第859話 新しい魔導武器

「メティスはどう思う?」

『黒武者とダークウルフを倒せるのであれば、<清神光>を付与する魔法を創って公開するべきだと思います』


「その理由は?」

『黒武者はともかく、ダークウルフは影に隠れて地上に現れる恐れがあります。ダンジョン内で速やかに始末するべきです』


 アリサが頷いた。

「私もメティスの意見に賛成よ。モーリタニアのように多数の一般人が犠牲になるような事態は、避けるべきじゃないかしら」


「分かった。新しい魔法を創って魔法庁に登録しよう」

 俺は早速賢者システムを立ち上げ、『ブルーペネトレイト』を基に<清神光>を付与する魔法を創り上げた。


 三キロまでの蒼銀または朱鋼を高温で融かしてD粒子を練り込み、<清神光>を付与する魔法である。その後、融けた朱鋼を型に流し込んで剣を作るか、温度を下げてから金属の塊にして鍛造するかはそれぞれで決めれば良い。


 鍛造する方が頑丈になるような気がするが、元々朱鋼は重く頑丈な金属なので鋳造の武器でも立派な魔導武器になると思う。


 この魔法に使った特性はD粒子一次変異の<放熱>とD粒子二次変異の<清神光>だけである。『魔法構造化理論』を使って構造をコンパクトにした御蔭で、これを習得できる魔法レベルは『10』に抑えられた。


 『ブルーペネトレイト』も習得できる魔法レベルが『10』だったのだが、新しい魔法では金属を三キロまで処理できるように増やし、朱鋼も処理できるようにしているので機能がレベルアップしている。それなのに同じ『10』になったのは、『魔法構造化理論』の効果が大きいのだろう。


 俺は実際に魔導武器ができるか試す事にした。ただ俺だけでは、武器を作れないので刀鍛冶の吉祥寺に協力してもらう事にした。


 数日後、吉祥寺の工房へ行った俺は一緒に刀作りを始めた。と言っても、俺ができるのは最初の作業だけである。魔法を使って朱鋼二キロを融かしてD粒子を練り込み、<清神光>を付与する。


 その金属の塊を刀の形にするのが、吉祥寺の仕事である。役目を終えた俺は一時間ほど吉祥寺の作業を見学していたが、その後は挨拶して帰った。


 朱鋼刀が完成したのは二週間後だった。

「グリム先生、ご希望の刀になったと思います」

 そう言って、屋敷に訪れた吉祥寺が白鞘に収められた朱鋼刀を俺に渡した。鞘から刀を抜くと、血のように朱い刀身を持つ刀が姿を現した。


 普通の日本刀よりは重いが、魔装魔法使いが扱うのだから問題ないだろう。そして、陽光を浴びて怪しく輝く刀身はゾッとするほどのつやがあった。それだけなら妖刀の類かと思うだろうが、刀身から神聖な気配のようなものが放たれていて聖剣のようにも感じた。


 朱鋼刀を持ったまま庭に出た俺は、両手で構えて素振りをする。二キロほどあるはずなのに重く感じなかった。バランスが良いのだろう。それに風切り音が違うと感じた。


「まるで、風を斬っているようだ」

 俺は朱鋼刀に魔力を流し込んで素振りをしてみた。魔力が清神光に変わり刀身を包み込んで輝きを放ちながら振り下ろされる。朱鋼刀は腰のところでピタリと止まったのだが、清神光が刀身の形を保ったまま地面を切り裂いた。


「えっ」

 俺自身が驚いた。横で見ていた吉祥寺も驚いているようだ。朱鋼刀にそんな機能はないはずなのだ。朱鋼に付与された<清神光>が吉祥寺の技術で日本刀という形を与えられ、進化したのだろうか?


「吉祥寺さん、ありがとうございます。予想以上の刀です」

「そう言ってくれて嬉しいよ」

 まだ白鞘だが、もう少しすればちゃんとした鞘や柄になるらしい。俺は新しい魔法を『ホーリーメタル』と名付けた。


 吉祥寺が本格的な刀に仕上げるために朱鋼刀を持ち帰った後、俺は悩み始めた。

「どうかしたの?」

 その様子を見ていたアリサが尋ねる。

「吉祥寺さんが作った刀の出来が、良すぎるんだ」

「優秀な魔導武器になるのなら、いいんじゃないの?」


「『ホーリーメタル』を魔法庁に登録する時に、参考として提出しようとか思っていたんだけど、『ホーリーメタル』で作った金属を使えば、あんな刀が出来ると思われても困る」


 あの朱鋼刀は吉祥寺の技術があったからこそ出来たのだ。俺はもう一本鋳造剣を工場で作ってもらう事にした。その鋳造剣が出来上がってから、魔法庁の松本長官に会いに行った。


 東京にある魔法庁の庁舎で、松本長官と会った。

「今日は、何の御用でしょう?」

 俺は『ホーリーメタル』の登録書類を取り出した。

「新しい魔法を登録しますので、速やかに世界中に公開して欲しいのです」


 松本長官が不思議そうな顔をする。

「何か特別な魔法なのですか?」

「ええ、朱鋼と蒼銀に<清神光>という特性を付与する魔法です。この魔法を使って<清神光>を付与された金属で武器を作ると、邪卒にダメージを与える武器になるのです」


 実際には試していないが、『心眼』の躬業で鋳造剣を解析すると邪卒のバリアを破壊できるという結果が出た。邪卒に当てさえすれば、間違いなくダメージを与えられるだろう。


「ほ、本当ですか?」

 松本長官が身を乗り出して確認した。

「本当です。これが<清神光>を付与された朱鋼で作った刀と剣になります」

 工場で作った鋳造剣と吉祥寺が完成させた朱鋼刀をテーブルの上に並べた。


 松本長官は朱鋼刀を手に持って抜いた。その朱い刀身をジッと見てブルッと身震いする。

「これは業物わざものですね」

「ええ、トップクラスの刀鍛冶である吉祥寺さんに作ってもらいました。ただ世界各国で、これほどの業物を作るのは無理でしょうから、標準となるのはこちらの鋳造剣になります」


 松本長官は鋳造剣も抜いて確かめた。

「この剣からも力を感じるが、朱鋼刀に比べると見劣りがするね。だが、大量に生産するとなると、こちらの鋳造剣になるのだろう」


 俺はサンプルとして鋳造剣だけを松本長官に渡した。魔法庁は『ホーリーメタル』を登録すると、世界各国の魔法庁に邪卒や邪神眷属に有効な武器が作れる魔法だという事を知らせた。


 その結果、フランスの賢者エミリアンやアメリカのステイシーから、話が聞きたいという連絡が来た。たぶんどうやって特性を金属に付与するのか知りたいのだろう。


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