第12話 猶予
「くそっ……夢じゃなかったのか!!」
「れ、玲乃?いったいどうしたの?」
「……いや、まだ間に合う。他の人間に助けを求めよう」
玲乃は外に視線を向け、まだ時刻は夕方である事を確認すると、この時間帯ならば校舎に他の人間が残っていてもおかしくはない。そう考えた玲乃は陽奈を立ち上がらせてその場を離れると、他の人間の姿を探す。
しかし、どういう事なのかいくら移動しても他の生徒どころか教員の姿も見えず、玄関まで辿り着いた玲乃は誰も見つからない事に違和感を覚え、この時間帯ならばまだ部活動に励む生徒が残っていてもおかしくはないはずだった。実際に運動着姿の陽奈がここにいるため、玲乃は彼女に他の生徒の事を尋ねた。
「陽奈、他の生徒は何処に行った?お前、まだ部活中だったんだろ?」
「え?玲乃……知らないの?もう学校には生徒は一人も残っていないと思うよ?」
「なっ!?」
陽奈は玲乃の言葉に意外そうな表情を浮かべ、彼女の言葉に玲乃は戸惑い、どうして誰もいないと彼女が知っているのかを問い質す。
「ど、どうしてそんな事が分かるんだ?」
「どうしてって……昼休みが終わった時、全校生徒は帰宅するように放送が流れたでしょ?電子手帳にも連絡が届いたし、知らなかったの?」
「帰宅?どうして!?」
「り、理由は僕も知らないよ!!でも、皆の噂だと学校内に不審者が現れたとか、理科室で事故が起きたとか言ってたけど……とにかく、今日は部活動も禁止になったから誰も残っていないと思うよ?」
玲乃は陽奈の言葉に愕然とするしかなく、まさか既に全校生徒が帰宅させられたという事実に動揺を隠せない。その一方で帰宅したはずの陽奈がどうして学校の運動着を着込んでここにいるのか疑問を抱き、彼女に尋ねた。
「事故……け、けど、それなら陽奈はなんで運動着姿でここにいるんだ?」
「僕は大会前だったから、自主練をしてたんだよ。いつもこの格好で外を走ってたから……それで、学校の近くを走っている途中でスマートフォンに玲乃の写真が送り込まれて駆けつけてきたんだよ!?」
「スマートフォンで……でも、どうやっては入ったんだ?」
白鐘学園は周囲を高い塀で覆われており、出入口の正門と裏門に関してはゲートが設置されている。こちらのゲートは電子手帳を所持している人間のみが通り抜けられるようになっているため、遅刻者が現れた場合は学校を密かに侵入して潜り込む事は出来ない。仮に潜り込めてもゲートの記録が残っていなければ潜り込んだ事がバレるため、遅刻者には厳しい。
下校時間の後はゲートのは封鎖されるため、仮に生徒が戻ろうとしても中に入る事は出来ない。しかし、陽奈の場合は下校時間を完全に迎える前に彼女は偶然にもスマートフォンと一緒に電子手帳を持ち込んでいたため、学校内に入ってきたという。
「僕、今日の体育の時に運動着の中に電子手帳を入れたままだった事を忘れてたんだ。お陰で学校に入る事が出来たけど……でも、何がどうなってるの?なんで先生はあんな事に……」
「……それは後で説明する。今は急いでここから逃げないといけない」
「え、逃げるって……?」
話を聞き終えた玲乃は深刻な表情を浮かべ、昇降口のガラス戸に近付き、駄目元で蹴り込む。だが、こちらも強化硝子で構成されているのかびくともせず、蹴りつけた玲乃の足の方が傷んでしまう。外に繋がる全ての窓と扉は封鎖されているらしく、玲乃は何度もガラス戸を叩きつけた。
「くそ、出せ!!ここから出せ!!」
「れ、玲乃!?いったいどうしたの、落ち着いて!!」
「……陽奈」
取り乱した玲乃を見て陽奈は後ろから抱き着いて引き留めると、玲乃は陽奈の顔を確認して抱きしめる。唐突な玲乃の行動に陽奈は戸惑い、彼女は頬を赤くしながら尋ねる。
「玲乃……?」
「……大丈夫だ、もう落ち着いた。何があろうとお前だけは守る」
「えっ……」
玲乃は陽奈の身体を強く抱きしめ、せめて大切な幼馴染だけは守り通そうと誓う。自分のために身の危険を顧みずに相良から救い出すために駆けつけてきた彼女を必ず守ると玲乃は誓い、そのためには準備が必要だった――
――頭を落ち着かせた玲乃は最初に確認したのは陽奈のスマートフォンだった。スマートフォンを使って外部と連絡が取れないのかを試そうとしたが、昨夜の玲乃が所持していたスマートフォンと同様に彼女のスマートフォンも電源が切れて動かない状態に陥っていた。
駄目元で電子手帳の連絡機能も試そうとしたが、画面は遊戯の開始時刻までの時刻を表示されるだけで切り替えられず、連絡は取れない。そもそも現在の状況が学園側が仕組んだ罠の可能性もある以上、電子手帳は当てにはならない。
玲乃は陽奈に昨日の出来事を説明しながら学校内に存在する「購買」へと向かい、当然だが購買は既に閉め切っていた。しかし、購買の前に存在する自動販売機に変化が生じており、普段はジュースを販売している自動販売機だが、現在は画面に表示されている物が別の物にすり替わっていた。
「な、何これ……どうなってるの?」
「……なるほど、これが遊戯で扱える道具か」
二人の目の前に存在する自動販売機には3つのパネルが表示され、それぞれが「拳銃」「注射器」「蜘蛛」のようなマークが刻まれていた。レナは拳銃のパネルを見て昨夜の「金井美香」という女子生徒が使用していた「拳銃」の事を思い出す。
彼女が使用していたのは銃口が非常に大きく、どこかドライヤーを想像させる形の拳銃を所持していた。見た目はともかく、犬男の顔面を陥没させるほどの威力を誇るが、弾丸は1発しか撃てない単発式らしく、玲乃の命を美香が狙った時は彼女は弾丸を撃ち込む事が出来なかった。
(あの女が持っていた拳銃はここで買ったんだな……)
玲乃は試しに自動販売機に手を伸ばし、とりあえずは「拳銃」のパネルに触れた。すると、自動販売機に設置されているモニターが変化し、新たに複数のパネルが表示される。それぞれのパネルに別々の拳銃が表示され、その中には拳銃ではなく刃物の類も存在した。
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