第847話 煌輝聖光

 翻訳するために『煌輝聖光の発生原理』を預かった。

「師範、これを賢者たちに公開していいですか?」

「これが邪卒や邪神眷属の対策として使えるのなら、自由に使ってくれ」

「ありがとうございます、これは他の賢者も使えそうですから、対策が進むと思います」

 もちろん、三橋師範には対価を支払うつもりである。 


 三橋師範とシュンが帰ると、俺は作業部屋に行って夕陽を眺めた。

「メティス、ダークウルフの次は、どんな邪卒が現れると思う?」

『そうですね。ダークウルフはスピードが特徴的でしたので、次は頑丈なパワー型かもしれません』


 パワー型と聞いても、なぜかピンと感じるものがなかった。それでも準備しておかねばならないだろう。

「そうか、パワー型か。どんな魔法を用意すればいいんだ?」

『その前に『煌輝聖光の発生原理』を翻訳し、師範と約束した高速戦闘中に使える別の魔法を開発しなければなりません』


「そうだな。最初に『煌輝聖光の発生原理』を翻訳しよう」

 それからアリサとメティスに手伝ってもらい、翻訳の作業を終わらせた。結局、煌輝聖光というのは、『鬼神力鍛錬法』と同じように魔力を圧縮しながら高次元の魔力操作を行う事で煌輝聖光へ変換するものだった。


『煌輝聖光を使うには、また特性を創らなければならないようです』

「そのようだ。しかし、それにはもっと研究しないと」

 それから半月ほど研究し、自力で魔力を煌輝聖光へ変換できるようになった。それから苦痛に耐えながら<煌輝聖光>という特性を創り出す。


 そして、新しい魔法の開発が始まった。それは高速戦闘中に発動が可能なほどコンパクトで、一度発動すると数回に分けて攻撃できるものだ。


 それだけの機能をコンパクトに纏めるのは、何かを犠牲にするしかない。今回も射程を犠牲する事を選んだ。起動方法は『ホーリーキック』と同じにした。待機状態にして拳か掌を敵に叩き付けた場合に起動するようにした。


 拳または掌から撃ち出されるのは煌輝聖光ウェーブ、煌輝聖光を放射する魔力衝撃波である。その射程は七十センチほどと極めて短くなる。大型の魔物は仕留められないが、ダークウルフほどの邪卒なら仕留められるだろう。


『複数の攻撃という点はどうなったのです?』

「待機状態にできる煌輝聖光ウェーブは七発、連続で七回攻撃できる」

『『オートランチャー』は、五十発の聖光励起魔力弾を撃てるのに比べると少ないですね』

「今回は魔法レベルが『10』で習得できるほど、コンパクトにしたから仕方ない」


 コンパクトにするために特性も<煌輝聖光><爆轟><貫穿><ベクトル制御>の四つに絞り込んだ。


『なるほど、生活魔法の才能が『D』でも、習得できるようにしたのですね』

「ああ、邪卒と戦える冒険者の数を増やしたいんだ」


 取り敢えず新しい魔法が発動できる状態になったので、実際に試してみる事にした。鍛錬ダンジョンへ行くと三層の森へ向かった。その森の奥で影からエルモアと為五郎を出す。


 俺が新しい魔法を試している間、魔物を近付かせないというのがエルモアと為五郎の役目である。エルモアが光剣クルージーン、為五郎が雷鎚『ミョルニル』を持って警戒する。


 俺は直径五十センチほどの木の前に立ち、新しい魔法を発動すると幹に向かって掌打を叩き込んだ。幹を掌が叩いた瞬間、待機状態にあったD粒子が<煌輝聖光>と<貫穿>を付与した魔力に変換され、その魔力が<爆轟>と<ベクトル制御>の効果で前方に撃ち出されて煌輝聖光を放射する魔力衝撃波となる。


 撃ち出された煌輝聖光ウェーブは、煌輝聖光を放ちながら内部に浸透して木の細胞を破壊しながら幹を貫通する。俺は木の周囲を回りながら次々に幹を叩いた。六回叩いて煌輝聖光ウェーブが幹をボロボロに破壊する。耐えきれなくなった木がミシミシと音を立て始めたので、後ろに退避した。


 大きな音を響かせながら木が倒れる。

「後一回分残っているんだがな」

 俺がそのまま魔法を解除すると待機状態の煌輝聖光ウェーブが通常の魔力に還元されて霧散した。


 俺は倒れた木に近寄って折れた箇所を確かめた。折れ跡は大きな力で引き千切られたようにギザギザになっている。


「十分な威力だ。……後は実戦だな」


 それからオークを探して新しい魔法を試してみた。オークの胸に拳を叩き込むと、煌輝聖光ウェーブが胸を貫通して背中側から飛び出し、オークは血を吐き出しながら倒れて消えた。


『オーク程度なら、一撃ですね』

「あのオークには大きな傷口がなかったようだが、どういうダメージを与えているんだろう?」

『たぶん魔力衝撃波がオークの肉体に浸透しながら、煌輝聖光を放って細胞を破壊したのだと思います』


 後は実際に邪卒か邪神眷属を相手に試してみたいが、すぐに用意できる相手ではなかった。俺はバタリオンのメンバーに新しい魔法『ホーリーブロー』を習得させ、冒険者ギルドから依頼された時に試すようにお願いした。


 最近、バタリオンのメンバーに邪神眷属や邪卒の退治依頼が来るようになったので、少し待てば確かめられるだろう。


 この『ホーリーブロー』を習得した三橋師範はいろいろと試しているようだ。先日はアーマーベアを相手に接近戦をして『ホーリーブロー』で倒したと言っていた。普通なら巨大熊を相手に接近戦などしたくないのだが、三橋師範は恐怖心がないのだろうか?


 効果が確かめられたので魔法庁と相談したら、三橋師範の『煌輝聖光の発生原理』を魔法庁が買い上げ、世界の賢者に配布するという事になった。魔法庁としては『煌輝聖光の発生原理』で邪卒対策が進むのなら、十億単位の対価など安いものだと判断したようだ。


 その『煌輝聖光の発生原理』が賢者たちに配布されると各地の賢者から連絡が来た。俺の意見を聞きたいという事だった。それで『ホーリーブロー』の魔法を紹介し、いくつかのアイデアを話した。これで邪卒対策も進むだろう。


 三橋師範と約束した魔法が完成して一段落ついたので、一休みする事にした。働くばかりでは効率が落ちるからだ。


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