第830話 神への道

【お前は主の翼を斬る事に成功した。約束通り情報と変化を与えよう】

「その情報と変化というのは、何ですか?」

【情報は、邪神に関するものだ。そして、変化とはお前の身体に関するものだ】


「身体というのは?」

【お前は神に進化しようとせずに、『神威』や他の躬業を身に付けた。一つくらいなら問題なかったが、五つの躬業を身に付けた事で、精神の進化と身体の進化が不一致を起こしている。その不一致は後々様々な障害をもたらすだろう】


 それを聞いた俺は血の気が引くのを感じた。

「どうすればいいのです?」

【身体も進化させる事だ。そうすれば、子供も授かるだろう】


 子供が出来ないのは、俺が原因だったのか。アリサと結婚して一年後くらいから、子供の事は気になっていた。だが、授からないのも運命だと考えていた。


【褒美として、この仙丹を与える。精神と肉体を調和させ、生物として正常な状態にしてくれるだろう】

 烏天使がパチンコ玉くらいの丸薬のようなものを俺に渡してくれた。


「この仙丹を飲めば、肉体はどう変化するのです?」

【外見上の変化はない。ただ老化が遅くなり、ほとんどの病気に罹らないようになる】


 良いこと尽くめのように思えるが、それは俺が神に向かって進化するという事だ。俺は神なんかになりたくはなかった。俺がためらっていると、烏天使が言った。


【神になる事を選んだ者の中で、本当に神になれた者は、千人に一人ほどしかいない】

「他の者はどうなったのです?」

【神になる前に死んだ】


「それは仙丹を飲むと死ぬ事もある、という事ですか?」

【違う。仙丹は毒ではない。神になるには数千年の歳月が必要なのだ。その間に死ぬ事もあるという事だ】


 それを聞いて仙丹を飲む決心をした。仙丹を飲んでもすぐに神になる訳ではないと分かったからだ。そして、飲まないと子供が出来ない。


 俺は仙丹をマジックポーチⅧに仕舞った。アリサと相談してから最終結論を出す事にしたのだ。


「それで邪神に関する情報というのは、何です?」

【まず邪神ハスターを封印しているギャラルホルンを、修理する事は祖神様にしかできない】

 祖神というのは『摂理の支配者』の事らしい。


「寝ている祖神様を起こす事は、できないのですか?」

【無理だ。祖神様は我々が行けない場所で休んでおられる】

 この神域のような場所が他にもあるという事だろうか? ギャラルホルンが修理できないと、邪神が復活する事になる。


「邪神が復活した場合、代神様が邪神を倒すか封印できますか?」

【代神様の翼が再生するには時間が掛かる。不完全な状態の代神様だけでは無理だ】

「どうするのです?」

【そのためのダンジョンだ。邪神ハスターとの戦いには、ダンジョンで鍛えた優秀な戦士を連れて行く事になるだろう】


「しかし、邪神と戦えるほどの戦士となると、ほとんど居ません」

 烏天使が笑った。俺が何も理解していないという笑いのように感じた。

【時間が来たようだ。この邪神について書かれた本を与える】

 烏天使が俺に薄い本を渡した。その瞬間、俺の身体がふわりと浮くように感じて意識が遠くなる。


 次に気付いた時には、鍛錬ダンジョンの中に戻っていた。

『グリム先生、大丈夫ですか?』

 頭にメティスの声が響いた。俺は頭を振って意識をはっきりさせた。


「大丈夫だ。屋敷に戻ろう」

 俺とエルモアは屋敷に戻り、作業部屋に行って烏天使から聞いた話を思い出した。神域で起きた事をメティスに話す。


『代神様が、翼を失って万全な状態でないというのは、問題ですね』

「そうなんだ。今の状態では、邪神ハスターに勝てないのではないかと思う」

『それで戦力となる戦士を、ダンジョンで育てているという事ですか?』

「そうらしい」


『その戦士の中に、グリム先生も入っているのですね?』

「たぶん、そうだろう」

『拒否権はないのですか?』

「拒否できたとしても、そのために代神様が負けて邪神が地球を支配するような事になれば、最悪の結果となる」


 俺は烏天使から渡された邪神に関する本を開いた。本のタイトルは『邪神考察記』だ。中身は神殿文字で書かれており、ハスターが『混沌の化身』と呼ばれる邪神の息子として遠い星で生まれた事が書かれていた。


『ハスターはどの星で生まれたのでしょう?』

「それについては書かれていない。ただ『摂理の支配者』が管理している宙域から離れた宇宙にある星だったようだ」


『そうなると邪神ハスターは、侵略者という事になりますね』

「そうだ。その邪神ハスターだけど、侵略した星の環境を変えて自分の眷属を植民させるらしい」


『……最悪ですね』

「ああ、結果的には人類滅亡という事だろう」

『是が非でも、邪神ハスターは倒さなければならないのですね?』

「そういう事だ。……神の翼を斬った事で、神であろうとダメージを負わせられると分かった。但し、代神様が抵抗しない状態で攻撃したので、邪神にどこまで通用するかは未知数だ」


 俺が邪神について研究している頃、世界では邪卒の出現が増えていた。二ヶ月に一回だった邪卒の出現が一ヶ月に一回となり、現時点では二週間に一回ほどで世界のどこかに出現している。


 そんな世界で活躍しているのが、生活魔法使いだった。魔法レベルが『15』で習得できる『ホーリーファントム』を習得した世界の生活魔法使いが邪卒を倒している。ただ全体的に魔法レベルが『15』以上の生活魔法使いは少ないので、問題になっているそうだ。


 その事を重要視した魔法庁と賢者たちは賢者会議を開くと決定した。


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