11、What color
迷子になった異世界探偵は、周囲をキョロキョロするも自分がどこにいるかすら分かっていない。そもそも彼は未来特区に来たことはほぼない。だからここがどこなのか分からない。
ひとまずマップがどこかにないかと探そうとするも、迷うばかりであった。
「かんな……どこ行ったんだよ」
さ迷う異世界探偵は疲れ果て、人気のない路地裏を見つけてそこに座り込んだ。
この世界には携帯電話に似たようなものはあるが、それを異世界探偵とかんなは所持していない。つまりは連絡をとることは叶わない。
うずくまり考える異世界探偵へ、一人の少年が話しかけてきた。
「大丈夫ですか?」
心配そうに放たれた言葉を聞き、異世界探偵は顔をあげた。
「なあ少年、バルーン君の像の場所を知らないか?」
「知ってるけど……」
と言いつつ、少年は振り向いた。
「僕、これから師匠とともにその場所へ行くんですよ。良ければついてきますか?」
何とも礼儀正しい態度の少年の背後からは、一人の女性がやや不機嫌な顔をしてこちらへと歩み寄ってきた。
日の光が消えたかのような黒色の髪色、着ているのはなぜか黒色の学生服、背中には何か棒状のものをいれた竹刀を持っており、どことなく異質な雰囲気を漂わせている。
「コタロー、この男は?」
「迷子になったみたいで、バルーン君の像へと行きたいらしいのです」
「なるほど。バルーン君の像にか……」
その女性は何かを感じ取ったのか、異世界探偵へと質問を投げ掛ける。
「一つ訊きたい。君は探偵か?」
「はい、そうですが……」
「やはりか」
その女性はうずくまってうる男が探偵と知るや、がっかりでもしたのか深いため息を吐いた。そして額に手を当て、数秒考えた。そして答えが出たのか、彼女は躊躇いつつも言葉を紡ぐ。
「ええと、探偵名はあるか?」
「異世界探偵です」
「そうか。聞いたことがないが、何度か事件を解決したことはあるか?」
「はい。数十件ほどは……」
「まあ馬鹿ではなさそうだ。異世界探偵、私が君の協力者の異能探偵だ。よろしくな」
「異能探偵?協力?」
異世界探偵は戸惑いつつも、彼女が言っていることを理解した。
協力者、それは手紙に書かれていた者のことで間違いない。つまりこの女性が、手紙の差出人である彼女が選んだもう一人の探偵。
「異世界探偵、時間は限られている。早くこの事件の調査を始めよう」
彼女はーー異能探偵はこの事件の謎はバルーン君の像がある場所に隠されていると確信しているため、異世界探偵は彼女とともにバルーン君の像へと向かう。
その道中で、コタローという少年は異世界探偵へ疑問を投げ掛けた。
「ねえ異世界探偵さん、迷子になるくらいならどうして一人で来たんですか?誰か誘ったりして手伝ってもらえば良かったじゃないですか」
「一応二人で来ていたんだよ。君とほぼ同い年の少女でな、俺の弟子だ」
「僕と同い年ですか。それは良い勝負になりそうですね」
コタローは笑みを浮かべた。
好敵手を見つけたコタローは、今か今かとその少女を待ちわびていた。
「でも迷子になってしまうということは、やはりまだ子供ですね」
お前も子供だろ、と言いたげな表情を浮かべつつも異世界探偵はかんなをかばうように話し始める。
「実ははぐれたのは俺の方なんだよ。だから何もできずうずくまっていたんだ」
「なるほど。ではその少女はこの未来特区に詳しいわけか。で、あの謎をその少女は解けたのですか?」
「……あ、ああ」
初めてコタローから目線を逸らし、異世界探偵は嘘をついた。
「そうですか。まああの程度の謎なら僕でもーー」
「ーーお前は解けていなかっただろ」
異能探偵の発言にコタローは慌てふためき異能探偵を睨んだ。
慣れている異能探偵はコタローの頭をポンポンと叩くと、愚痴を溢れるほど吐きまくっているコタローを無視しつつバルーン君の像がある方へと歩いていた。
その光景を背後から見ていた異世界探偵には二人が楽しそうに見えた。
会ったばかりではあるけれど、それだけははっきりと理解できた。
「ようやくついたな。バルーン像、ここら辺に手がかりが……って」
バルーン君の像は風船に手足が生えたような何ともちんけな発想の容姿であり、二メートルほどはある台の上に一メートルほどの大きさの鉄製のバルーン君は置かれていた。
その像がある場所は広場のようになっており、開放的な空間が広がっている。その広場のど真ん中に置かれたバルーン君の像には、普段ついてはいないはずの風船がバルーン君の像には握られていた。
「怪しいな。それに気になるのは針が止まっている時計塔。今より一時間後の時刻で止まっている」
「明らかに故障ではないな。意図的に時間を進められている」
異能探偵が考えている最中、異世界探偵も口を出す。二人の話の内容をコタローは必死に理解しようとしていた。
「異世界探偵、あの風船と時計の時刻、何が起こると思う?」
「これはあくまでも推測だが、風船の中には爆弾が仕掛けられている」
「なぜそう思った?」
「こういう時は最も最悪な事態を想定しておいた方が良い。でなければ、もし状況が悪化すれば対応しきれない。まあ風船の中に爆弾があったら浮かないという疑問点もあるが、そこは能力でカバーしているのだろう。便利なものだな、能力とは」
「なるほどな。つまり、この広場にいる百以上の客を人質にとられたか」
「ああ。だがもし爆弾の威力が大きければ、そこだけにとどまった話ではないがな。とはいえ、無理に風船へ手を下せば爆弾する可能性がある。犯人からのヒントがあれば良いが……」
手詰まりか、と思われた矢先、コタローはある物を持って異能探偵のもとへと駆け寄った。
「師匠、バルーン君の像の下にこんなものが置かれていました」
そう言って異能探偵へ手渡されたのは分厚い紙。そこにはこう書かれていた。
『怒りは時に心を黒く染め上げ、見下す者は時として毒である。大食いな彼女は血を好み、夕焼けを見る彼女の背中からは色気が漂っていた。欲張りな彼は黄色く輝く世界を見てそこへ歩き出し、浮気性の彼をもつ彼女はよく青ざめた表情で浮気相手を妬んでいた。怠けている彼女は白霧の世界を漂った。
爆弾は七つの風船の内、一つに入れられている。その中から爆弾が入っている風船を見つけ出し、空へと飛ばして捨てれば君たちの勝ちだ』
その内容を見るや、異世界探偵は違和感を感じていた。
「異世界探偵、何か気になることでもあったか?」
「一つ気がかりなことがある。恐らくこれは週末に殺人事件が起こるという手紙の差出人で間違いない。だが差出人には
黙って考える異世界探偵は、バルーン君の像を見つめていた。
バルーン君の像の手には七つの風船が握られており、黒、紫、赤、橙、黄、青、白であった。
異世界探偵は七色の色を前にし、固まった。
(この紙に書かれていることはヒントなのか?だとしたら何を暗示している?)
迫るタイムリミット、残り時間は五十分。
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