
落ち着いた色調の廊下。掛けられた絵も印象派の作品だろう。
「これ、本物ですかね」
「さすがにそれはないだろうな。まあ行こうか」
誠の言葉をあしらうと、島田は誠から鍵を受け取って先頭を歩く。
「308号室か。ここだな」
島田は電子キーで鍵を開けて先頭を切って部屋に入る。
「広い部屋ですねえ」
誠は中に入ってあっけに取られた。彼の下士官寮の三倍では効かないような部屋がある。置かれたベッドは大きすぎて誠の理解を超えていた。さらに奥にソファーまでも用意してある。
「俺がこっち使うからお前はソファーで寝ろ」
そう言うと島田はベッドの上に荷物を置いた。
「それにしても凄い景色ですねえ」
誠はそのままベランダに出る。やや赤みを帯び始めた夕陽。高台から望む海の波は穏やかに線を作って広がっている。
「まあ西園寺様々だねえ」
島田のその言葉を聞きながら誠は水平線を眺めていた。
海は好きな方だと誠は思っているが、それにしても部屋の窓から見る景色はすばらしい景色だった。松の並木が潮風にそよぐ。頬に当たる風は夏の熱気を少しばかりやわらげてくれていた。
「なんか珍しいものでもあるのか?」
荷物の整理をしながら島田がからかうような調子で呼びかける。
「別にそんなわけじゃないですが、いい景色だなあって」
「何なら写真でも撮るか?」
振り返ると島田がカメラを差し出していた。
その時、突然島田の携帯端末が着信を知らせる。
「まあいいや、神前。とりあえず俺、ちょっと出かけてくるから」
ベッドからバッグを下ろした島田はそれだけ言うとそそくさと部屋を出て行った。
『島田准尉はサラさんと『青春ごっこ』だろうな……僕は……一人……』
ただ誠は寂しげに色づいていく部屋の外の景色を眺めていた。
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