第5話 遊戯の終了

「くそっ……いったい何が起きてるんだ」



どうにか教室を脱出した玲乃だったが、昇降口の前で立ち止まっていた。理由は外へ逃げようにも扉が開かず、鍵が掛けられていたからである。駄目元で電子手帳を翳しても反応は示さず、窓から外へ脱出を試みようとしても何故か開かない。


外に繋がる扉も窓も全てが封じられており、無理やりに窓を壊して抜け出そうとしてもびくともせず、人間の力では壊せるような代物ではなかった。玲乃は先ほどの女子生徒の事を思い出し、あの怪物と残してきたのでどうなったのかは気になったが、今更戻る勇気はなかった。



「いったい何だってんだ……くそっ!!」

『敵対象の生物の死亡が確認されました。遊戯を終了とさせていただきます』

「えっ……な、何だ!?」



校内のスピーカーから機械音声が鳴り響き、更に玲乃が所持していた電子手帳からも同様の声が響く。突如として流れてきた放送に玲乃は驚く中、更に機械音声は言葉を続けた。



『現時点を以て遊戯は終了とさせていただきます。これより、参加者同士の争いは禁じます。暴力行為を発見次第、速やかに対処しますのでご注意ください』

「何なんだいったい……うわっ!?」



玲乃が手にしていた電子手帳の画面が勝手に切り替わり、文章が表示される。画面を見て玲乃は戸惑いながらも内容を確認した。




―――――――


生存者:1人


獲得:500


討伐ボーナス:0


現在のP:600


―――――――



画面を確認して玲乃は戸惑い、獲得や討伐などという気になる単語はあったが、玲乃が最も目を引いたのは「ポイント」という文字だった。何がどうなっているのか分からないが、ここで先ほど遭遇した女子生徒の事を思い出す。



(そういえばさっきの奴、何か言いかけていたな……)



玲乃は正確に女子生徒の告げていた言葉を思い返し、化物に襲われた時に女子生徒は確かに「ポイントは集まった」「解放される」という言葉を使用していた。その事を思い出した玲乃は女子生徒が告げていたポイントというのは画面に表示されている「P」の事ではないかと悟る。


先ほどの女子生徒が告げていた「#P__ポイント__#」が電子手帳の画面に表示されている数値だとした場合、彼女はこのPを手に入れるために先ほどの化物に挑んていた事になる。実際に画面上には「獲得」やら「討伐ボーナス」という文字も記されているため、玲乃は自分の推理が間違っているとは思えなかった。



(いったいどういう事だ?このPとやらを集めれば解放される?外に出られるという事なのか?待てよ、そういえばさっきの放送は「遊戯」が終了したとか言っていたな)



必死に頭を回しながら玲乃は考え込み、ここで彼は電子手帳に指を触れる。すると画面が切り替わり、今度は別の説明文が表示された。



――――――――――


規則ルール


・遊戯の制限時間は1時間です


・学園の外に出る事は許されません


・学園内に存在する道具の使用は許可


・学園外から持ち出した道具の類の使用は不可、但し日用品の場合は除きます


・初参加者の場合は特別に100Pを進呈します


・遊戯に出現する討伐対象が死亡した時点で参加者側の勝利です。その場合は遊戯に参加している全員に討伐対象に指定された「怪異」のPが分配されます。また、討伐対象を撃破した参加者には討伐ボーナスも加算されます。


・遊戯で入手したPは学校内の購買に存在する自販機では使用できます


・自販機には様々な#道具__アイテム__#を購入する事が出来ますが、使用できるのは遊戯の間だけです


・購入した道具は次の遊戯に持ち込む事は出来ませんのでご注意ください。また、道具を使用できる権利を持つのは購入者のみです。他の人間が購入した道具は使用できません


・遊戯終了後に残っているPは金銭にも変換できます。単価は「1P」につき「1万円」となります


・10000Pまで貯めた場合、この遊戯から解放されます



――――――――――



表示された内容を見て玲乃は愕然とした表情を浮かべ、色々と突っ込みどころはあるが、彼が最初に気になったのは一番最後の文章だった。内容が「10000PまでPを貯めた場合、この遊戯から解放されます」という文章を見て玲乃は先ほどの女子生徒の事を思い出す。



「まさか、そういう事なのか……!?」



玲乃は先ほどの女子生徒の言葉の意味を知り、彼女はこの「遊戯」とやらから抜け出すために戦っていたのだ。恐らく、彼女が所持していた拳銃のような武器も説明文に表示されている「道具」の一つなのだろう。そして画面に表示されている説明文の中には「討伐対象」という文字を見て先ほどの化物の事を玲乃は思い出す。


説明文を呼んで玲乃は自分の状況を何となく理解し、理由は不明ではあるが現在の玲乃は「遊戯」とやらに強制的に参加させられ、先ほどの「怪異」と呼ばれる化物と戦わされたらしい。そして怪異を倒せば「P」が手に入り、遊戯から解放されるには「10000P」まで貯めなければならないらしい。



「ははっ……つまり、さっきの奴は俺を殺して怪異を倒した時のPが分配がされないようにしたのか。つまり、あいつは自分が自由になるために俺の事を殺そうとしたのか……くそっ」



先ほどの女子生徒の行動の意図を読み取った玲乃は自分が本当に殺されかけた事を知って憤るが、ここで最初に電子手帳に表示された画面を思い出す。画面には確かに「生存者:1人」と表示されていたはずであり、慌てて玲乃は画面に触れると、先ほどの画面へ戻る。



「生存者が1人……ど、どういう事だ?じゃあ、さっきの女は……死んだのか?」



先ほどの放送によると「討伐対象」である「怪異」は死亡したらしいが、何故か玲乃を襲った女子生徒の方も死亡してしまったらしく、この遊戯に参加している玲乃だけがPを独り占めした事になる。だが、それは同時に玲乃だけがこの「遊戯」に取り残された事を意味した。



「嘘だろ……」



玲乃は電子手帳を落とし、その場に崩れ落ちる。どうして自分がこんな目に遭わなければならないのかと嘆いた途端、唐突にスピーカーから放送音が鳴り響いた。





『これより遊戯を完全終了とさせていただきます。次回の遊戯もお楽しみください』





その放送の直後、突如として廊下内にガスが流れ込み、玲乃の意識は奪われた――

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