第13話 準備
「ね、ねえ……玲乃、なんか僕の電子手帳の画像が変化してるんだけど……」
「え?」
「ほら、数字が映ってるでしょ?玲乃が自動販売機に触れた時に勝手に切り替わったんだ」
「……本当だ」
玲乃は陽奈の言葉を聞いて彼女の電子手帳を確認すると、いつの間にか「100」という数字が表示されていた。この時に玲乃は昨夜の規則の説明を思い出し、最初に遊戯に参加する人間には「100P」が贈呈されるという文章があった事を思い出す。
どうやら陽奈も遊戯の参加者として強制的に認められたらしく、一方で電子手帳を破壊された玲乃は今回の遊戯ではPを使用して道具を買う事が出来ない。つまり、この状況下で道具を購入できるのは陽奈だけとなる。
(くそ、どうしてこんな事に……いや、嘆いている暇はない。陽奈が役立つ物を買わないと)
自動販売機のモニターに表示された武器の項目は拳銃が2つと短剣が1つだった。どれもが現在の陽奈が購入できる数字が表示されていたが、それぞれのPの数値が違っていた。
「単発式拳銃は50P、連発式拳銃は100P、ナイフは30Pか……」
「け、拳銃って……本物なの?」
「いや、この単発式拳銃の方は前に見た時は鉄球のような物を打ち出していたよ。それでも人の顔を陥没させるほどの威力だから、十分に殺傷能力はあるだろうけど……こっちのナイフの方も前に見た事がある」
単発式拳銃とナイフの方は金井美香が使用しているのを玲乃は確認しており、どちらも化物に対抗するには正直に言えば心もとない。単発式の方は威力は大きいのだが、一発限りしか弾丸(砲弾)を撃ち込めないため、もしも外すかあるいは致命傷を与えられなければ終わりである。
そもそも人間に拳銃を撃つというだけでも相当な覚悟が必要なのに、更に人間よりも恐ろしい化物を相手に戦うなど陽奈に出来るのかと不安を抱く。しかし、モニターの画面には説明文も表示されていた。
「武器の使用権は購入した者にしか与えられません……どういう意味だ?」
「えっと、武器を買った人にしか、その武器を使えないという意味なのかな?」
「……拳銃の方はともかく、ナイフも?」
拳銃ならば弾丸が撃ち込めないような細工を施す事も出来るかもしれないが、ナイフの武器も他の人間が扱えないという点に玲乃は疑問を抱く。ナイフに触れた瞬間に電流でも流れる仕組みになっているのかと思いながらも玲乃は武器を吟味し、どの武器を彼女に購入させるのかを考える。
しかし、武器を購入する前に他のパネルの事も気になった玲乃は次は「注射器」の画像が描かれたパネルを押す。すると、武器の画面から今度は色違いの液体が入った注射器が表示された。こちらの方は丁寧に説明文も表示されており、それを玲乃は読み上げた。
「筋力強化剤……一時期的に肉体の限界まで筋力を強化します。但し、効果時間は個人差があります。また、短時間の連続の使用は命の危機に関わります」
「こっちは痛覚麻痺剤と書かれてるよ?えっと、これを身体に打てば一時的に痛覚を麻痺させます。但し、あくまでも痛覚が感じられなくなるので傷を治す効果はありません。薬の効果時間は個人差が存在します。連続の使用は生命の危機に関わる可能性もありますので注意ください、だって」
「どっちも碌なもんじゃないな……でも、10Pで買えるのか。破格の安さだな」
どちらの注射器も副作用はあるが怪我を負った時や、化物と戦う時は役立ちそうな代物だった。状況によって薬を使い分ける事を想定しなければならず、玲乃は考え込む。
(陽奈のPの事を考えると武器は欲しい……けど、一番役立ちそうな連発式拳銃を買うとなるとPを全部使い切ってしまう。それぐらいなら単発式とナイフを買ってこの二つの注射器を買った方がいいのか?いや、まだ焦るな……最後のパネルを確認しよう)
玲乃は最も気になった「蜘蛛」の絵柄のパネルに視線を向け、明らかにこれだけは他の二つのパネルと違って異彩な雰囲気を纏っていた。陽奈も緊張した表情を浮かべ、玲乃は恐る恐る蜘蛛のパネルに触れると、画面に説明文が表示された。
『Pの半分を使用して今回の遊戯の怪異の情報を得ますか?』
画面に表示された文字を見て玲乃と陽奈は目を見開き、まさか今回の遊戯の「敵」の情報を知る事が出来るのかと動揺する。遊戯が開始される前に敵の情報を得られる好機が巡ってきた事に玲乃は動揺を隠せず、どうするべきか考え込む。
「……半分のPか」
「玲乃……ど、どうしよう?」
特定のPではなく、あくまでも半分のPを要求してくる事に玲乃は制作者側の悪意を感じた。仮に毎回遊戯を開始する前にPを半分も使用していたらこの遊戯を抜け出すのに必要な「10000P」まで貯めるのに相当な障害となるだろう。
しかし、今回の場合は二人は遊戯を乗り越えて生き残る事を優先し、悩みに悩んだ末に玲乃は陽奈に判断を任せる事にした。この状況でPを使用できるのは彼女だけのため、玲乃は陽奈に任せる。
「陽奈、お前が決めろ……Pを持ってるのはお前なんだ」
「え、でも……」
「ここで情報を得られたら遊戯を生き残れる可能性は上がるかもしれない。どんな相手なのか分かれば対処方法を考える事も出来るかもしれない……けど、それをしたら一番役立ちそうな武器は買えない。情報か、武器か……お前が決めてくれ」
「そ、そんな事を言われても……」
「大丈夫だ、どっちを選択しても俺はお前を責めたりなんかしない。必ずお前を生き延びらせる……俺を信じろ」
「……わ、分かった」
玲乃の言葉に陽奈は自動販売機の前に立ち、彼女は悩みに悩んだ末にゆっくりと電子手帳を取り出し、自動販売機のモニターに伸ばす。自動販売機を使用する際は生徒は電子手帳を翳す必要があり、現金では買う事は出来ない。そして陽奈のやり方は間違っていなかったらしく、彼女の画面に表示された数値が半分の「50」へと切り替わった。
『購入を確認しました。情報の開示を行います、モニターの映像をご確認ください』
機械音声が鳴り響くと、自動販売機のモニターが映像へと切り替わり、夜間の学校内の廊下の映像が流れた。どうやら学校内に存在する監視カメラで撮影を行っているらしく、やがて廊下に焦った表情を浮かべた男子生徒が現れた。
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