第6話 幼馴染
「――ねえ、起きて。もう、遅刻しちゃうよ?」
「うっ……」
玲乃は身体を揺さぶられて意識が覚醒し、聞き覚えのある声を耳にして瞼を開くと、そこには見覚えのある少女の顔が映し出された。自分の幼馴染にして幼稚園の頃からの付き合いがある「皆川陽奈」だった。蒼井春奈は玲乃が暮らすマンションの隣に住んでいる幼馴染であり、子供の頃から家族ぐるみの付き合いの少女である。同じ高校でクラスは別だが、朝に弱い玲乃のために毎朝律儀に起こしに来てくれる面倒見の良い少女である。
外見は身長は160センチほどで顔立ちは非常に整っており、茶髪で髪型はポニーテールにまとめている。何よりも特徴的なのがFカップはあるのではないかというほどの大きさの胸を誇り、それでいながら陸上部のエースとして活躍するほどの高い運動能力を持ち合わせ、カモシカの足(実際のカモシカの足は意外と太いらしいが)のようにすらりと細く伸びている事から男子からの人気は高い。
そんな美少女といっても過言ではない陽奈に起こされた玲乃だが、彼女の顔をじっと見つめて自分がベッドの上に横たわっている事に気付き、慌てて身体を起き上げる。
「うわぁっ!?」
「うひゃっ!?な、何!?」
「はあっ……はっ……陽奈、か?」
「そ、そうだよ?どうかしたの!?」
陽奈の顔を見て玲乃は全身から脂汗を流し、頭を抑えた。いつの間にか自分がパジャマに着替えてベッドに横たわっている事に気付き、段々と頭が落ち着いてくると玲乃は深いため息を吐き出す。
「はあっ……そうか、夢だったのか」
「夢?夢がどうかしたの?」
「いや、何でもない……待てよ、そうだな。陽奈、ちょっと動くなよ」
「え、うん?」
玲乃は陽奈を見て何かを思いついたように彼女に視線を向け、その真剣な眼差しに陽奈はドキッとしたが、すぐに玲乃は両手を伸ばして彼女の豊かな胸元に手を伸ばす。
「てりゃっ」
「ひゃうっ!?」
「おおっ……相変わらずデカい、それにこの感触……本物か」
「きゅ、急に何を……あんっ、こらぁっ……駄目ぇっ」
唐突に自分の胸元を掴んで揉んできた玲乃に対して陽奈は困惑した表情を浮かべるが、しばらくの間は玲乃に胸を揉まれ続けて彼女は頬を赤くする。だが、やがて我慢の限界を迎えた陽奈は怒ったように玲乃の頬を叩く。
「もう、いい加減にしなよ!!」
「あいてぇっ!?」
頬を派手に叩かれた玲乃は悲鳴を上げ、同時にその痛みから現実である事を理解すると、頬を摩りながらも先ほどまでの出来事が全て夢の中の出来事だと確信を抱く。しかし、そんな玲乃の事情を知らない陽奈は少し怒ったような表情を浮かべ、部屋の外へと出ていく。
「もう、今日は先に行くからね!!すぐに着替えてご飯を食べたら学校に来てよ!!」
「あ、ああ……ごめん」
「……もうっ」
陽奈は最後に扉を開いたときに玲乃に振り返り、恥ずかしそうに頬を赤らめながらも舌を出す。そんな彼女に玲乃は謝罪すると、陽奈は部屋の外を出て行った。残された玲乃は少しふざけ過ぎたかと反省しながらもベッドから起き上がり、改めて安堵したようにため息を吐き出す。
冷静に考えれば夜中の学校に閉じ込められ、謎の化物に襲われるなどという異常事態が現実に起きるはずがないと判断した玲乃は気を取り直して立ち上がる。だが、ここで玲乃はある事に気付き、自分のパジャマに視線を向けて疑問を抱く。
「あれ……これ、俺のじゃない。親父のパジャマか……?」
玲乃の父親は現在は仕事の都合で単身赴任中のため、この家には暮らしていない。母親の方も父親と共について行ってしまったため、年に数回しか家に戻る事はない。だからこそ家事は玲乃が一人で行っているのだが、玲乃は自分が身に付けているパジャマが自分の服ではない事に気づく。
単身赴任中の父親のパジャマを身に付けている事に玲乃は疑問を抱き、このパジャマは玲乃の記憶が正しければ父親の部屋のクローゼットに保管されていた代物である。今までに父親のパジャマを間違ってきた事はなく、どうして自分が父親のパジャマを身に付けているのかと混乱する。
「寝ぼけて間違えてきたのかな……いや、そんなはずはない。それに……昨日、俺どうやって戻ってきたんだ?」
昨日の自分の行動を思い出そうとした玲乃だが、何故か学校から自宅に帰ってきた出来事を思い出せない。自分が図書委員の仕事で下校時間まで残ったまでは覚えているのだが、その先の出来事は先ほどの「夢」の内容しか思い出せなかった。
「あれは夢じゃなかった……いや、そんな馬鹿な事があるか。きっと、寝ぼけて親父の服と間違えたんだ。うん、そうに決まってる……」
玲乃は自分の部屋を見渡して鞄が机の上に放置されている事に気付き、中身の確認を行う。特におかしな点は見つからず、スマートフォンも電子手帳も置かれていた。玲乃は夢の出来事を忘れ、昨日の自分はきっと家に帰って早々に早く眠ってしまったので何も記憶がないと思い込む事にした。
しかし、玲乃は昨夜の記憶が曖昧である事に対して違和感は消えず、結局は陽奈が用意してくれたと思われる朝食も食べる気がせず、冷蔵庫に戻して学校へと向かう――
――玲乃と陽奈の自宅のマンションから白鐘学園高校に辿り着くまでにはバスを乗る必要があり、玲乃がバス停に向かうと陽奈はまだベンチに座っていた。どうやらバスが来る前に彼女に追いつく事が出来たらしく、先ほどの件もあるので玲乃は少し気まずそうな表情を浮かべて話しかける。
「えっと……陽奈さん?」
「あっ……玲乃?もうご飯を食べて来たの?」
「いや、まあ……そんなところかな」
陽奈は玲乃がもう追いついてきた事に驚き、彼女の座っているベンチの隣に玲乃は若干距離を開いて座り込もうとすると、陽奈の方から近づいてきた。
「……さっきの事なら、もう怒ってないよ?」
「あ、本当に?ごめん、さっきはちょっと取り乱してて……」
「もう、次からはちゃんと気を付けてよね。それよりも……何かあったの?顔色が悪いように見えるけど」
「えっ……そう?」
ベンチに座った玲乃の元に陽奈は近づき、彼の顔色が普段よりも悪い事を指摘する。彼女は先ほど旨を揉まれた事を忘れ、心配そうに玲乃の頭に自分の頭を近づけ、額を押し当てる。傍から見れば二人が口づけをしているように見えてもおかしくはない光景だった。
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