第10話 脅迫

「さて……お前のスマートフォンを借りるぞ」

「ふぐっ……!?」

「何をするつもりか気になるのか?当然、お前の写真をあの女に送りつけるんだよ。お前の彼氏を預かった、助けてほしければ誰にも話さずに今すぐ一人で来い……これであの女は引っかかるだろう」



相良は現在の玲乃の姿を撮影すると、彼のスマートフォンに登録されている陽菜のメールアドレスに送り込む。相良の行動に対して玲乃は冷や汗を流し、彼の知っている限りでは陽奈ならばメールの内容に従って一人で訪れる可能性もあった。



(陽奈なら俺が捕まっているのを知ったら本当に一人で来るかもしれない。くそ、どうにかこの拘束さえ解ければ……)



玲乃はどうか陽菜が指示に従わず、他の人間や警察に相談する事を祈る。一方で相良の方は陽奈が訪れるまでの間、自分が購入していた代物を玲乃に見せつける。



「おい、白井……これが何か知っているか?これを買ってきた事の意味がお前に分かるか?」

「っ……!!」

「ははっ!!楽しみだな、好きな女が他の男に乱れる姿を見たらお前はどんな表情を浮かべるかな?」



相良は薬局で買ってきたと思われる箱を取り出して玲乃に見せつけ、その相良の態度に玲乃は激しい憎悪を抱く。このままで大切な幼馴染がこんなクズに汚されると知った玲乃はどうにか現在の状況を抜け出す術を考えた。


現時点では玲乃は両手と両足をガムテープで無理やり拘束され、碌に動く事も出来ない。体育倉庫の中に存在する器材を利用して拘束を抜け出せないかと考えたが、相良が傍に居る以上は下手に動く事は出来ない。



(駄目だ、この状況だと何をしても相良に気付かれる……どうすればいいんだ?)



玲乃は必死に頭を巡らせ、陽奈が誘いに乗って現れる前に現状を打破する方法を考える。その時、体育倉庫内に着信音が鳴り響き、相良が所持している玲乃のスマートフォンに視線を向ける。



「おっ?お前の彼女から連絡か?メールの内容を確認して確かめようとしているのかもな……ん?何だ、電子手帳の方か?」

「っ……!?」



着信音の発生源はスマートフォンではない事に気づいた相良は玲乃の電子手帳に視線を向け、訝し気な表情を浮かべる。生徒の電子手帳には通話機能も搭載されているため、電子手帳を利用して誰かが玲乃に電話をかけてきたのかと思った彼は電子手帳を開いた。


最初に着信音を聞いたときは玲乃は陽奈が自分に連絡をしてきたのかと思ったが、冷静に考えるとおかしな話である。先ほど相良はスマートフォンに玲乃の現在の写真を送り込んだため、仮に陽奈が写真を確認して連絡を取ろうとするのならば電子手帳ではなく、スマートフォンに連絡するのが自然だろう。つまり、着信音の相手は陽奈ではない。



「くそ、どうなってんだ……どうやったら止まるんだ?」

「……?」



相良は着信音が鳴りやまない玲乃の電子手帳を手にして訝し気な表情を浮かべ、彼がいくら電子手帳を操作しようとしても反応がなかった。画面をタップしてもボタンを押しても着信音が鳴りやむ様子はなく、怒りを抱いた相良は電子手帳を床に叩きつけた。



「くそがっ!!止まれ、さっさと止まれ!!」

「っ……!?」



電子手帳の着信音が徐々に大きくなり始め、このままだと外の人間に気付かれるかもしれないと焦った相良は何度も電子手帳を破壊しようと踏みつける。しかし、相当に頑丈な素材で出来ているのか電子手帳はいくら相良が蹴りつけようと壊れる様子はなく、それどころか徐々に着信音のフレーズが変化していく。


両手で耳を塞がなければ耐えられないほどの音量で着信音が鳴り響くと、相良は耐え切れずに彼は体育倉庫内に存在したパイプに気付いて無我夢中電子手帳に叩き込む。



「この、止まれ……止まれと言ってるだろうがっ!!」

「っ……!!」



相良が電子手帳の破壊に夢中になっている間、玲乃は絶好の好機だと判断して彼の注意が反れている隙に体育倉庫の出入口へと向かう。両手と両足を拘束された状態ではあるが、どうにか身体を転がすように移動し、彼が持ち込んだビニール袋に近付く。


一方で相良は着信音が鳴りやまない電子手帳に自棄を起こし、力ずくで何度もパイプを叩き込む。やがて電子手帳も限界を迎えたのか、相良が渾身の力で叩き込んだパイプによって破壊されてしまう。



「はっ!!や、やっと壊れたか……いったい何だったんだ?」

「…………」



どうにか電子手帳を破壊した事で安堵した相良だったが、その間に玲乃は相良が持ち込んだビニール袋の中身を確認し、ある道具を見つけた。恐らくは脅迫用に持ち込んだと思われるポケットナイフが入っている事に気付き、どうにか両手でナイフを手にすると玲乃はガムテープにナイフの刃を走らせる。


安物の古いガムテープでも使っていたのかナイフの刃を貫いた瞬間に玲乃は両腕の拘束から逃れ、すぐに足首に巻き付いたガムテープも刃で切り裂く。相良の方は壊れた玲乃の電子手帳を拾い上げて調べていた事が幸いし、彼が気づく前に玲乃は拘束から逃れる事に成功した。



(やった!!これで逃げられる……いや、その前にあれを回収しないと)



玲乃は相良が落とした自分のスマートフォンが彼の近くに落ちている事に気付き、先ほどの画像の件を陽奈に知らせなければならず、このまま逃げ出しても事情を知らない陽奈を相良が違う場所に呼び出す危険性もあった。幼馴染を守るため、レナは握りしめたポケットナイフを相良の背中に構える。



(やるしかない……!!)



相良が隙を見せている間にレナはポケットナイフを構えると、彼が振り向く前に相良に向けて駆け出し、彼の右足の太ももに突き刺す。その結果、相良は悲鳴を上げて地面へ倒れ込み、その隙に玲乃はスマートフォンを取り返す。



「ぎゃあああっ!?あ、足がぁっ……!?」

「……自業自得だ!!」



足を突き刺された相良は立ち上がる事もままならず、必死に足に突き刺さったポケットナイフを引き抜こうとする。様子を見た限りではまともに走る事も出来ないと判断したレナはスマートフォンを手に取ると、急いで体育倉庫から離れた。

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