第14話 怪異

『ひいっ……来るな、来るなぁっ!!』

「何だ?この映像……」

「えっ!?この人って……」

「陽奈?」



映像に現れた男子生徒を見て玲乃は疑問を抱くが、陽奈は心当たりがあるのか驚愕の表情を浮かべる。そんな彼女に玲乃は不思議に思うが、映像の男子生徒は何かを恐れるように廊下を駆け抜けていた。だが、その足取りは遅く、片足を汚している様子だった。



『誰か、助けてくれ……金井、金井ぃっ!!』

「金井!?まさか、金井美香の事か!?」

「玲乃、この人の事を知ってるよ!!確か、僕が一年の頃に陸上部に所属していた先輩だよ!!」

「先輩?という事はやっぱりこの学園の生徒か……待てよ、これってもしかして過去に起きた遊戯を流しているのか!?」



陽奈の先輩という言葉と金井の名前を口にした時点で玲乃は男子生徒の正体が白鐘学園の生徒だと確信する。映像を確認するとどうやら二年生の教室前の廊下を映している様子だが、男子生徒は必死に足を引きずって逃げる姿が映し出される。


陸上部の先輩で陽奈が一年生の時に出会ったという話から映像は一年前の物で間違いない。という事は一年以上前からこんな狂った遊戯とやらを生徒にやらせているのかと玲乃は驚愕するが、問題なのはここから先だった。



『ぎぃいいいいっ!!』

『ぎゃああっ!?来るな、来るなぁっ!!』

「な、なにこの声……悲鳴!?」

「違う、この声は……!!」



映像から女性の甲高い声が鳴り響き、それを耳にした男子生徒は腰を抜かしたのかへたり込んでしまう。陽奈はあまりの声に耳を塞ぎ、玲乃は映像を見逃さないように観察する。やがてぺたぺたという謎の足音が鳴り響き、映像のアングルが男子生徒の後方へと切り替わる。


足音は男子生徒の前方から鳴り響き、男子生徒の後ろ姿を移すカメラアングルのせいで正体を確かめる事が出来ない。男子生徒は必死に逃げようと腕を動かして後退るが、そんな彼の身体に無数の手が伸びてきた。



『いぎぃいいいっ……!!』

『うぷぅううっ……!?』



無数の女性を思われる腕が男子生徒の身体を包み込み、男子生徒の苦しそうな声が鳴り響く。いったい何が男子生徒の身に起きているのかカメラのアングルでは分かりにくく、玲乃と陽奈は映像に釘付けになる。やがて男子生徒の身体が後ろに倒れた時、遂に鳴き声の正体が判明する。




――男子生徒の身体に乗りかかっていたのは無数の腕を身体中に生やした女子だった。両腕だけではなく、胴体に4つの腕を生やし、更には本来は両足が生えている部分も人間の腕となっていた。合計で8つの腕を生やした女子は男子生徒の頭を両腕で掴み、他の腕は彼の両手と両足を拘束して押し倒す。




男子生徒は必死に逃れようとするが八つ腕の女は離すことはなく、それどころか恐るべき握力で頭部と腕と足を握り潰す。やがて男子生徒の身体に血が滲み始め、抵抗も弱まると女子は口元を開いて男子の首筋に噛みつく。


まるで獣のように男子生徒の頸動脈を噛み切ると、女子生徒は男子生徒の血液を啜り始め、その様子を見て陽奈は耐え切れずに顔を両手で覆ってしまう。一方で玲乃の方は口元を抑えながらも決して映像から視線を外す事はなく、八つ腕の女の様子を確認した。



「な、何……これ、いったい何なの……?」

「……多分、こいつが今から俺達が戦う相手だ」

「た、戦うって……意味が分からないよ!!どうして!?どうして僕達がこんな目に遭わないといけないの!?」



陽奈は床に伏せたまま玲乃に尋ねるが、そんな事を玲乃に言ったところでどうしようもない事は理解していた。それでも黙っている事など出来ず、彼女は頭を抑えながらも涙を流す。


映像の男子生徒は陽奈が一年の頃に世話になった先輩でもあり、急に彼が部活に来なくなった事には彼女も疑問を抱いていた。教師に聞いてみると何でも行方不明になったらしく、誰も男子生徒がどうなったのかを知らないらしい。結局は男子生徒が消えてから1年も経過していたので陽奈はすっかり彼の事を忘れていたが、まさかこんな形で先輩が消えた原因を知るとは思いもしなかった。



「こ、これ……只の悪戯だよね?本当に死んでいるわけじゃないんでしょ?」

「……そう思いたい気持ちは分かるよ。けど、多分本物だ」

「そんな……」



男子生徒の死体に八つ腕の女は夢中に血を啜り続け、やがて腹を満たしたのかあるいは飽きたのかは不明だが唐突に口元を話すと男子生徒の身体を持ち上げる。



『ぎぃああああっ!!』



次の瞬間、八つ腕の女は持ち上げた男子生徒の頭部、両腕、両足を引き千切ると、周囲に血飛沫が舞う。その光景を確認した陽奈は目を伏せ、玲乃も流石に見ていられずに目を閉じてしまう。そこで映像が終了し、全てを見届けた玲乃と陽奈はへたり込む。



「こ、こんなの狂ってるよ……そうだ、夢だ。きっと夢の中だよ」

「……俺もそう思ってたよ。けど、これは夢なんかじゃない」



玲乃は陽奈を落ち着かせるように彼女の肩に手を伸ばし、ここが現実である事を認識させる。陽奈は涙目で玲乃の腰に抱き着き、身体を震わせる。まるで小さな子供をあやすように玲乃は陽奈の頭を撫でながらも状況を解析した。


現在の玲乃と陽奈は学校内に閉じ込められ、間もなく開始されるであろう「遊戯」に無理やり巻き込まれるのは確実だった。遊戯を開始される前に玲乃はどうにか陽奈に武器を購入させ、彼女だけでも身を守る術を持たせようとしたが、映像に現れた怪物を見て自信を無くす。



(昨日の奴よりもあの女の方がやばい……仮に武器を手にしても確実に急所に当てないといけない。だけど、そんな事が出来るのか?こんなに怯えている陽奈に化物と戦わせるなんて……)



陽奈の身体を撫でながらも玲乃は必死に頭を巡らせ、先ほどの化物から逃れる術を考えた。前回の時、玲乃の電子手帳には制限時間が表示されていたが、ここである事を思い出す。



(そういえば規則で「制限時間は1時間」と書いてあった気がする。なら、1時間生き延びれば遊戯は終了して生き延びれるのか!?)



玲乃は昨夜の記憶を掘り返して規則を思い返し、その中には制限時間に関わる項目があった事を思い出す。それを確認するため、玲乃は陽奈を抱き起して彼女の電子手帳に視線を向ける。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る