第9話 拘束
「そうか、やはりお前が持っているのか!!」
「ぐあっ!?」
玲乃は自分よりも頭一つ分は大きい相良に首元を掴まれ、壁際まで押し込まれる。助けを求めようにも相良は首を掴んでいるので声も碌に出せず、体育教師を務める相良は他の教師の中でも一番体格に恵まれ、身体も鍛えている。身長は180センチを超える大男に首元を掴まれた玲乃は抵抗出来ず、壁際に追い込まれてしまう。
興奮した様子で相良は玲乃の口元を掴むと、壁へと叩きつける。そして反対の腕で玲乃の腹部に拳をめり込ませ、玲乃は苦痛の表情を浮かべ、殴られた際に先ほど回収したスマートフォンが床に落ちる。それを見た相良は自分のスマートフォンである事に気付き、玲乃の耳元に呟く。
「やっぱり、お前が持っていたのか……中身を見たのか?」
「うぐぅっ……!?」
口元を抑え込まれながらも玲乃は相良を睨みつけ、その態度から相良はスマートフォンの中身を見られたことを悟り、彼は忌々し気に玲乃の口を離す。玲乃は激しく咳き込みながら膝を付くと、今度は玲乃の髪の毛を掴んで相良は無理やりに玲乃の身体を起こす。
「白井……スマートフォンの中身の事をばらしたら、どうなるか分かっているな?俺の人生がめちゃくちゃになるんだ」
「げほっ……きょ、教師が教え子の着替えを盗撮するなんて、許されると思っているのか!?」
「はっ、知った事か。入学した時から俺はお前の幼馴染を狙ってたんだよ」
スマートフォンの持ち主が陽奈が相談していた男子生徒ではなく、自分の担任の教師で会った事を知って玲乃は怒りを抱くが、相良は圧倒的な腕力で玲乃の頬を掴んで壁際に再び押し付ける。
「だが、見られた以上はお前にはお仕置きが必要のようだな……お前の事は前々から気に入らなかったんだ。俺の女に手を出した報いを受けて貰おう」
「っ……!!」
「何だ?その目は……ぐあっ!?」
陽奈はお前の女ではないと玲乃は必死に伝えようとするが、口を塞がれては声も碌に出せず、せめてもの反撃に口元を抑え込む相良の掌に噛みつく。予想外の玲乃の行動に相良は痛みで手を離し、その隙に玲乃は相良の元から離れようとした。
しかし、掌に血を滲ませながらも相良はいち早く玲乃の首根っこを掴み、無理やりに引き寄せる。相良は怒りの咆哮を放つと玲乃の頭を掴んで壁に叩き込む。
「この、ガキがぁっ!!」
「っ――!?」
壁に頭を叩きつけられた玲乃は意識を失い、そのまま気絶してしまう。その様子を見た相良は興奮した様子で倒れた玲乃に視線を向け、唾を吐いて玲乃の身体を持ち上げる。こんな姿を他の人間に見られたらまずく、彼は他の人間に見つからないように玲乃を隠す必要があった。
「ガキが、面倒を掛けさせやがって……そうだ、あそこがいいな」
相良は玲乃が意識を取り戻して他の人間に自分の秘密をばらさないようにするため、彼は学校内に存在するある建物へと向かう――
――玲乃が意識を取り戻すと、最初に視界に入ったのは真っ暗な空間だった。玲乃は瞼を開いて早々に自分の手足が自由に動かない事に気づき、すぐにその理由を悟る。いつの間にか手足がガムテープで拘束され、両手を後ろに組んだ状態で床に倒れていたのだ。
口元もガムテープで封じられ、助けを求める事も出来ない。玲乃は頭が痛むのを我慢しながらも周囲の様子を伺うと、随分と埃を被った体育の授業に際に使う跳び箱やマットが目に入る。他にも様々な器材が保管されており、この事から玲乃は自分が「体育用具室」に閉じ込められている事を知る。
(何だここ……普段、俺達が使用している体育倉庫じゃないな)
玲乃は碌に掃除もされていない器材を確認して普段の授業で扱う体育倉庫ではない事に気づき、すぐにある事を想い出す。陸上部に所属する陽奈から聞いた話だが、玲乃たちが普段使用している体育倉庫とは別の場所に数年前に使用されていた体育用具室が放置されているという。
こちらの体育倉庫は昔は使われていたが、新しい学園長が就任した際に新しい体育倉庫が作り出され、生徒達はそちらを使用している。どうして体育倉庫を新たに設立したかというと、理由は旧体育倉庫は学校の裏手に存在し、器材をグラウンドや体育館に運ぶのに手間が掛かるという理由らしい。
どうしてわざわざグラウンドが遠い場所に旧体育倉庫が設置されていたかというと、実は現在の白鐘学園は過去に災害に見舞われた時に倒壊した事もあり、新しく校舎を立て直す際に大々的に増設が行われ、グラウンドの位置が変わってしまった。そのため、旧体育用具室が作り出された時とグラウンドの位置が変わってしまい、新しく体育倉庫が作り出されたのだ。
(学校が倒壊した時も唯一無事だった建物だったから、歴史のある建物という理由で取り壊しされていないとは聞いていたけど……くそ、厄介な場所に閉じ込められた。ここだと助けを呼ぶ事が出来ない)
玲乃はどうにか上半身を起き上げると、両手と両足を拘束された状態ながらも窓の方へと近寄る。どうやら長い時間気を失っていたらしく、時間帯は既に夕方を迎えていた。仮に窓を開いて助けを求めようにも旧体育倉庫は学校の裏手に存在し、生徒は滅多に立ち入る事はない。
(スマートフォンと電子手帳は……くそ、奪われたか)
制服のポケットに入れている電子手帳とスマートフォンで助けを呼べないかと考えた玲乃だが、流石にどちらも放置するほど相良も間抜けではないらしく、既に無くなっていた。玲乃は周囲の器材に視線を向け、何か道具を利用して抜け出す事が出来ないかと考えた時、ここで旧体育倉庫の扉が開く。
「おう、起きていたか。どうだ、目覚めの気分?」
「むぐぅっ……!?」
「何だ、その顔は?助けが来たとでも思ったのか?残念だったな、こんな場所に立ち寄る人間は体育教師の俺以外にいないんだよ」
扉を開いて中に入ってきたのは相良であり、彼はビニール袋を抱えながら体育倉庫に入ってきた。彼は玲乃が目を覚ましている事に気付いても動じず、堂々と玲乃のスマートフォンを取り出す。自分のスマートフォンを掲げた相良に玲乃は何をするつもりなのかと冷や汗を流すと、相良は玲乃のスマートフォンのカメラ機能を利用して現在の玲乃の状態を撮影する。
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