第17話 くたばれ

「ぎぃあっ!!」

「うわぁっ!?」

「陽奈!?」



モップを奪われた陽奈は蜘蛛女に突き飛ばされ、廊下に倒れ込む。その姿を見た玲乃は怒りを覚え、蜘蛛女の背後に飛びつき、首元に両腕を回して締め付ける。



「このっ、大人しくしろ!!」

「ぐぎぎっ……!?」



首を絞めつけられた蜘蛛女は苦痛の表情を浮かべるが、すぐに八つの腕を伸ばして逆に玲乃の身体を掴み、再び恐ろしい握力で締め付ける。指が肉体に食い込み、玲乃は悲鳴を漏らしそうになるがそれでも陽奈を守るために腕の力を緩めない。


蜘蛛女は玲乃を引き剥がそうと暴れ、床や壁を爪でかきむしる。必死に玲乃は抑えつける中、倒れていた陽奈は身体を起き上げると、彼女は腰に運動着の中に隠していた拳銃を取り出す。



「玲乃、離れてっ!!」

「っ……!?」

「やれぇっ!!」



自動販売機にてPを引きかえに購入した「単発式拳銃」を取り出した陽奈に対し、金井美香の顔をした蜘蛛女は目を見開く。まるで彼女が所持する武器の恐ろしさを理解しているかのように蜘蛛女は必死に暴れるが、玲乃は渾身の力を込めて抑え込む。


陽奈は玲乃に抑えつけられた蜘蛛女に銃口を向けるが、相手の姿を見て躊躇してしまう。玲乃が抑えつけているとはいえ、何処を狙えばいいのか分からず、下手をしたら玲乃に当たってしまうのではないかと考えてしまう。そんな彼女の一瞬の隙を見抜いたように蜘蛛女は両足代わりの腕を伸ばす。



「ぐぎぃっ!?」

「あうっ!?」

「そんなっ!?」



蜘蛛女が伸ばした腕が陽奈が所持していた拳銃を奪い取り、無理やりに陽奈の身体を突き飛ばす。壁際に飛ばされた陽奈は苦痛の表情を浮かべ、一方で玲乃は陽奈の姿を見て反射的に腕の力が緩んでしまう。その隙を逃さず、蜘蛛女は玲乃に対して肘を叩き込む。



「がああっ!!」

「ぐはぁっ!?」

「れ、玲乃……!!」



何発もの肘を同時に叩き込まれた玲乃は蜘蛛女を抑えつけられず、床に倒れ込む。その様子を見た陽奈は頭を抑えながらも玲乃に手を伸ばすが、そんな二人の間に蜘蛛女は割込み、笑みを浮かべる。



「ぐぎぎぎっ!!」

「ひっ……こ、来ないで!?」

「陽奈、逃げろっ……ぐはっ!?」



銃を手にした蜘蛛女は玲乃と陽奈の身体を掴み、今度こそ逃がさないように力強く握りしめる。骨が軋む音が鳴り響き、二人は悲鳴を漏らす。そんな表情を見て蜘蛛女は愉悦の表情を浮かべ、陽奈から手にした拳銃を玲乃の顔面に向けて構えた。


必死に玲乃は逃げようともがくが、そんな彼の頭を別の腕が抑え込み、蜘蛛女は昨夜の時と同じように玲乃の命を狙ってきた。拳銃を握りしめた腕を玲乃の顔面に近付け、金井美香の顔をした化物は呟く。



「しぃねぇええええっ!!」

「っ……!?」

「止めてぇえええっ!?」



拳銃の引き金に蜘蛛女の指が伸びると、玲乃は咄嗟に目を閉じてしまい、陽奈は必死に彼を助けようと腕を伸ばす。しかし、蜘蛛女が引き金を引いた瞬間、突如として拳銃から電流が迸り、蜘蛛女の身体に襲い掛かった。



「ぎええええっ!?」

「ぐあっ!?」

「うわぁっ!?」



蜘蛛女の身体に高圧電流が流れ込み、身体を掴まれていた玲乃と陽奈の身体にも電流が一瞬だけ流れ込む。蜘蛛女は悲鳴を上げて二人の身体を話すとその場で痙攣し、一方で玲乃の方は身体が痺れながらも何が起きたのかを考える。



(何だ、今の……まさか、拳銃か!?)



玲乃は蜘蛛女に襲い掛かった高圧電流の原因が陽奈から奪った拳銃から発せられたと判断し、それを証明するかのように床に落ちた拳銃から電流が迸っていた。ここで玲乃は遊戯の規則を思い出し、購入した道具は購入した人間以外には使いこなせないという規則があった事を思い出す。


どうやら購入者である陽奈ではない人物が拳銃を使用すると、高圧電流が流れる仕組みになっていたらしい。金井美香の顔をした化物も例外ではなく、彼女の武器を使用したせいで高圧電流に襲われたらしい。身体を掴まれていた玲乃と陽奈も被害を受けたが、それでも蜘蛛女の方は無茶苦茶に八つの腕を振り回し、まるで本物の昆虫のようにもがいていた。



「あぁあああっ……!!」

「くそっ……陽奈、陽奈無事か!?」

「んっ……」



陽奈は先ほどの電流で意識を失ったのか玲乃が声を掛けても返事はなく、それを確認した玲乃は蜘蛛女に視線を向け、醜くもがき苦しむ顔を見て怒りを抱く。この蜘蛛女の正体が昨日出くわした金井美香本人であるかは分からない。だが、何度も自分を殺そうとしてきた相手を見逃す程お人好しではない。



「そもそもお前を倒せば遊戯は終わるんだ……」

「あがぁっ……!?」

「くたばれ、化物!!」



床に落ちていたモップを拾い上げると、玲乃は柄の部分を構えて仰向けの状態で身体を痙攣させた蜘蛛女の顔面に目掛けて振り下ろす。叩きつけるのではなく、柄の先端部分を顔面に向けて振り下ろし、蜘蛛女の口元にモップが突き刺さる。


蜘蛛女は口の中にモップを突きつけられた事で苦痛の表情を浮かべるが、そんな蜘蛛女に対して玲乃は陽奈が所持していた拳銃を持ち上げる。どうやら所持するだけでは先ほどのように高圧電流に襲われる事はないようだが、この状態で引き金を引けば先ほどのように電流が襲い掛かるだろう。それを見越して玲乃は蜘蛛女に呟く。



「我慢比べだ……どっちが先にくたばるか勝負だ!!」

「っ――!?」



モップを掴んだ状態で玲乃は蜘蛛女の顔面に拳銃を押し付け、引き金を引く。次の瞬間、高圧電流が再び発生して玲乃と蜘蛛女の肉体へと襲い掛かり、顔面に拳銃と口元にモップを抑えつけられた蜘蛛女は悲鳴を漏らす事も出来ずに身体を暴れさせる。


拳銃を掴んでいた玲乃も高圧電流に襲われてしまうが、頭部に直接電流を流し込まれ、更に口の中にねじ込まれたモップのせいで蜘蛛女は抵抗も出来ず、やがて力尽きたのか動かなくなった。一方で玲乃の方も高圧電流を受けて地面に倒れ込み、意識を失った――

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