第4話 女子生徒
「えっ……?」
「があっ……!?」
唐突に開いた扉に玲乃と犬男は同時に振り返ると、そこには一人の女子生徒が立っていた。玲乃よりも小柄ではあるが、上靴の色合いから三年生だと知る。その女子生徒は教室内に存在する玲乃と犬男の姿を見て一瞬だけ驚いた表情を浮かべるが、すぐに犬男に視線を戻して呟く。
「ここにいたのね……化物」
「うがぁあっ!!」
「あっ!?」
化物という言葉に犬男は反応したのか、玲乃よりも小柄な女子生徒の方を標的に変更して飛び掛かろうとした。それを見た玲乃は咄嗟に止めようとしたが、その前に女子生徒は腰に手を伸ばすと、普通の高校生ならば持ち合わせるはずがない武器を取り出す。
女子生徒が引き抜いたのは全体が白色に染まった「拳銃」だった。但し、その外見はまるで玩具を想像させ、普通の拳銃よりも銃口が大きい。野球ボールでも入り込めそうな大きな銃口の拳銃を取り出した女子生徒は構えると、自分に飛び掛かってきた犬男の顔面に向けて引き金を引く。
「くたばりなさい!!」
「ふがぁっ……!?」
教室内に発砲音が鳴り響き、犬男の眉間に強烈な衝撃が走り、顔面を陥没した状態で倒れ込む。その様子を見た玲乃は目を見開き、一方で女子生徒の方は倒れた犬男に視線を向け、拳銃を捨てる。
倒れた犬男はぴくりとも動かず、その様子を見下ろした女子生徒は冷や汗を流しながらも荒い息を吐き出し、自分の身体を両腕で抱きしめるように反対の肩に手を伸ばす。そんな彼女の姿を見て玲乃は気分が悪いのかと心配したが、女子生徒は突如として笑い声をあげた。
「あ、あははははっ!!終わった、終わったのよ……これで、ポイントは集まった!!」
「えっ、あの……」
「ああ、やっと……解放されるわ。これで、本当に終わりなのね」
女子生徒はひとしきり笑い声をあげると、力が抜けた様に床に膝を付く。その様子を見て心配した玲乃は声を掛けようとした時、彼女は何かに気付いたように玲乃に視線を向けた。
「待って、ちょっと待って……そうよ、まだ終わってないわ」
「あ、あの……何の話ですか?」
「……何でこんな時に限って、あんたいるのよ!!」
「えっ!?」
女子生徒は何かを思い出したように怒りの剣幕を浮かべると、堕ちていた拳銃を拾い上げる。その女子生徒の行動を見て玲乃は危機感を抱き、咄嗟に逃げ出そうとしたが女子生徒は先に拳銃を構える。
「あんたさえ、あんたさえいなければ……ポイントが分散される事もない!!これであたしは解放されるのよ!!」
「ちょ、ちょっと……話を聞いてくれ!?」
「うるさい!!」
拳銃を構えた女子生徒は玲乃に向けて引き金を引く。それを確認した玲乃は咄嗟に腕で顔を庇うが、予想に反して銃口から何も発射されず、それに気づいた女子生徒は舌打ちを行う。
「くっ……これだから単発式は!!」
「単発式?」
「うるさい、こうなったら直接殺してやるわ!!」
「うわっ!?」
癇癪を起したように女子生徒は拳銃を投げ捨てると、彼女は懐からナイフを取り出す。ナイフを構えた女子生徒は怪我を負った玲乃に近寄り、逃がさないようにじりじりと距離を詰めていく。
玲乃は女子生徒が自分を本気で殺そうとしている事を理解すると、咄嗟に教室の窓に視線を向ける。すぐに玲乃は外へ逃げようと窓に手を伸ばすが、どういう事なのか鍵を開いても窓が固定されたかのように開かない。
「なっ!?くそ、どうして……このっ!!」
「……無駄よ、遊戯の最中はこの校舎の外に抜ける事は出来ないの。貴方、そんな事も知らずに参加していたの?」
「遊戯……!?」
「まあ、もう死ぬんだから説明する必要もないわね。ごめんなさい……でも、私はどうしても生き残らないといけないのよ!!」
「うわっ!?」
女子生徒はナイフを構えて玲乃に接近し、刃を突き刺そうとしてきた。そんな女子生徒の行動に玲乃は本気の殺意を感じ、このままでは殺されると考えた玲乃は咄嗟に犬男に噛みつかれた左腕に気付く。
「ち、近づくなっ!!」
「きゃあっ!?」
右手で血が流れるのを抑えて左腕を振り払い、傷口から血を噴出して女子生徒の顔に振りかける。結果的には女子生徒は視力を奪われ、咄嗟に顔を抑えてナイフを手放してしまう。その間に玲乃は女子生徒から逃げようとすると、足元に落ちているナイフに気付く。
このナイフを回収すれば女子生徒に対抗できるのではないかと考えた玲乃は咄嗟にナイフに手を伸ばすと、静電気が発生したかの様に腕を弾かれてしまう。
「うわっ!?」
「くっ……何処、何処にいるのよ!?」
拾い上げようとしたナイフに弾かれた事に玲乃は驚き、その声を頼りに女子生徒は目元を抑えながらも顔を向ける。その様子を見て玲乃は慌てて教室の外へと飛び出す。
「くそっ……!!」
「ま、待ちなさい!!逃がさ……きゃあっ!?」
走り去る足音を耳にした女子生徒は無理やりに顔にこびり付いた血液を腕で拭うと、玲乃を追いかけようとする。しかし、途中で足元に何かが引っかかって転んでしまう。
床に倒れ込んだ女子生徒は表情を歪ませながらも自分が踏んだ物を確認しようとした時、すぐに足元に違和感に気付く。いつの間にか自分の右足に何かが掴んでいる事に気付き、彼女は顔を向けると、そこには顔面が陥没した状態で口元を開いた犬男の姿があった。
「あ、がぁあああっ!!」
「なっ、なんで……いやっ、離してっ!?なんで生きてるのよ、離せっ……離しなさいっ!?」
自分の足首を掴んでいるのが犬男だと気づいた女子生徒は必死に腕を動かし、先ほど玲乃が回収をし損ねたナイフに手を伸ばす。だが、その前に半死半生の犬男が女子生徒の身体を押し倒し、彼女の首筋に牙を向けた。
――あぁああああああっ……!!
教室内に悲鳴が響き渡り、それは女性生徒の声なのか、それとも犬男の声が上げた声か、はたまた両方の声なのか、教室から逃げ去った玲乃に確かめる術はない。この数秒後、教室内に血の水たまりに沈む女子生徒と犬男の「死体」だけが取り残されていた――
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