第8話 視線

「まさか、昨日の夢が本当に起きた事なのか?いや、そんな馬鹿な……」



玲乃は電子手帳の画面を確認して動揺を隠せず、何度見ても金井美香の顔写真は玲乃が昨夜の「夢」に遭遇した女子生徒と瓜二つだった。今の今まで玲乃は金井美香という名前の女子生徒と日常生活で接触した覚えはなく、何処かで偶然見かけて印象に残っていたという訳でもない。


夢の出来事を思い返し、確かに玲乃は金井美香と思われる女子生徒と顔写真の人物は同一人物で間違いはない。しかし、それが事実ならば玲乃は昨夜の夢の出来事が現実だと認めなければならなかった。



「有り得ない、そんな馬鹿な事があるはずがない……ただの夢だ!!」



電子手帳を閉じて玲乃は金井美香の顔写真から目を離し、早く夢の出来事など忘れようと頭を抱える。しかし、いくら考えても昨夜の出来事は色々とおかしく、どうしても確かめる必要があると判断した。



(もしも、本当に機能の出来事が本当の事だったら……確かめる必要がある)



玲乃は昨夜に金井美香と遭遇した教室の事を思い出し、犬男と遭遇した時に玲乃は教室の中で派手に暴れた。あの場所は一年生の教室のため、二年生の玲乃が入るのは目立つため、今日の放課後に向かう事を決める。



(待てよ、その前に図書室に寄るか?昨日は俺が図書委員の仕事を任されていたはずだから、記録が残っているはず……そっちから調べてみよう)



教室を調べる前に玲乃は図書室へと戻り、自分が昨日何時まで残っていたのかを調べる事にした。図書室では誰が何時に出入りしているのか記録を調べられるはずであり、仮に玲乃が昨日見た夢が事実ならば玲乃が最後に教室に出たのは夜遅くの時間帯のはずだった。


放課後に図書室と教室を確認する事に決めた玲乃は屋上から教室へと戻ろうとした時、不意に何処からか見られているような感覚に陥る。何となくではあるが、誰かに見られている気分がした玲乃は辺りを見回すと、屋上に繋がる扉の方で人影を見かけた。



「誰だ!?」



何者かに見られていると知った玲乃は慌てて扉に賭け寄って調べるが、既に人影は見当たらず、扉の外には誰もいなかった。気のせいかと玲乃は思ったが、玲乃は足元に落ちているスマートフォンに気付く。



「スマホ?どうしてこんな所に……」



スマートフォンを拾い上げた玲乃は中身を確認しようとすると、どうやらカメラ機能が作動しているらしく、それに気づいた玲乃は嫌な予感を覚えてデータフォルダを確認すると、そこには玲乃の画像が保存されていた。



「何だこれ……盗撮?しかも、これ……俺か?」



自分が誰かに盗撮されていたという事実に玲乃は嫌な予感を抱き、他にも確認してみると玲乃が学校に登校する姿や、他の友達と話している姿も映し出されていた。どの角度も隠し撮りされたような角度であり、極めつけには玲乃が自宅のマンションに戻る姿も撮影されていた。


スマートフォンの画面を確認しながら玲乃の頭は混乱し、念のために他の画像の確認を行う。そして画像の中には今朝に玲乃と陽奈が熱を測るために額を合わせている場面も存在し、位置的に二人が口づけしているかのような角度の画像まである事に気付く。



「おい、嘘だろ……」



更に念入りに調べてみると、最近に取られている画像は玲乃の隠し撮りばかりだったが、三日ほど前の画像は全て陽奈の隠し撮り画像である事が判明する。しかもどれもこもれが普通の画像ではなく、どのような手段で撮影したのかは不明だが、彼女のが更衣室で着替えているときの写真や、水泳の授業で水着姿に着替えた陽菜の写真もあった。


玲乃の物と違い、どれもこれもが彼女の事を性的な対象として意識して撮影されている事に気付き、ここで玲乃は陽菜が最近にある男子生徒に付きまとわれているという話を思い出す。このスマートフォンの持ち主はもしかしたらその男子生徒かもしれないと気づいた玲乃は冷や汗を流す。



「……とりあえず、先生に報告するか」



スマートフォンを振るえる手で自分のポケットにしまった玲乃は学校の教師に相談するべきかと思い、自分のポケットの中にしまう。金井美香の件も気になったが、大切な幼馴染が盗撮されていると知れば玲乃も冷静ではいられない。


昼休みが終わる前に玲乃は職員室に向かおうと考えた時、階段の方から誰かが登ってくる足音が聞こえた。その足音を耳にして玲乃は陽菜のストーカーかと一瞬警戒したが、姿を現したのは体育教師で玲乃のクラスの担任教師でもある「相良」という男性教師だった。



「ん?そこにいるのは……白井か?どうしたんだ、こんな所で何をしている」

「せ、先生……いえ、ちょっと飯を食おうと思って屋上に来てただけです」

「ああ、そういう事か。だがな、外を見てみろ。もう雨が降ってるだろ?屋上の解放は晴れた日だけだ、今から施錠するぞ」



相良は玲乃に窓を指差すと、既に雨が降り始めていた。白鐘学園では晴れの日以外では教室は施錠される決まりとなっており、雨等が降った場合は教師が施錠する規則になっている。


玲乃の傍を通り過ぎて相良は教員に渡される電子手帳を使用し、扉の傍に設置されているモニターに近づけて鍵を掛ける。この白鐘学園では手動で鍵を掛けられる場所は限られ、大抵の扉は電子手帳を使用して鍵の施錠を行う。



「お前も早く教室に戻れよ、もうすぐ昼休みが終わるからな」

「はい、分かりました……」



扉に鍵を掛けた相良は玲乃に教室に戻るように促し、彼の言葉に玲乃は従おうとした時、ここで玲乃は先ほど拾ったスマートフォンの事を思い出す。丁度良く担任教師が現れたため、彼にストーカーの件を相談しようとした時、相良が玲乃が振り返る直前で話しかけてきた。



「ところで白井、ここでスマートフォンを見かけなかったか?」

「えっ……」

「もしもお前が持っているのなら返してくれ。あれは先生のスマートフォンだからな」

「っ……!?」



相良の言葉に玲乃は驚愕の表情を浮かべて振り返ると、そこには普段の明るい表情と一変して冷たい顔を向ける相良の姿があった。彼は玲乃の反応を見て自分が落とした「スマートフォン」の事を知っていると判断した相良はすかさずに玲乃の首元に両手を伸ばした。

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