第858話 魔装魔法使いの活用

 その場所は迷路の中の部屋だった。バスケットボールのコートほどの広さがあり、中央に二本の柱が立っている。直径八十センチほどの石の柱には、何かの彫刻が施されていた。


 その部屋の入り口は柱の近くにあり、柱の左側に遭難者たちとアーマードウルフが居る。根津は影から為五郎を出した。


「まずはアーマードウルフを片付けなきゃなりません。僕と為五郎で戦いますので、その間に遭難者を助けてください」


 金石が少し不満そうな顔をする。

「我々がアーマードウルフと戦っているうちに、根津たちが遭難者を助ける方がいいんじゃねえか?」

 根津は金石たちの実力を考慮し、アーマードウルフ四匹は荷が重いだろうと考えて提案したのだ。考えを変えるつもりはなかった。


「これはC級冒険者としての判断です。従ってください」

 根津が言うと金石が唇を噛み締めた。だが、残りの二人はそう判断した理由を理解して承知した。たぶん金石も分かっているが、つい見栄を張って逆の提案をしたのだろう。


「それじゃあ、行こうか」

 根津は雷神剣を手に持って『アブソーブシールド』を発動し、アーマードウルフ目掛けて走り出す。その後ろには為五郎の姿があった。


 アーマードウルフは根津たちに気付くと走り出した。二匹が根津を相手と決め、もう二匹は為五郎を敵と認定したようだ。


 根津に走り寄った二匹のアーマードウルフは同時に飛び掛かってきた。『クラッシュソード』を発動した根津は、空間振動ブレードを左側のアーマードウルフに向けて振り下ろす。その一撃でアーマードウルフの頭が真っ二つに切断された。


 もう一匹は根津から一メートルの距離まで迫っていたが、その前方に自動防御のD粒子赤色シールドが回り込んでアーマードウルフを受け止めた。根津はそのアーマードウルフに向かって五重起動の『ライトニングショット』を発動し、D粒子放電パイルを叩き付ける。


 強力な推進力で撥ね飛ばされたアーマードウルフは壁に叩きつけられ、その上に電撃を食らう。そのアーマードウルフは死ななかったが、半死半生でふらふらしていた。そこに駆け寄った根津が雷神剣で首を刎ねた。


 根津が為五郎の方を見ると、襲い掛かってきた二匹のアーマードウルフを瞬殺し、根津を見守っていたようだ。


「アーマードウルフ二匹を瞬殺だって……あれは根津じゃない」

 金石は遭難者の救助を仲間に任せ、根津の戦いを見守っていたらしい。

「間違いなく、昔一緒にチームを組んでいた根津だよ」

「現在の根津があまりにも違いすぎるんだ。昔の根津なら、アーマードウルフから逃げ回っていたはずだ」


 確かにそうかもしれないと根津は思った。あの頃の根津は、悲しくなるほど未熟だったのだ。魔石を回収した後、遭難者のところへ行った。彼らはまだ檻を壊そうとしていた。


「壊せないんですか?」

 根津が尋ねると、金石の仲間の一人が頷いた。その檻は何かの金属で出来ており、魔装魔法使いたちが持っている武器では壊せなかったようだ。


 檻は金属の棒を組み合わせて作られており、見るからに頑丈そうだった。根津が檻を観察してから提案した。


「生活魔法で壊せないか、試してみますので下がってください」

 檻の中の冒険者たちを下がらせた後、根津は『クラッシュソード』を発動し、空間振動ブレードで檻を切った。幸いにも檻が切れたので、何度か『クラッシュソード』を発動して出口を作る。


 檻から冒険者たちが出て来ると、根津に礼を言った。根津たちは急いで地上に戻り、冒険者ギルドに報告。無事に遭難者を救い出した事で、根津の実績として記録されたようだ。


 その後、実家で暮らしながら為五郎と一緒に七宝ダンジョンで狩りをした。ただ七宝ダンジョンは中級なので、遭遇する魔物が弱い。やはり近くに上級ダンジョンがある渋紙市は便利だと根津は思った。渋紙市に戻った根津は為五郎をグリムに返し、京都での成果を報告した。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 根津の報告を聞いた後、冒険者ギルドへ頼んでいた特性の巻物探しが終わり、グリムの下に三十二本の巻物が届けられた。それらを鑑定すると、ほとんどがすでに持っている特性と同じものだった。


 但し、<貫穿><堅牢><反発(水)><ベクトル加速><手順制御><衝撃吸収><光盾>の七つは、モイラが持っていなかったので、モイラに渡した。これでモイラが創れる魔法の範囲が広がるだろう。


 特性の巻物全てを鑑定すると新しい特性が二つだけ発見された。一つは<不可侵>で、これがあれば強力な防御用の魔法を創れる。


 そして、もう一つは<清神光>という特性だった。これはD粒子一次変異の<聖光>に似ており、邪悪なものをしりぞける光を放つD粒子二次変異の特性だった。


「これで破邪の魔導武器を作って売ったら、邪卒対策になるかな?」

 俺の呟きを聞いていたアリサが頷いた。

「各国はその魔導武器を魔装魔法使いに持たせて邪卒と戦わせると思うわ。でも、そんな事をすると注文が殺到しそうね」

「ああ、そうなるだろうな」


 邪卒と邪神眷属の騒ぎが終わるまで、破邪の魔導武器を作り続けるような状況になるのは嫌だ。

「それじゃあ、『ブルーペネトレイト』のように、<清神光>を金属に付与する魔法を創ったら」


 『ブルーペネトレイト』というのは、蒼銀五百グラムにD粒子を練り込み、<貫穿>の特性を付与する魔法である。それをやじりにしてワイバーン狩りに使っている。


「金属に特性を付与する魔法は、一つしか特性を付与できないという制限があるからな」

 ちなみに、俺が金属に特性を付与する時は、賢者システムの力を借りているので複数の特性を付与できる。


「<清神光>が一つだけだと、邪卒には通用しない?」

「いや、黒武者やダークウルフなら倒せると思う。でも、それら以上に防御力が高い邪卒が出てきたら、通用しないだろう。中途半端な武器を作る事になる」


 但し、黒武者も倒せると言ったが、黒武者を上回る戦闘技術を持っていないと勝てないだろう。


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