第3話 教室内の死闘
「くそっ、何なんだ!?」
「うぉんっ!!」
「うわっ!?」
階段を降りた玲乃は廊下を駆け抜け、昇降口に向かおうとした。だが、すぐに背後から鳴き声を耳にして咄嗟に頭を下げる。結果的にはそれが功を奏して玲乃の頭上を「犬男」は通り過ぎる。
勢いあまって犬男は壁に衝突し、頭からぶつかったので怯んだように廊下に倒れ込む。それを確認した玲乃は咄嗟に近くの教室に気付き、扉を開いて中に閉じこもる。すぐに鍵を掛けようとしたが、学校内の全ての扉には手動で鍵を掛ける事は出来ず、扉の傍に存在するモニターを作動させる必要があった。
『がああっ!!』
「うわっ!?くそっ……入ってくるな!!」
扉の外側から強烈な衝撃が走り、どうやら外から犬男が体当たりを仕掛けてきたらしい。咄嗟に玲乃は扉が開かないように抑えつけるが、犬男は外側の扉に爪を立てているのかガリガリと音を鳴らしながら扉を開こうとする。その力の強さは尋常ではなく、玲乃の腕力では抑えきれずに扉に隙間が出来て犬男は片腕を差し込む。
「うがぁっ!!」
「くそっ……入ってくるな!!」
「ぎゃんっ!?」
扉を開いて入ってきた腕に咄嗟に玲乃は何度も蹴りつけると、犬男は悲鳴を漏らす。だが、すぐに教室内に入り込んだ腕を動かすと、逆に玲乃の足を掴みかかる。
「があああっ!!」
「うわっ!?くそ、放せっ!?」
足首に掴んできた犬男に対して玲乃は必死に引き剥がそうとすると、体勢を崩して扉から手を離してしまい、しりもちをつく。その隙を逃さずに犬男は扉の隙間に身体をねじ込み、遂に上半身が中に入り込む。
「あがぁああっ!!」
「うわぁあっ!?」
人間の歯とは思えないほどに鋭利な「牙」を剥き出しにした犬男は掴んだ玲乃の足に噛みつこうとした。そんな犬男の行動に咄嗟に玲乃は自分の鞄を掴み、顔面に叩きつける。
「離れろぉっ!!」
「ふがぁっ!?」
犬男は顔面に鞄を押し込まれたせいで口元を塞がれ、一瞬の隙を突いて玲乃は足首を掴む腕の力が緩んだ事に気付き、武鎗に引き剥がす。その際に上靴が脱げてしまったが、そんな事を気にする余裕もなく玲乃は後退る。
鞄に牙が食い込んでしまったのか犬男は必死に両手を使って引き剥がそうとするが、その前に玲乃は武器になりそうな物を探す。そして教室内に存在するロッカーに視線を向け、全ての教室に保管されているはずの掃除用具を思い出す。
(あれだ!!)
掃除用具の中にはモップや放棄が存在するはずであり、それを武器に使えると判断した玲乃は身体をもたつかせながらもロッカーの方へ向かう。遅れて犬男も玲乃の鞄を口から引き剥がし、彼がロッカーに手を伸ばした姿を見て飛び掛かろうとした。
「があああっ!!」
「うわっ!?」
「あがぁっ!?」
間一髪で玲乃がロッカーを開いた瞬間、犬男が飛び掛かってきた事で開け放たれたロッカーの扉に犬男は顔面を衝突してしまう。ロッカーの扉が凹むほどの衝撃で突っ込んだせいで犬男は鼻血を噴き出すが、一方で玲乃の方も犬男が突っ込んできたときに吹き飛んでしまう。
互いに教室の床に倒れてしまい、玲乃は頭を抑えながらも起き上がろうとすると、犬男が身体をふらつかせながらも玲乃の上靴が脱げた足の方を抑え込む。
「あ、がぁっ……!!」
「くそっ……しつこいんだよ!?」
いい加減に自分を襲ってくる犬男に玲乃は苛立ちを抱き、掴まれた方とは反対の足を突き出して犬男の顔面を蹴り込む。先ほど頭をぶつけたばかりの状態で顔面に衝撃を受けた犬男は怯み、その様子を見て玲乃は近くの椅子を掴む。
「この野郎っ!!」
「ぎゃいんっ!?」
椅子を掴んだ玲乃はどうにか引き寄せると、犬男に目掛けて叩き込む。その結果、犬男は悲鳴を上げて玲乃の足を手放し、顔を庇う。度重なる顔面への衝撃でどうやら過敏に反応したらしく、それを確認した玲乃は椅子を掴んだ状態で立ち上がる。
犬男が怯んでる隙に玲乃は椅子を何度も犬男に叩きつけ、半ば自棄になりながらも犬男の頭部に目掛けて椅子を振り下ろす。ここで目の前の得体のしれない存在を何とかしなければ自分が殺されると判断した玲乃は無我夢中に椅子を叩きつけた。
「このっ、このっ……このぉっ!!」
「ぎゃんっ!?あ、がぁっ……!?」
「はあっ、はっ……」
10回ほど椅子を叩きつけると犬男が大人しくなり、その様子を見て玲乃は攻撃を中断した。痛々しい表情を浮かべる犬男に対して同情したというよりは単純に体力を消耗し、身体を休めてしまう。しかし、その一瞬の隙を突いて犬男は目を見開くと、玲乃に飛び掛かる。
「うがぁっ!?」
「うわっ!?」
体力を使い果たして油断した玲乃に犬男は飛び込み、頭から血を流しながらも玲乃が掴んでいた椅子を弾き飛ばし、玲乃の身体を床に押し倒す。背中を強打した事で玲乃は苦痛の表情を浮かべるが、そんな彼の首筋に犬男は喰らいつこうとした。
「があああッ!!」
「くっ……そぉっ!!」
玲乃は咄嗟に左腕で顔を庇うと、犬男の牙が腕に食い込む。まるで大型の肉食獣に噛みつかれたかの如く、恐ろしい咬筋力で腕が噛みつかれ、声にならない悲鳴を上げる。あまりの噛みつきの強さに玲乃は涙を流し、噛みつかれた腕に血が滲む。
犬男は玲乃の腕を噛み千切る勢いで牙を食い込ませ、学生服に血が滲む。このままでは腕が食われてしまうのは玲乃も理解していたが、力は犬男の方が強いので引き剥がせず、もう駄目かと思われた時に玲乃はある事に気付く。
(そうだ、これなら……!!)
ポケットに入っていた学生手帳を思い出した玲乃は右手で掴んで取り出すと、スマートフォンの同程度の大きさの電子手帳を利用し、鈍器の代わりに使用して犬男のこめかみに叩き込む。丁度角の部分に衝突し、予想外の反撃を受けた犬男は玲乃に噛みついていた腕から牙を引き抜き、地面に倒れた。
「ぎゃうっ!?」
「ぐうっ……このぉっ!!」
「ぐげぇっ!?」
玲乃は左腕を抑えながらも起き上がり、犬男を蹴り飛ばす。だが、大した損傷は与えられなかったらしく、身体をふらつかせながらも四つん這いの状態で玲乃と向き合う。お互いに睨み合い、隙を伺う。
左腕の負傷は激しく、正直に言えば今にも気絶しそうな程に玲乃の意識は混濁していた。それでも玲乃は犬男から目を離さず、近くの席の椅子に手を伸ばす。その様子を見て犬男は危険を察知したように玲乃に飛び掛かろうとした瞬間、教室の扉が外側から開け開かれた。
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