第11話 相良の末路

「く、くそっ!!殺す、殺してやるぅっ!!」

「勝手に言ってろ馬鹿!!」



玲乃は体育倉庫から飛び出すと、相良に追いつかれる前に駆け出す。体育倉庫は校舎の裏手側に存在するため、滅多に人は寄り付かない。そのため、玲乃は他の人間がいる場所まで移動しようとした時、校舎の曲がり角で誰かとぶつかってしまう。



「うわっ!?」

「わあっ!?」



身体が衝突した際に玲乃の耳に聞き覚えのある女子生徒の声が聞こえ、驚いた玲乃はしりもちをついた相手に視線を向けると、そこには運動着姿の陽奈の姿が存在した。どうして彼女がここにいるのかと玲乃は驚いたが、すぐに先ほどのスマートフォンの事を思い出して彼女がもうここまで来ていた事を知る。



「陽奈!!」

「え、玲乃!?無事だったの……わっ!?」

「こっちだ、早く走れ!!」

「くそ、待ちやがれっ……!!」



驚愕の表情を浮かべる陽奈の手を引いて玲乃は彼女を連れて駆け出し、その後に片足を引きずった相良が後に続く。陽奈は何が起きているのか理解できず、走りながらも何が起きたのかを問う。



「あ、あれ相良先生だよね!?何で追いかけられているの!?」

「あいつが俺を捕まえた犯人なんだよ!!さっき、スマートフォンに俺が捕まっている写真が送り込まれただろ!?あれは相良がお前を誘き寄せるための罠だったんだよ」

「そ、そんな……」

「逃がすか、止まれぇええっ!!」



半ば狂ったように相良は怒声を張り上げて玲乃と陽奈の後を追いかけ、怒りで痛みを感じないのか先ほどまでは引きずっていた足も無理やりに動かして二人の後を追う。その尋常ではない気迫に玲乃と陽奈は恐怖を覚え、二人は急いで他の人間がいる場所へと向かう。


走っている最中に玲乃は校内に繋がる窓に気付き、誰かが窓を開けたまま閉めていなかったのか中に入れる場所が存在する事に気付く。玲乃は陽奈に先に窓に入るように促す。



「あそこに逃げよう!!」

「う、うん!!」

「はあっ、はっ……待てと言っているだろうがぁっ……!!」



玲乃の言葉に陽奈は先に開きっぱなしの窓に近付き、廊下へと移動する。彼女は窓の外の玲乃に手を伸ばし、そのまま玲乃を引き上げる。二人は校舎の中に入るとすぐに窓を閉めて鍵を掛けようとした。



「玲乃、早く閉じて!!」

「分かってる……うわっ!?」

「逃がすかぁっ!!」



相良は窓を閉める前に身体を割り込ませ、完全に閉じられる前に上半身を通路側に移動させる。玲乃は窓を閉めようと必死に押し込むが、相良の方が腕力が強く、彼は窓を押し開いて無理やりに廊下に入り込もうとする。



「くそっ……しつこいんだよ!!」

「ガキが、大人を舐めるなっ!!」

「玲乃、もう逃げよう!!」



窓を抑えつける玲乃に陽奈は逃げるように促すが、少しでも力を抜けば相良は廊下に入り込む事は間違いなく、こんなに興奮した相良が廊下に入り込めば陽奈の身が危ないと判断した玲乃は決して力を緩めない。


彼女に逃げるように玲乃は告げようとした時、ここで校舎内に異変が生じた。突如として他の窓から音が鳴り響き、自動的に鍵が掛けられていく。更に玲乃が抑えつけていた窓も唐突に動き出し、上半身を窓に挟まれた相良は悲鳴を上げる。



「ぐぎゃあああっ!?」

「な、何だっ!?」

「相良先生!?」



玲乃は何もしていないのに自動的に窓が動き始め、窓枠に挟まれていた相良の肉体が徐々に押し潰されていく。彼は必死に抜け出そうとしたが窓はゆっくりと彼の身体に食い込み、やがて骨が軋む音と皮膚が破れて口内に血がしたたり落ちる。



「た、助けっ……あぁああああっ!?」

「ひっ!?」

「見るな、陽奈!!」



相良の身体が押し寄せる窓によって完全に上半身と下半身が切断される寸前、玲乃は陽奈の元に急いで彼女の目を塞ぐ。その直後、相良の肉体は真っ二つになって廊下と校舎の外に肉体が倒れ込む。


陽奈の目に手を押し当てながらも玲乃は相良の「死体」を確認して顔色を青くさせ、何が起きたのか理解できなかった。どうして窓が唐突に閉まったのか、他の窓も含めて勝手に鍵が掛けられたのか、訳が分からずに玲乃は相良の死体を確認する。



(間違いない、本物だ……夢なんかじゃない、本当に死んでる……!!)



相良が死ぬ姿を見ていた玲乃はここが「夢」ではなくて「現実」だと嫌でも思い知らされ、無意識に陽奈の目から手を離して彼女の身体を抱きしめていた。陽奈は玲乃に抱きしめられながらも身体を震わせ、玲乃の胸元に顔を押し当てながらも尋ねる。



「れ、玲乃……何が起きたの?ねえ、先生はどうなったの……?」

「……とりあえず、ここから離れよう。その後に説明するから」



玲乃も何が起きているのか理解できないが、はっきりと言える事はここに残っていると非常にまずい。もしもこんな光景を他の人間に見られたらと考えるだけでも背筋が凍り、下手をしたら玲乃達が相良を殺害したと誤解されかねない。


震える陽奈を立ち上がらせて玲乃は彼女が相良の死体を見ないように気を付け、その場を離れさせる。一先ずは身体を休める場所を探そうと廊下を歩いた瞬間、唐突にハルナが所持する電子手帳が鳴り響く。



「えっ!?な、何……!?」

「陽奈、電子手帳を持ってるのか?」

「あ、うん……ここにあるよ」



陽奈は玲乃に問われて電子手帳を取り出すと、表示されている画面を見て目を見開く。その彼女の態度から玲乃は嫌な予感を覚え、何を見たのかと画面を覗き込む。その画面を見て玲乃は驚き、陽奈は戸惑いの声を上げる



「玲乃……こ、これ、どうなってるの?」

「……悪夢の再開だ」



陽奈の電子手帳の画面に表示された「説明文」を確認して玲乃は信じたくはなかったが、昨日の出来事が現実である事を思い知らされる。




『間もなく遊戯が開始されます。参加者の皆さまは準備を整えてください、本日の遊戯の開始時刻は19:00からです。遊戯の開始前に購買に立ち寄り、準備を整える事をお勧めします』




画面の説明文を確認した陽奈は意味が分からない文章に混乱し、その一方で玲乃は昨日の出来事を思い出し、自分が再び「遊戯」とやらに参加させられた事を理解する。しかも今回の場合は陽奈も巻き込まれたのは間違いなく、よりにもよって大切な幼馴染がこの狂った遊戯に参加したという事実に玲乃は嘆いた。

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