第14話「冒険者分布」
「出来たぞ」
俺の目の前に、忍者と同じくらいの美少女が居た。
だが残念なことに、忍者と違って服装がボロい。戦闘時なら気にならないが、平常時ならもう少しマトモな服を着たほうが良いだろう。
「ど、どうでしょうか」
恥ずかしそうにアリスは前髪を弄りながら俺に聞いて来る。
「良い腕にしてるな」
「賢者よ。俺の腕が良いのは勿論だが、今回は素材が良かったのだ。恥ずかしがらずに素直に伝えるが良い」
「人の心読むなよ」
美容師キャラの言いたいことを理解したからか、アリスは顔を赤くして自分の顔を隠すように手で顔を覆う。
「だがその服装はなんとかならんのか。ここは戦場ではないのだぞ」
「こらっ。客にそういう事言わない。そういうタイプのメダルキャラだっているでしょ」
「この後買いに行く予定だ」
「ほう。そうか。ならよかった。ならば俺オススメの店を紹介する必要もないな」
「……ちなみに、どんな店を紹介するつもりだったんだ?」
「見たところ賢者は学生だろう。懐に優しい、知人がやってる店を紹介するつもりだった」
「頼む、教えてくれ」
「頭を下げなくとも良い。友人の店のために、むしろこっちから頼みたいくらいだ」
変なキャラだが、悪いやつではないのかも知れない。
あの男キャラが紹介してくれた店についた。
あの店からそこまで離れていない場所にある服屋でチェーン店ではないのか聞いたことのない名前のお店だ。
店の中に入ると他にも何人か客が居て、服を物色している。客層は男女問わずで、様々な服が置かれていそうだ。
「これかな。こっちかな。どっちが良いと思いますか?」
アリスは難しそうな顔で服を見比べている。正直どっちがいいとか分からない。
「アリスの好きなやつ選んでくれ」
「でも自分じゃこういうの決めるの難しくて……。それに、可愛い服なんてずっと来てなかったから。だから陽清くんに選んで欲しくて」
「俺の服は真那、親友が選んだ奴だから俺がセンス良いってわけじゃないんだ」
「え、じゃあどうしよう」
「どうしよっか」
マジでどうするんだ。どうするか。真那を電話で召喚するか? どうせこの後会うんだし。
二人してどうしようかと、微妙な空気が流れていると、綺麗な女性が話しかけてきた。
「何かお困りですか?」
「店員さんですか。ちょっとこの娘の服で悩んでて」
「お二人共、あの美容室からの紹介よね。よかったら選びしましょうか?」
「なんで知って」
「さっき電話があったの。これから賢者と最高の素材が来るから服を見繕ってやれって。正直何言ってるか分からなかったけど合ってたようでよかったわ」
あのキャラ友人にまでそんな風に言われてるのか。てか賢者って呼ばないでくれ。恥ずかしい。初対面な人間に賢者って呼ばれるって罰ゲームだろ。
「えーと、じゃあお願いできますか?」
アリスが恥ずかしそうにお願いすると、目を輝かせて店員さんは元気よく頷いた。
「勿論。えーと、名前は」
「アリスです」
「任せてアリスちゃん。貴方、すっっごく可愛いからいっぱい試着しちゃいましょう。ほら、これなんてどう。それと、これとこれと、これとこれと───」
「あ、あのそんな一杯いら──」
「何言ってるの。着るだけタダなんだから遠慮しない」
「よ、陽清くん助けてっ」
さすがあのメダルキャラの友人というだけあるだろう。アリスを試着室までお仕込み、色々な服を紹介してる。
これ絶対着せかえ人形みたくしてるだろう。
アリスもまさかこんな事になるとは思ってなかったのか俺に助けを求めてきている。
だけど、どこか満更でもなさそうだ。ああやって言われたりするのは恥ずかしいのかも知れないが、可愛い服を着れるのは嬉しいのか?
とりあえず俺が出来ることといえば
「じゃあ、俺は外で待ってるん──」
撤退することだと、外に出ようとした瞬間、肩を強く掴まれた。
「何言ってるの? 貴方も見るのよ。というか見ないなんて勿体ない。こんな可愛い子の可愛い姿見れるのよ。それに男の子の意見も聞きたいし」
俺も巻き込まれてしまった。
長い、長い買い物が終わった。
何着来たのだろうか。店員のセンスが良かったからどれもこれも可愛かったけども、女子の買い物ってのはこんなに長いのか。
いや、今回は店員さんが特殊だっただけだな。
あんなにいっぱい試着したというのに、金銭的な事情で買ったのは2着だけだ。
アリスは今、俺の隣で嬉しそうに服が入った袋を抱えている。
今はあの戦闘服を脱いで、早速買ったお洒落な服を着ていた。
気に入ったのだろうか。嬉し恥ずかしそうに俺の隣を歩いている。
「凄い嬉しそうだな」
「はい! みてくださいこの服。すっごく可愛くないですか?」
そういってクルリとしそうな勢いで服を見せてくる。
こんな姿を見ると、彼女が戦うイメージが湧かなくなってくる。
「そういえば陽清くんはこれからお友達とカラオケ? に行くんですよね」
「ああ。アリスはどうする?」
メダルに戻るか、家に一人で帰るか。初めての外出でもしかしたら道を覚えてないかも知れないし、メダルを選ぶか?
「あの、カラオケって楽しいんですか?」
「楽しいな。一人でいっても楽しいらしいけど、今日は友だちもいるし」
特に今日なんて過酷な一ヶ月を乗り越えてからのカラオケだ。期間を開けた分より楽しみといっていいだろう。
チラッ。チラッっと、アリスが目線を向けてくる。
そして数分後、アリスは見事にズーンと落ち込んでいた。
いったいどうしたというのか。
俺の推測ではあるが、アリスの年齢は恐らく14歳くらいだろう。俺よりも少し若く見える。
そして、俺は年下の女子をどういう風に接すればいいか正直わかっていない。
「あー、何か言いたいこととかあったら言ってくれ。家に帰るんなら、次の道曲がる必要あるし」
「あのっ。カラオケに私もついていって良いですか?」
うーん、着いてきても楽しめるのか?
カラオケは歌う場所だ。まぁ、俺の場合は雑談タイムも長いけど、やっぱ歌も歌わないとな。
メダルキャラは元々生きていた。といっても何年も前の人間なのかも分からないし、国外の人間だ。知ってる曲があるとは思えない。
あー、けどあれか。数曲だけなら覚えられるか? 俺と真那が雑談してる間に曲を流せば歌詞も覚えられるだろう。
「あの、やっぱ迷惑でしょうか」
「あ、悪い悪い。全然来ても大丈夫だ」
黙ってしまったせいで不安になってしまったようだが、来るのは問題ないだろう。
真那に許可取らなくて平気なのか? と一瞬思ったけど一応真那に俺がどんな状況なのか説明しようと思ってたし、好都合かもしれない。
その後、真那は嬉しそうに俺の隣を歩いていた。
駅の近くになると民家よりもお店やビルが増えてきたからか、物珍しそうにアリスが見ていたのが印象深い。
そしてカラオケ店に着いた。
真那はどうやら先に俺の分の受付も済ませて部屋に入っていると連絡が来ていたので、そこに書かれていた番号の部屋の中に入る。
「おっ! やっと来たね! ……って、誰?」
元気よく俺を出迎えてくれた真那の顔がアリスを見て困惑に変わる。
「あの始めまして。陽清くんのメダルキャラのアリスって言います」
ペコリと頭を下げるアリスに真那も下げ返す。
「えっと、どうも。陽清の友達の黒鉄真那です。……ってメダルキャラ!? 彼女じゃなくて」
「か、彼女って」
アリスが驚きの声を上げ、俺は眉をひそめる。
「なんでそう思ったんだよ」
「だって、メダルキャラで人間ってCランクって事になるよね。けど陽清ってまだFランクだし、お金的にも買うことも出来ないだろうし」
「俺に彼女が出来るよりCランクキャラをゲットするほうが確率高いだろ」
「……確かに」
「納得するなよ」
「いやだって性格に難あるし」
「お前本当に俺の友達か?」
俺ら二人の軽快な会話にアリスが微笑んでいる。
それが少し恥ずかしくなり、俺はマイクを取った。
「いつものやつ歌うぞ」
「だろうと思って画面開いておいたよ」
「ナイス」
十八番なんてものじゃないけども、俺がいつも歌う好きな曲が表示された端末の画面をタップし、曲が流れ始めた。
久しぶりに歌を歌う。
普段なら真那と二人きりで上手さとか意識をしなかったが、アリスに見られていると思うと丁寧に歌ってしまった。
「わぁー」
パチパチと、曲が終わると目を輝かせてアリスが拍手をしていた。
別にそこまで上手いというわけでもなく、モニターを見ても点数は90を超えていない。
「照れてる」
「照れてない。それより次歌わないのか?」
「実は二人が来る前にちょっと歌ってね。それより、話が聞きたいな」
「何が聞きたい?」
「本当にBランク冒険者になる気があるか、かな」
先程までの和やかな空気が消し飛んだ。
事前にドリンクバーで入れてきたジュースを一口の飲む。一ヶ月ぶりのジュースなのに、美味しいとはなぜか思えなかった。
真那は真剣に俺を真っ直ぐと見ていた。その目線は何処か俺を咎めている様にも見える。
突然な不穏な様子に、アリスがハラハラオロオロと俺達の顔を交互に見ていた。
「真那が反対なのは分かってるよ。けどもう決めたんだ」
「出来ると思ってるの?」
「ああ」
俺が俺を信じなきゃ何も始まらない。無謀だと思ってもすぐに心の隅に追いやり、大胆不敵だろうと自分を信じなきゃいけない。
俺がBランクに行くには、そんな覚悟が必要だろう。
真那がすっとタブレット端末を取り出し、俺に見せてくる。そこに書かれているのはグラフだ。
これは、冒険者のランク分布……?
Fランク。10%。
Eランク。10%。
Dランク。30%。
Cランク。43%。
Bランク。4%。
Aランク。1%。
※これは現役で一ヶ月で3回以上活動している冒険者を対象としたデータです。
「何がいいたい」
「Bランクは全体の10%もいない。簡単な道のりじゃない」
「厳しくても、やるぞ。俺なら成れる」
「じゃあ次」
画面をスライドさせ、新たに表示されたのはここ数年での探索隊──真の意味での冒険者たちの名前の数々だ。
彼らは俺の憧れでもあり、目標だ。
だが、その目標の中にチラホラと赤線が引かれている者がいる。
その中にある名前がふと記憶に引っかかった。
その男は【炎散の魔術師】の魔術師と呼ばれていた。
「30%」
それが何を表しているのか、直ぐに察しはついた。
「それが探索隊の死亡率だよ。陽清は、たった二枚のメダルのために探索隊に入るつもりなの?」
「たった二枚のメダルじゃない。大切な俺の友達だ」
俺の大切な一ヶ月を支えてくれた二人の友人。【アギダイン】──隊長に話した待っている友人の事だ。
俺はまた、二人に会いたい。会わなきゃいけない。
「メダルキャラだよ」
「メダルキャラでもだ」
真那は知らない。俺が話してないから当然だ。メダルキャラは未探索地域で昔生きてたという事を。
「なら、頼もうよ。全部話すんだ。そしたらもしかしたら運んできてくれるかも──」
「真那、お前だって知ってるだろ。もしもメダルが所有者以外に召喚されたらどうなるか」
メダルには所有者となる召喚者がいる。では所有者以外がメダルを召喚するとどうなるか。
メダルキャラクターの記憶がリセットされてしまう。
例えばアリスのメダルが盗まれ別の召喚者に召喚されたら、今日一緒に服を選んだ事も忘れてしまうのだ。
どれだけ長く、大切な思い出だとしても。
秋月丸は元々祖父のメダルキャラだ。それが父へ、そして俺に受け継がれてきた。
俺に受け継がれるまでの12年間、父と一緒にいた記憶は秋月丸にはない。
俺が召喚者になった際にリセットされてしまったからだ。
12年の歳月でも、簡単に消えてしまう。
「だからって」
「俺は止まらないよ。真那に止められたとしても、俺はそれを押し通って二人に会って言わなきゃいけないことがあるんだ」
「陽清……」
真那の声に諦めは混ざっていない。きっと声に出さずにどうやれば俺を止められるか考えている事だろう。
だが、思考を張り巡らせてるのは俺も同じだ。
どうやれば真那を説得できる。
二年間ほど疎遠になれば問題の解決はできなくても延長は出来るか?
「あ、あのっ」
俺たちが考え込んでいるとアリスが話しかけてきた。蚊帳の外にしすぎていて考えていなかったから何を言うつもりなのか全く想像がつかない。
「私が守ります。頼りないかも知れないけど、守りきってみせますから」
一瞬、今喋っているのが誰なのか分からなかった。
俺の知っているアリスという少女は、もっと大人しめで、自分の意見をはっきりと言えない。
けど目の前にいるのは凄く頼りになりそうで信念が籠もった言葉を発する少女。
俺はアリスがどのくらい強いのか知らない。正直に行ってしまえば、弱いかも知れない。そんな風にも思っていた。
なのにどうしてだろう。
アリスが弱いなんて思えなくなっていた。
「今度出る大会で証明してみせますから。だから、陽清くんの事を信じてあげてくださいっ!」
「陽清の事は勿論信じてるよ。それで、大会って?」
「8日後開催の【ビャルノ大会】に出場する事にしたんだ」
「そうなんだ。うん……」
何かを考え込むかの様な仕草で真那は止まる。そして数秒後、覚悟を決めた顔で俺に告げた。
「ちょっと用事が出来たから帰るよ」
テキパキと荷物を纏めて行く真那に、アリスが困惑した様子であたふたとするが、なんて声をかけたらいいか分からないのだろう。俺に助けの眼を向けてくる。
あの眼、絶対何か企んでるな。
いったい何をしでかす気が知らないけど、あんな決意に満ちた顔は久しぶりに見た。
俺が何か言葉を投げかけたところで止まることはないだろう。
「じゃ、また明日。ああ、そういえばここってメダルキャラ相手にも料金とってるから店員さんに追加料金払っておいたほうがいいよ」
「りょーかい。じゃあな」
一曲も歌ってる姿を見れずに、真那は帰っていった。
「い、いいんですか。せっかく遊べるって楽しみにしてたのに」
「何言ったところで止まらないだろ。それにより付き合ってくれ」
「へ?」
「歌いまくるぞ。俺は定員さんに追加料金払って来る」
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