第15話 遊戯の開始
陽奈の電子手帳を確認させ、とにかく彼女に画面を操作させると、遊戯の規則の説明文が表示された。そして画面に表示された内容を確認し、制限時間の項目の確認を行う。
「こ、これ……制限時間は1時間って書いてあるよね」
「ああ……という事はもしかしたら、制限時間が終了するまで何処かで隠れても問題ないんじゃないか?」
「本当に!?」
玲乃の言葉に陽奈は顔色を変え、映像に映し出された化物と戦わされるのかと彼女は不安を抱いていたが、戦わずに1時間の間、校舎の中で隠れ続ければいいというならば話は別である。白鐘学園の校舎は非常に広く、隠れる場所ならばいくらでも存在した。
化物と戦う事だけを考えていた玲乃だったが、仮に制限時間まで逃げのびるだけならばいくらでも方法はあった。現時点では外に繋がる扉や窓は封鎖されているが、逆に教室などの類は電子手帳を使わずとも勝手に開く仕組みになっている。逆に言えば扉に鍵を施せないので立て籠もる事は難しいが、それでも二人は時間内に学校内を移動して役立ちそうな物を片っ端から集め、隠れられる場所を探す。
「図書室に行こう!!あそこが一番広いし、隠れられる場所はいくらでもある!!出入口を塞いで入ってこれないようにすればいい!!」
「う、うん!!」
遊戯が開始される前に玲乃と陽奈は廊下を駆け抜け、二人は武器になりそうな物を調達してから図書室へと駆け込む。二人はどうにか本棚を運び出して扉を塞いでみようと試みたが、図書室に存在する全ての本棚は固定されているかの如くびくともしなかった。
「くそっ!!動かせない……立て籠もられないように本棚まで仕掛けが施されているのか!!」
「れ、玲乃……電子手帳の画面にタイマーみたいなのが表示されてる!!あと5分で始まるみたいだよ!?」
「5分!?」
陽奈が差し出した電子手帳を確認して玲乃は焦りを抱き、もう本当に時間は残されていなかった。どうにか出入口を封鎖する手段はないのかと考えた玲乃は図書室内に視線を向け、役立ちそうな道具を探す。
(辞書なら頭を殴る程度の鈍器代わりに利用できるけど……駄目だ、そんな物であの化物と戦えるはずがない。どうする?何か役立つ物は……これは!?)
図書室内を探し回った玲乃は脚立の事を思い出す。昨夜に玲乃は脚立を利用した際に転倒して気絶した事を思い返した玲乃は脚立を回収し、背が高い本棚へと向かう。脚立を利用して一番上の棚の本を地上へと投げ捨てると、どうにか人間が一人隠れられるスペースを確保した。
時間帯は間もなく19時を迎えようとしており、既に外も暗くなっていた。図書室内は証明を付けなければ暗闇に覆われるため、本棚の一番高い列に隠れていたとしても簡単に見つかる事はない。玲乃は隠れる場所を作り出すと、陽奈に隠れるように指示を出す。
「陽奈、ここに横になって隠れてろ!!」
「えっ!?で、でも玲乃は……」
「いいから早くしろ!!俺も傍にいるから!!」
「わ、分かった……」
陽奈は玲乃に言われて戸惑いながらも本棚の一番上の棚に身を隠すと、それを確認した玲乃は今度は自分が脚立を登って本棚の上へと移動を行う。一番高い本棚だったので上からならば図書室の全体を見渡す事も出来る。これならば化物が現れてもすぐに発見できると確信した玲乃は図書室に訪れる前に回収した武器を取り出す。
時間がなかったため、武器になるような物と言ってもせいぜいカッターナイフやコンパス程度の物しか用意出来ず、玲乃は緊張した面持ちで両手に構える。こんな物で映像に映し出された化物に対抗できるわけがないとは分かっていたが、それでも諦めるわけには行かない。
「陽奈、静かにしてろよ……俺は傍にいるからな」
「う、うん……」
自分の下に隠れている陽奈に対して玲乃は腕を伸ばし、彼女も手を伸ばしてお互いの手を握りしめる。そして遂に陽奈の電子手帳が鳴り響き、試合開始の合図を知らせるかのような機械音声が鳴り響く。
『これより、遊戯を開始します。制限時間は1時間です』
電子手帳がそれだけを告げると画面が切り替わり、現在の陽奈が存在する図書室の地図を表示する。それを確認した陽奈は本当に玲乃の言った通りに自分がとんでもない事に巻き込まれていると判断し、あまりの恐怖に玲乃の手を強く握りしめる。
片腕を陽奈に伸ばしながらも玲乃は周囲の状況を確認し、特に図書室の出入口付近には常に視線を走らせた。この図書室で出入りできる場所は限られ、少なくとも窓の外から現れる事はない。学校全体の窓は強化ガラスで構成されているのか玲乃が駄目元で椅子や机を叩きつけても壊れることはなく、傷一つも付ける事ができなかった。
(さあ、何処から現れる……!?)
玲乃は不安を抱きながらも周囲を観察し、緊張した表情を浮かべながらも待ち続けた。しかし、時間が5分ほど経過した時点で玲乃も陽奈も疑問を抱く。
「……何も起きないね」
「そうだな……他の場所でも移動しているのか?」
遊戯が開始されてから10分が経過しても特に図書室に異変は起きず、やがて15分が経過した頃には二人の緊張は解れ、本当に化物が校舎の中を徘徊しているのかと思ってしまう。
(何も起きない……このままやり過ごせるか?いや、楽観するな。緊張感を保て、油断するな……)
20分ほど時間が経過しても特に何事も起きず、それでも玲乃は緊張感を保ち続けた。だが、ここで本棚に隠れていた陽奈が話しかけてきた。
「れ、玲乃……」
「陽奈?どうした、大丈夫か?」
「あ、あのさ……ちょっと、ここから離れてもいいかな?」
「はあっ!?何を言って……さっきも話しただろ、今はまだ何も起きなくても油断するなって」
「そ、そうだけどさ……」
陽奈の言葉に玲乃は注意するが、彼女が苦しそうな声を上げている事に気付き、何かあったのかと心配に思った玲乃は本棚から落ちないように気を付けながら棚を覗き込む。すると陽奈は恥ずかしそうな表情を浮かべて身体を縮こまらせ、その態度を見た玲乃は驚く。
「陽奈、大丈夫か!?まさか、身体の具合が悪いのか?」
「そ、そうじゃなくて……その、僕……もう我慢できない」
「我慢って……まさか」
「……と、トイレ……行ったら駄目?」
「……えっ」
玲乃に対して陽奈は顔を真っ赤に染めて恐る恐る尋ねると、玲乃は彼女の質問の返答に困り、この状況下でこの場所を離れるのはまずかった。しかし、だからといって陽奈をこれ以上に我慢させる事も出来ず、仕方なく玲乃は危険を承知で図書室を離れる事を決めた――
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