第730話 白い中ボス

 一層の草原ではゴブリンやオークと遭遇した。とは言え、天音と千佳は一撃で倒したので、何の障害にもならない。


 最短ルートで一層から四層までを攻略し、天音たちは五層へ到達した。この五層は岩ばかりのエリアでゴーレムの棲家になっているらしい。


 その五層を進むと、全長二メートル半ほどのロックゴーレムと遭遇する。

「あたしに任せて」

 天音が地母神の戦鎚を構えて前に出た。使ってみて分かったが、地母神の戦鎚は強力な武器だった。ロックゴーレムくらいなら、普通に叩き付けただけで仕留められる。


 周りに振動が伝わるような足音を響かせて近付くロックゴーレム。天音はロックゴーレムが発生させる騒音に眉をひそめながら、そいつの膝に戦鎚を叩き付けた。ドガッと音がしてロックゴーレムの膝が壊れると、岩の巨体が大きな音を立てて倒れる。その頭に向かって、地母神の戦鎚を振り下ろす。


 それがトドメの一撃となった。それを見ていた千佳が納得したように頷く。

「さすが神話級メジャーの魔導武器ね。【重撃】を使い熟せるようになったの?」

 【重撃】というのは、地母神の戦鎚が持つ重さを制御する能力を使った攻撃で、戦鎚を振り下ろした瞬間に重さを最大六トンにまで増加させて攻撃する技である。


 この【重撃】を使えば、高い防御力を誇る蒼銀ゴーレムでも倒せると天音は思っていた。

「使い熟すというレベルはまだだけど、何とか使える」

「それで威力は、どんな感じ?」


「そうね。二トントラックがぶつかったような感じかな。しかも、重さが一点に集中するから、防御力が高い魔物でも押し潰せるほどの威力が出る」

「それじゃあ、アイアンゴーレム、いや、蒼銀ゴーレムでも仕留められそうね?」


 天音が頷いた。

「千佳の天照刀も、凄い切れ味じゃない」

 そんな事を話していたからだろうか。またゴーレムと遭遇した。今度はアイアンゴーレムである。


「今度は、私が倒す」

 千佳が天照刀を抜いた。オリハルコンで作られた天照刀は、鋼鉄さえ切り裂く刀だった。ガシンガシンと金属音を響かせながら迫るアイアンゴーレムは、ロボットのようだ。


 千佳は己の心にある恐怖を制御し、波一つない水面のような平常心でアイアンゴーレムを見詰めた。千佳が最近修業しているのは、如何いかにして平常心を保つかという心の修業である。


 グリムに相談すると、『鋼心の技 奥義』に精神を鍛える方法が書かれているというので、その方法で修業している。その成果が戦い方にも反映されているのだ。


 アイアンゴーレムの動きを見切った千佳は、普通に歩くようにアイアンゴーレムに近付くと、攻撃して来る鉄製の腕を掻い潜って天照刀を鉄製の胸に向かって振り抜いた。次の瞬間、千佳が後ろに跳んだ。すると、アイアンゴーレムの胸に切断された傷が生まれ、その切断面から上がずれて地面に落下した。


 頑丈そうだったアイアンゴーレムが真っ二つになって地面に倒れた。それを見た天音が拍手する。

「お見事……一撃で仕留めるなんて凄い」

「ゴーレムは、動きが遅いからできる事よ」


 この二人にとって、ロックゴーレムやアイアンゴーレムは雑魚だった。五層を問題なく攻略して六層、七層、八層、九層と進み、十層に到着する。十層の草原を中ボス部屋がある丘に向かって進む。


 広い草原の中に小高い丘があり、その中腹に洞穴のようなものがある。それが中ボス部屋に続いているという。


 この十層の魔物はオークナイトとリザードマンだ。『サンダーボウル』と『ブレード』を使って倒し、中ボス部屋に辿り着いた。


「中ボスを確かめてみよう」

 天音が千佳に提案した。

「今気付いたのだけど、支部長に言ってから来た方が良かったかな?」

「でも、普通は事前に中ボスを倒すなんて、報告しないでしょ」


「そうなんだけど、今回はC級冒険者を手配すると言っていたと聞いたから」

「中ボスを倒したなんて、普通は事後報告なんだから、気にする必要はないんじゃない」


 そんな事を話しながら、洞穴の奥へと進む。そして、中ボス部屋の入り口らしいものを目にした。入り口から中を覗いたが、入り口の少し先に大きな岩があり、そのせいで中がよく見えなかった。それに中に霧のようなものが見える。


 二人は入り口から中に入った。大きな岩を避けて先に進むと、霧が濃くなり視界が極端に悪くなる。

「天音、D粒子センサーに切り替えよう」

「分かった」


 天音は地母神の戦鎚を手に持ち、千佳は天照刀がすぐに抜けるようにして奥へと向かう。二人のD粒子センサーに反応があった。


「こいつ、素早い」

 千佳が警告の声を上げた。白い霧の中を中ボスが高速で移動している。その中ボスが千佳に迫り、何かを振り下ろした。気配とD粒子センサーの情報だけで攻撃を躱した千佳は、天照刀を正体不明の中ボスに振り下ろす。


 中ボスが千佳の攻撃を躱した。そいつは身長が二メートルほどで、体形は人間に似ているようだ。ただパワーがあるようで、攻撃に使っている武器が、空気を切り裂く音が力強い。


「避けて!」

 天音が叫ぶと、千佳が後ろに大きく跳ぶ。その直後、天音が『バーストショットガン』を発動し、三十本の小型爆轟パイルを中ボスに向けて放った。


 中ボスにも何発か命中したが、その周囲にも着弾して爆発する。その爆発が霧を吹き飛ばし中ボスの姿を浮き上がらせた。


 中ボスは白いスマートなゴーレムだった。普通のゴーレムが角張ったロボットのような姿なのに、この中ボスは人造人間と言っても良いほど人間に似ていた。但し、真っ白なので人間ではないと分かる。見方によっては、よく出来た石膏像が動いているように見える。


「小型爆轟パイルが当たったのに、ダメージを受けていない」

 天音がちょっと驚いて声を上げた。

「もしかすると、邪神眷属かも。気を付けて」


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