第2話 校舎の異変
「あれ……なんで扉が開いてるんだ?いつもならこの時間帯なら自動的に閉まっているはずなのに」
玲乃は二階に存在する自分の教室に辿り着くと、扉に鍵が掛かっていない事に驚く。普段ならば7時を迎えると自動的に鍵が掛かってしまい、中に入る事は出来ない。荷物を取りに来た玲乃にとっては都合がいいのだが、普通ならば教師に相談して開けてもらう以外に扉を開ける方法はない。
この学園では全ての教室が夜の時刻を迎えると自動的に鍵が掛かるようになっており、朝の6時を迎えると自動的に鍵が開く仕組みになっている。窓の類は流石に自動ではなく、人力で鍵を施す必要があるのだが、今回の場合は既に時刻が夜の9時を迎えているのに扉が開いた事に玲乃は戸惑う。
(廊下側の窓の扉が開いてれば中に入れるかなと思ったけど……まあ、別に扉から入れるならいいか)
不思議に思いながらも自分の「1-A」の教室に戻ってきた玲乃は中に入ると、真っ先に自分の席に移動して荷物の回収を行う。自分の鞄を手にした玲乃は外の様子を確認しようと窓に近付き、外の様子を伺う。今夜は満月なので大分明るく、グラウンドの様子も確認できた。
(流石にこの時間帯だと運動部の奴等もいないか……あれ?でも、陽奈の奴は野球部は大会が近いから9時まで部活をやっているといってたよな)
玲乃は自分のクラスメイトで幼馴染でもある「皆川
最も時間帯が遅いので運動部の生徒も既に帰ってしまった可能性も十分に有り得ると考えた玲乃はこれからの事を悩む。一応は先に校舎の昇降口に向かい、扉に鍵が掛かっているのかを確かめるべきか、それとも職員室にいるはずの学校の教師か、あるいは校舎の見回りを行う警備員に先に話をするべきか悩む。
(先生に見つかったら色々と面倒そうだよな……こんな時間帯までどうして残っていたのか質問されそうだし、あっ……その前に図書室に鍵を掛ける時に学生手帳を使ったから、履歴が残ってるよな。仕方ない、職員室に向かおう)
校舎から抜け出すだけなら適当な場所で窓を開いて外へ抜け出し、こっそりと抜け出す事ができないかと考えた玲乃だが、既に彼は図書室に鍵を掛けるときに学生手帳を使用している。
生徒の場合は図書室の鍵を閉めた場合は履歴が送信され、学校側に伝わる。なので玲乃がこっそりと抜け出したところで履歴を確認されれば彼が夜遅くまで校舎に残っていた事は知れ渡ってしまう。
(うちの担任、規律に厳しいからな……きっと怒られるだろうな。いや、正直に言えば許してくれるかな?でも、脚立が倒れて気絶していたなんて理由で納得してくれるかな)
玲乃はため息を吐きながら教室を出て職員室に向かおうとした時、ここで外側の廊下の方から足音を耳にする。誰かが走っているのか、随分と慌ただしい足音だと違和感を抱いた玲乃は扉の前に立ち止まる。
(誰だ?俺以外に生徒が残っていたのか?)
自分以外にも他に学校に残っていた生徒がいたのかと玲乃は教室の窓から廊下を覗き込もうとした時、高速で何かが横切る光景を目にした。あまりにも移動速度が素早く、はっきりと姿を捉え切れなかったのだが、一瞬見えたのは廊下を走り抜けた影は四足歩行で移動しているように見えた。
教室の扉の前にて玲乃は自分が何を見たのか理解できず、冷や汗を流す。先ほどの影は明らかに人間が全力疾走した所で引き出せる速度ではなく、しかも四足歩行で移動していた。最初は校内に大きな犬のような動物でも入り込んだのかと玲乃は思ったが、それにしては足音が不自然に聞こえた。
「な、何だ、今の……?」
玲乃は恐る恐る教室の扉を開き、廊下の様子を確認する。だが、足音の主は既に消えてしまい、姿は見えなかった。最初は見間違いかと思った玲乃だが、すぐに地面に視線を向けて目を見開く。
「何だよ……これっ!?」
――廊下には黒く汚れた「手跡」と「足跡」が残っており、誰かが廊下を四つん這いの状態で駆け抜けたかのように延々と奥の方に続いていた。それを確認した玲乃はあまりの不気味さに声を抑えきれず、驚きのあまりに後退ってしまう。
先ほど、自分が教室の窓から見かけた「人影」の正体の仕業かと考えた玲乃は頭を抑え、自分の目がおかしくなったのかと思った。だが、いくら見直そうと廊下に広がる手跡と足跡は消えず、玲乃は訳が分からずに後退る。
「いったい何が……!?」
状況を理解できないまま、異様な恐怖に駆られた玲乃は玄関口に向かおうと決めた。鍵が開いていない可能性が高い。だが、それでも職員室に向かう事や警備員を探すよりも少しでも学校の外に抜け出せる可能性があるのならばと玲乃は離れようとした。
しかし、ここで玲乃の耳に先ほどの奇怪な足音が微かに聞こえてきた。足音は徐々に近づいているのか大きくなり、すぐに玲乃は廊下の奥に視線を向けると、そこには先ほどまでは存在しなかったはずの人影を確認する。
――最初に廊下の奥から現れた足音の「主」を確認した瞬間、玲乃が頭に思い抱いた言葉は「犬」と「人間」の二つの文字だった。玲乃の視界には窓から差し込む月の光によって照らされた犬の様に四つん這いの状態の人間の姿を捉えた。
その「男」は玲乃の姿を確認すると動きを止め、彼を観察するように視線を向ける。まるで本物の犬の様に両手と両足を地に付け、だらしなく口元を開けて舌を伸ばす。その行動は正に犬その物だが、明らかに普通の人間ではなかった。
まず、男の全身は異常なまでに血管が膨れ上がり、両目に至っては充血して真っ赤に染まっていた。更に男は衣服の類は身に付けておらず、腰の方に汚いボロ雑巾のような布を巻いているだけの状態であり、首元には銀色に光り輝く首輪のような物だけを装着していた。年齢は玲乃とそれほど変わらないと思われるが、まるで本物の犬の様な鳴き声を上げて玲乃に向けて駆け出す。
自分に向けて駆け出してきた「犬男」の姿を見た瞬間、玲乃は反射的に廊下を駆け抜けて逃走する。頭脳よりも肉体の方が相手の危険性を感じ取り、身体が勝手に動き出していた。
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